消えた家族
天川裕司
消えた家族
タイトル:消えた家族
「…ええ、確か男の子がホテルから出て行くのを見たような気も…」
「え?そんなことあったんですか」
「あの日は結構人が多かったんで、そんな事いちいち注意して見てませんから…」
警察1「手がかり無しか」
警察2「諦めずにやってみましょう。必ず証言者からヒントが得られるかと思います」
警察1「……」
ホテル支配人「これが当日の宿泊名簿です」
警察1「ふむ…」
ホテル支配人「いかがでしょう。少しはお役に立てますでしょうか?」
警察1「や、ありがとう」
ホテル従業員「でもなんだってそんな遠い区域に住んでる家族の失踪が、このホテルに直接関係してくるんです?」
警察2「ああすみません。この界隈で男の子を見たと言う証言がありましたので」
ホテル従業員「そうなんですか。…でもそんなのが直接的な証拠に?」
警察1「なりにくいのは重々承知しておりますが、なにぶん当日の事でしたので」
ホテル従業員「失踪した、と言うその当日ですか?」
警察2「ええ」
ー真相ー
ある日、
このホテルに母親と子供の2人連れが訪れていた。
しかし母親はホテルに着いた途端
体調を崩してしまい、薬を買ってくるようにと
息子に頼んだ。
失踪当時、この息子はまだ8歳。
つまりそれだけ母親の身に
切羽詰まっていたことも分かる。
そして息子が薬を買って
ホテルの部屋へ戻ってみると、
母親は忽然と姿を消していた。
ホテル従業員「まさかあの母親、子供を見捨てて逃げたんでは…」
そんな証言もまことしやかに得られたが、
実際はそうじゃなかった。
当日のホテルの宿泊名簿。
これが改竄されていたのだ。
つまり帳簿で言えば二重帳簿の形を取り、
名簿は2つ用意されていた。
当然、前の名簿は焼却されている。
これが分かったのはそれから数年後の事。
警察1「あのオーナーか従業員だな」
警察2「ええ、まだ分かりませんがおそらく」
その名簿の事が分かった理由は、
そのホテルの常連客だった或る男性からの証言。
名簿に傷があったのを覚えており、
新しく変えられた名簿があったのを確認できた。
そしてその名簿が変えられたのが、
あの家族が失踪した翌日の事。
タイミングとしてバッチリだったのもあり
警察はそこに目をつけ、さらに詳しく調べた。
もちろんホテル側には知らせず極秘の形で。
すると、これがまさに奇跡的だったが、
焼却炉の後ろ側に古い名簿の燃えかすが残っていた。
上の煙突から落ちてそこにあったのだ。
燃え尽くされていなかったその破片は
それでも焼却炉の加熱で灰に近くなっていたが
原形をなんとか留めており、
熱風で空中に舞い上げられるほど
軽くなってはいたが、その色や材質は
確認できる程度に留まってくれていた。
その破片の部位が、ちょうど名簿の表紙の
あの傷のついた部分だったのである。
なぜ名簿が焼却されたのか?
この事件解決のヒントはここ。
その真相はホテル側として
知られたくない過去があったから。
そのホテルは外観が美しかったが、
唯一、市内に住む人々にとって欠陥だったのが
かなり郊外にあったこと。
そのホテルには前々から少し
ダークな噂も流れていたと言う。
ただの噂だったが、
これに着目した警察の視(め)は良かった。
それからホテルは閉鎖。
かの「パリ万博奇譚」に似た話だと、
界隈ではもっぱらその噂でもちきりだと言う。
動画はこちら(^^♪
https://www.youtube.com/watch?v=SrYz1_2xJ_U&t=63s
消えた家族 天川裕司 @tenkawayuji
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