『純潔』暴く角付き青年~暴いた結果、僕は王族になりました~

荒川馳夫

第1話

 卓を挟んで向こう側に座る男が苛立っていた。


「おい、早く結果を!」


 彼の催促も今ので三回目。

 結果をすぐ知りたいという気持ちは分からないでもない。

 でも、僕の額にある角は裁きを下したくないらしい。


 まるで、あなたの隣で震えている娘さんを守ろうとするかのように。


 そんなことを考えていると、ようやく結果が出た。

 額の角が反応したから間違いない。

 あなたの娘さんの血液が、純潔ではないことを証明してくれましたよ。


 のが、その証拠。


「ご主人。これが私の角が下した『純潔診断』の結果――」


 僕が相談相手である男――海外から僕の元を訪れた領主だ――に鑑定結果を告げ、そして診断料を請求しようとする前に、彼は自分の娘に平手打ちを食らわせていた。


「この馬鹿娘! 婚約する前に私の知らぬところで、どこぞの馬の骨とも知れない男と寝たのだな!」

「ぱ、パパ! お願い! 話を聞いて!」


 しばらくの間、僕の眼前で親子喧嘩が展開された。父が娘を容赦なく折檻し、娘は父に弁明しようと必死になっている場面が。


「あ、あの、ご主人。料金を」


 これ以上我が家で暴れられても困るので、僕は相手の機嫌を損ねるのを承知で料金を請求した。すると次の瞬間、僕の眉間みけんに小包がクリーンヒット。


「ありがとよ。! ふんっ!」


 小包は僕の眉間から床に落ちると金属が擦れ合う音がした。なるほど、この中に『診断料』が入ってるってことね。娘が生娘きむすめではなかったことの証明料が……。


 ドスドスと足音を響かせて男は出ていった。その際に手を引かれていく娘が見せた素顔――アッカンベーする彼女の姿を、僕はこれまでに何度見てきたことか。だが、慣れてしまった僕はそんな顔をされても動じなくなってしまっていた。


「ありがとうございました」


 一応、僕は家の門口かどくちまで行き、二人に型通りの挨拶をした。返事はなかったがこれも日常茶飯事。気にすることはない。


 日差しの当たる場所にはいたくなかった。

 僕は足早に家の居間へと引っ込んだ。

 村民に見られたくなかったんだ。


「はぁー……」


 一人になると僕は嘆息した。


 自分が持つ特殊な力が、一方では自分を裕福にし、他方では世の女性を不幸にしていることに罪悪感を感じずにはおれなかったから。

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