夕日朝日の世界征服
くろまにあ
第1話
快晴の空。
雲ひとつない青空を見上げて
眩い太陽を睨みつけるように見上げるが、八月に入ったばかりの陽の光に遠慮はなく肌を焼き付ける。
たまに散歩をしてみようと思うんじゃなかったと、朝日は後悔する。
聞こえるサイレンのような音も、この町で暮らしているのなら慣れたものだが今は不快感が大いに勝っていた。。
「あー、今目開けたら目玉焼きになるかな」
そんな些細な呟きを拾う者がおるはずもなく、朝日は視線を前へと戻す。
コンクリートの地面を削って出来た先に、
青を基調とした、普段であれば目にする機会も無さそうなその格好は、今や国民の大多数が知るであろう象徴のひとつになっている。
――
100年以上も前にこの世界に誕生した職業であるヒーローの一人。
名前はなんだったか。
朝日は頭を捻るが思い出せない。
何とかプリンセスだったか?
「――とうとう追い詰めたぞ!――ピンク! 」
「ああ、そんな感じの名前だったな。ん?」
聞こえてきた声に反応するが、それは朝日の疑問に答えた声ではなかった。
続くように破壊音が響く。
そちらへ視線を向ければ、街の一角を破壊する翼と角の生えた整った顔立ちの男と赤いドレスの少女が戦っていた。
「迷惑な連中だな」
人の事は言えないけど、と自嘲気味に朝日は青いドレスの少女に近づく。
軽く見渡すが、怪我らしきものは見えない。
少女のドレスも余程頑丈な素材なのかコンクリートを削る衝撃でも破けたりしている様子もなくほつれすら無い。
ここで捨て置いても、死にはしないだろう。
だが万が一があれば。
それは何だか目覚めの悪くなりそうな想像であった。
「仕方ない。連れてくか」
朝日は片手で魔法少女を抱え、戦いの音が響く方向とは逆の家へ向かっていった。
とある民家の地下に建造された空間。
近隣の土地をも巻き込んだ違法建築の塊のようなそこは、かつて名の知れたとある組織の基地として活用されていた。
だがそれは昔の話。
今ここを使っているのは少年――夕日朝日ただ一人だ。
『で、持ち帰ってきたんですか?』
朝日の視線の先に浮かぶ球体が、呆れたような声音で話しかけてくる。
球体の
すぐに球体から滑らかな発音で女の声が聞こえてきた。
『ブルー。1年ほど前から活動している企業ヒーローですね。なんでも妖精の力を借りているとか』
「へ〜、詳しいな」
『ネットに繋いでくれればもっと詳しく情報を提供出来ますよ』
またしても球体の声音が皮肉を言うような声になる。
それに対し朝日は、慣れたようにキッパリと答えた。
「うちにそんな金はない」
球体がはぁとため息をつく。
それよりも、と朝日は球体に訊ねた。
「その妖精の力って上手いこと抜けたりしない?」
『はぁ……、上手いことってのはもしかして、体を傷つけずにということですか?』
「そう! そゆこと!」
球体が呆れたようにまたため息を吐いた。
『言わんとしていることは分かりますが、恐らく不可能です。そもそも妖精の力なんて不可思議なものを取り扱う技術はうちにはありません』
キッパリとした物言いに、朝日はガックリと肩を落とす。
「んじゃこれどうすんの。せっかく持ち帰ったのに」
『元あった場所に返してきなさい』
犬や猫じゃないんだから、と朝日は少女をここに来てようやく近くの台に下ろす。
騒がしい朝日と球体の会話にも、目を覚ます気配がない。
『もし、彼女――ブルーの安全を一切考慮しないと言うのならば可能だということも伝えておきます』
平坦な球体の声に、朝日は少女を見る。
歳の頃は朝日と同じ15か16だろう。
整った顔立ちをしているが幼さも残っており、高校生がするには些か少女趣味がすぎる格好とはいえ無理矢理感がない。
この少女を素材にすれば、さぞかし良質な
それこそ、あの場にいた翼と角のある男のように。
「そういうのはもうやらないと言ったろ」
『了解しました』
球体も朝日の返事を予測していたのだろう、引き下がることなくふわふわと飛んでどこかへ行った。
「――そう上手くはいかないな」
はぁ、と今度は朝日がため息を吐く。
少女はまだ目は覚まさない。
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