元カノ(?)のビジネスの話!

崔 梨遙(再)

1話完結:2800字

 今は昔、年上好きの僕にしては珍しく、10歳くらい年下の女の娘(こ)と付き合った時期があった。その娘の名は千佳。千佳は僕には理解出来なかった。男友達が多いのだ。そして、男友達の住むマンション(1人暮らし)に泊まったりする。でも、


「何もしてない」


と言う。僕等の世代では、1人暮らしの男の部屋に泊まって、“何も無い”なんてほぼありえない。“何も無い”を信じるかどうか? 答えを探したが、僕の答えは簡単だった。“どっちでもええわ”。


 僕は特に千佳に惚れていたわけではなかった。だが、千佳は僕が千佳に惚れていると思っていたようだ。2ヶ月、毎週会って毎回結ばれて、僕が2ヶ月出張に行って帰って来たら、電話で言われた。


「私、男遊びしてますよ」

「うん、でも、束縛しないって最初に言ってたやんか。今更、何言ってるの?」

「でも、もう別れましょう。その方がお互いに良いと思うので」


“いやいや、そもそも付き合っていたのか?”


 僕は千佳に対する不満が大きかった。まず、僕の前では女であることをサボる。どこかに出かけるときはフルメイク(フルメイクすると美人になる)なのに、僕の部屋に来るときはほとんどノーメイク。僕の前でもメイクしてほしかった。そして、自分が満足しないと、満足するまで不機嫌になる。それから、初めて行く場所をネットの地図で探すのだが道に迷う。なのに僕が通行人に道を聞いたら異様に怒る。僕は千佳に何回かプレゼントしていたが、千佳からプレゼントをもらったことが無い。他にも多々不満があったので、僕は“別れ”を受け入れた。再度言うが、そもそも付き合ってないと思うのだけれど。



 だが、不定期に千佳からの連絡はあった。


「肉が食べたいです」


などと言うのだ。


 “別れよう”と言ったくせに、実際、別れたのに、何回か焼き肉を奢らされた。そのくらいは、まあいい。しかし、“メイク道具がほしいから買ってくれ”、“引っ越ししたから家具をくれ、カーテンも無くて困っている”、“いらないパソコンをくれないか?”等々。千佳は何かあると僕を頼る。勿論、僕はもう千佳とは深い関係ではなくなっている。別れたのだから、そういう行為は一切無い。もう恋人じゃないのだ。なので、単にたかられているだけだった。都合良く使われているだけ。僕は面倒臭くなった。惚れてもいない、恋人でもない相手に貢ぐなんて馬鹿馬鹿しい。



 或る日、また千佳から連絡があった。“ネットワークビジネスの話がしたい”ということだった。僕は前もって言った。


「ネットワークビジネスは数あるビジネスの1つやと理解してる。偏見も無い。否定はせえへん。でも、僕を理詰めで納得させてくれたら話に乗るけど、僕を納得させてくれなければ断るで。要するに、断る可能性が大やで。健康食品やろ? サプリメントやろ? 多分、決まったトークで来るんとちゃうの? “欧米は社会保険も国民保険も無いから医療費が高い。だから病気にならないようにする。それで健康食品やサプリメントが売れている。日本の保険も近い内に5割負担、やがて10割負担になる、だからそうなる前に健康に気をつけよう”、とかやろ? 知人にネットワークビジネスをやっている人が何人かいるから知ってるねん。でも、それやと、いつ5割負担になるのかわからんから僕は危機感を抱かれへんねん。それに、僕は営業マンやから数千万売ってたけど、自信の持てる商品しか売りこまれへんねん。取扱商品は大丈夫? 僕が自信を持てるくらいに良い商品なん? こんな感じやけど、これでも、会わないとアカンの? お互いの時間の無駄にならへん? 千佳は上の人を連れて来るんやろ? その上の人は僕を納得させてくれるの? 大丈夫?」

「スゴイ人やから大丈夫です。会ってください」



 当日、ファミレスに派手な私服の30歳くらいのお兄さんが現れた。イケメンだった。背も高いし、体格も良い。いかにもモテそうだった。


「雅也です!」

「苗字は? 名刺は?」

「雅也って呼んでください」

「まあ、ええけど」


「欧米は社会保険も国民保険も無いから医療費が高いんです。だから病気にならないようにしているんです。それで、健康食品やサプリメントがかなり売れています。日本の保険も近い内に5割負担、やがて10割負担になるので、医療費の負担が大きくなりますよ。だからその前に、病気にならないよう健康に気をつけましょう! ということで健康食品、サプリメントが重要になってくるんです……」


 予想通り、僕が何回も聞かされたトークだった。千佳! どういうことやねん?


「あの……ちょっといいですか?」

「はい、何ですか?」

「いつ5割負担になるのかわからんから僕は危機感を抱くことが出来ないんです、僕にもっと危機感を与えてください。それと、僕は営業で数千万円を売り上げていましたが、僕は自分が自信を持ってオススメ出来る商品しか他人に売り込めないんです。僕が“この商品は良い物だ、売りこんでも良い!”と思えるくらい、この商品の良さを教えてください」


 すると、雅也君は……黙り込んでしまった! 雅也君は打たれ弱かったらしい。


 おいおい、反論してくれよ! 知人にネットワークビジネスをやってる人が何人かいるけど、彼等、彼女等はもっと理詰めで説得しようと頑張ってくれたで! 粘ってくれ、雅也! それとも、同じく健康食品やサプリメントを取り扱う、ネットワークビジネスをやってる僕の知人を紹介しようか? 彼等なら、こんな質問や反論で動じないぞ! 彼等の元で修行するか? 雅也君!


 と、思ったら、何故か千佳が大笑いし始めた。僕を笑ってるのか? 雅也を笑ってるのか? わからない。とにかく大声で笑っていた。おいおい、こんなことになったのも、お前のせいだぞ、千佳! 千佳は、“崔は自分に惚れてるから、自分に従う”と思っていたのだろうか? きっとそうに違いない。僕が千佳に惚れていないことを見抜けないとは……千佳はまだまだ未熟者だと思った。



 結局、雅也君は黙り込んだままになってしまったので、解散になった。それから、ようやく千佳からの連絡は来なくなった。きっと、イケメンの雅也君と仲良くやっているのだろう。千佳から解放されて、僕はスッキリした。ちなみに、その時も忙しくて、どんな美味い話だとしても、副業を始めるのはなかなか難しかったのだけど。


 僕は去り際に言った。


「雅也さん、営業に向いてると思うで。副業で、どこかの会社で営業やってみたら、どう?」

「俺は、この仕事一筋で生きていくって決めてますから」


という返事だった。



 僕は、自分の周りのネットワークビジネス(主に健康食品・サプリメント)をやっている知人(当時、たまに飲みに行くことがあった)のレベルが高かったことを知った。人によって、こんなに違うものなのか? と勉強になった。雅也君、千佳、頑張れ! 2人の幸せを祈っています。







  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

元カノ(?)のビジネスの話! 崔 梨遙(再) @sairiyousai

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る