第14話

 照りつける……とまではいかないが、そこそこの暑さを感じさせる太陽。かつては秋の季語として知られた運動会もとい体育祭。本校では春だか夏だかよくわからない時期に行われていた。近年の異常気象とも言える暑さを考えれば時期がずれるのも仕方がないが、どうも紅葉のなさが寂しい気もする。これは古い価値観なのだろうか。


「いよいよだな、世良町。頑張ろうぜ!」


 そんな黄昏れと面倒臭さ、その他諸々乗り気でない僕とは対照的に、隣でやる気満々な表情を見せる國代。その姿が眩しく見えるのは決して自分にない青春っぽさのせいではないと思う。思いたい。


 しかし、普通に考えれば多少なりともやる気が出でくるものなのだろう。実際、グラウンドに広がるテントや忙しなく器具などを運ぶ生徒、声出しをしている応援団なんかを見ると非日常感、いわゆる祭りの高揚感というものを掻き立てられるのも無理はない。あまり気分が乗らない僕でさえ感じるところがあるのだから、熱心に準備してきた者は尚更だろう。少なくとも、周りの足を引っ張ったり、気分を害したりすることは避けなければと思う次第だ。


「僕の種目まだだから日陰に行っとくよ」


「そうか。じゃあまた後でな!水分しっかりとれよー」


「おう、そっちも怪我だけ気をつけてな」


 國代はこれから二人三脚だったか。と言ってもただの二人三脚ではなく、走者が後になる程三人四脚……というように増えていくやつらしい。最後は7とか8人になるのだとか。そんな人数になったら真ん中怖いどころの話じゃないな。真ん中の人はやりたくてやってるんだろうか。コケたらなんの抵抗も出来ず地面とキスだと思うんだけど。


「みんな日向で応援してるのに呑気に日陰から鑑賞かい?」


「……そういう先輩も日陰にいるじゃないですか。それに応援してないわけじゃないです」


 チームの勝敗は正直どうでもいいと思っている節があるが、少なくとも國代には勝ってほしいと思っている。……って。


「なんでここにいるんですか。ここ2年生のテントですよね」


 いつの間にか隣に腰掛けていたのは早水先輩だった。


「風紀委員の見回りみたいなものだよ」


「はあ」


 今時は体育祭でも風紀委員の仕事があるらしい。まあ、人々のテンションが上がりやすいイベントでトラブルはつきものだ。近年のハロウィンなんかは魔境と化しているし、体育祭と言えども警戒するに越したことはないのだろう。……それが風紀委員の仕事なのかどうかは疑問が残るところではあるが。


「……見回りならしっかり仕事した方がいいんじゃないですか。呑気に腰を下ろしてるなんて職務怠慢でしょうに」


「……」


「早水先輩?」


「……君を見かけたから話に来たんだ。察しろ」


 そう言ってプイと顔を逸らす早水先輩。え、何。僕を見かけたからわざわざ?風紀委員の仕事とかすぐバレる嘘までついて?


「先輩見た目に反して可愛いってよく言われません?」


「なっ……かっ可愛いなんて……」


 顔を真っ赤にし、その顔を覆うように腕を前に持ってくる早水先輩は年相応……むしろ少し幼く見える。いつもクールでカッコいい雰囲気で、頼り甲斐のあるような人だとあまり可愛いなんて言われ慣れてないんだろう。しかし、この空気は些かむず痒いというか身を捩りたくなるというか……話題を変えよう。


「ところで先輩、同じ白軍なんですね」


「同じってことは君も白か。鉢巻巻いてないから分からなかったぞ」


 さっきまでは開会式もあったので僕も鉢巻を巻いていたんだけど、今はとっている。あれが汗を吸うと大変気持ち悪いので、極力頭につけている時間を減らそうという考えだ。


 ちなみにうちの学校は紅白対抗である。他の学校では紅、白、青、黄みたいに複数の色で優勝を競うところもあるらしい。実際、「優勝」という響きは1対1よりも複数のチームがあった方がしっくりくる気はする。


「もう巻いて気合を入れたらどうだ?」


「あまり乗り気じゃないです」


「それ人が集まったところでは言うなよ……」


 呆れた顔でそういう早見先輩に僕は答える。


「心得てます」


「本当かい?」


「一所懸命な生徒もいるんです。乗り気じゃないにしても、わざと手を抜いたり、場にそぐわない発言をしたりしない程度の良識はありますよ」


「大事な能力だな」


 そう言ってニカっと笑う早水先輩。その笑顔が爽やかで先ほどまでとは異なり格好良さを感じさせる。清涼スポーツ飲料のCMとかに出てても違和感がなさそうだ。


「それじゃあ、代わりと言ってはなんだけども肉体労働はいいから、少し頭を働かせてくれないか?」


「……はい?」

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