モブ兵士である僕の初陣は魔王軍との最終決戦?!~何回死んでも勝てません~

コパン

第1話 モブ兵士、異世界に爆誕する。


 異世界に転生して早15年。


 元の世界のことは、語ることはあまりない。


 そこそこの生まれ、そこそこの学校に入り、そこそこ人生を謳歌していた。


 そこそこ友達もいたし、家族の関係もそこそこ良かった。


 でも、本当に少しの運の悪さで死んだ。


 トラック転生などと言う言葉もあるが、まさか自分がそれを体験することになるとは当時の僕は露ほども考えていなかった。


 痛みも無く、あまりにもあっさりと意識が消失したこともあり恨みのような感情もそれほど湧かなかった。


 まあ、何してくれてんだよとか、気になってた漫画やアニメの続きが見れないことや、決して仲も悪く無かった両親よりも先に死んでしまったことは申し訳ないし、悔やまれたが…。


 ちなみに転生の際、特に神様とか上位存在のようなものにも会わなかった。


 本当に気づけば赤子スタートである。


 生まれた先は農家の三男坊、決して裕福ではないがとにかく食べるものにも困らない家、優しい両親の元僕はすくすくと育ちましたとさ。


 もちろん、異世界転生だしワクワクもした。

 

 何よりもこの世界には、僕が元いた世界においてファンタジーと呼ばれる世界そのものだったからだ。


 剣と魔法の世界。


 恐ろしい怪物も、物語のような英雄もいる世界なのだ。


 この世界についても少しだけ話しておこう。


 今から三百年ほど前、この世界で、おとぎ話の中だけだと思われた存在、魔王が突如現れ世界に侵略を宣言した。


 そこから長い間戦いが繰り広げられた。

 人々は攻め込まれ、劣勢になりながらも、各種族で手を取り合い、抗い、そして押し返してきた。

 そして最初の始まりから今、歴史に刻まれる最終決戦が開かれようとしていた。


 勇者、剣聖、賢者、聖女、過去最高の戦力が揃い、ドワーフ、エルフ、獣人などの多種族の協力もあり、質の良い武具や道具の数々が作られ、準備を整えた。

 この先に勝利と、明るい未来があると皆が信じていた。


 僕もその一人だ。


 転生した僕は、異世界おきまりの成り上がりを夢見て、剣にも、魔法にも励んだ。


 村で一番剣が上手くなり、魔法もいくつか習得できた僕は、兵士として志願しこの最終決戦に参加している。

あわよくば名を挙げて、英雄と呼ばれたい。そうした思いもあったからだ。


 ただ所詮は村一番。


 合流し、世界から様々な人達、多くの種族が集結する中で、僕よりも強い人なんていくらでもいた。


 そもそも、この何百年で実戦を乗り越えた人たちが大勢いるのだ。


 チートも何もない、ただの村一番の剣士。


 その程度の人材は、軍の中でも掃いて捨てるほどいたのだ。


 訓練の中で自分の中にあった自信はあっさりと砕けた。


 そう、僕はあくまでもその他大勢の一人。


 ただのモブ兵士にしかなれなかった。


 それでも、できることを積み重ね、自分もこれからの未来を作る礎となれれば、少しでも力になれればと、その気持ちで必死にくらいついた。


 異世界転生しようが、もうここが僕の生まれた世界である。


 人類はようやく拮抗状態に持ち込んだとは言え、いつ崩れてもおかしくないのが今の世だ。


 だからせめて、この世界で生きてきた年齢も、前の世界で死んだ自分の年齢とほぼ変わらないものにもなった。


 僕にとってこの世界が、生きる地なのだ。


 訓練が終わり、前線から少し距離はあるものの、僕が所属する部隊も配置についた。


 魔王軍の拠点は、広大な草原地帯の中央にある。


 僕たちがやることは単純だ、軍勢をもって魔王軍を攻め、進み、その先にある魔王城に辿り着くこと、そして各地で戦う各種族最高峰の強さを持つ、勇者、賢者、剣聖、聖女を最終的に魔王の下へ送り込むこと。


 僕にとっては初陣だけど、これが魔王軍との正真正銘の最後の決戦となる、歴史に残る戦いとなるだろう。


 刻一刻と迫る開戦の気配を感じながら、僕は少し震えた。それが恐怖なのか武者震いなのかは分からなかった。


 その気持ちを抑えるため、腰にある剣に手を添える。

 末端の兵士である僕にも、ドワーフが打ったミスリル製の剣がある、頼もしい鎧がある。

 

 剣だけでも、貴族の家宝になってもいいレベルだ。今回の戦いでこの質の武器と防具が沢山作られたので、相対して価値は落ちるだろうが、生きてこの戦いを終えられればそのまま支給され、個人の物となるらしい。


 今から戦いの後のことを考えるなんて、そう自嘲気味に苦笑すると、後ろから肩を叩かれた。


「どうしたんだよアスク」


 振り向けば、そこには快活な笑顔を浮かべる仲間の一人、癖っ毛の赤髪が特徴の、僕とそう年が変わらない、少しだけ僕よりも背の高い少年がいた。


 彼の名前はオリバー。


「なんでもない、ちょっと考えことをしてただけだ」 


 僕が村一番の剣の使い手なら、彼は町一番と言ったところ、何を隠そう僕の自信を最初にこなごなに打ち砕いた一人だ。


「そっか、ならいいんだ。てっきり初陣にびびってるんじゃないかと思ってな?」


「誰がだよ」


「はは、ま、大丈夫そうならそれでいいんだ。頑張ろうぜ、お互いに」


 面倒見もよく、コミュ力も高い彼だ。


 おそらく、僕の雰囲気を察して気を使い、話しかけてくれたのだろう。


 行軍中だ、この軍が多種族混合で比較的規律は緩いとは言え、あまり行軍中に私語をしていては怒られる。


 僕は改めて前を向いた。


 僕の少し前には、ヴァン隊長が歩いている。


 刈り上げられた黒髪で20代後半くらいだろうか、実年齢は知らないし、見た目は人族でも、血の混じり方で全く変わってくるからあてにならない。


 身体は細いが、剛柔合わせた剣を使うこの人は、なんと王都の近衛騎士団にも所属していたとか。


 無表情であまり感情も出さないけれど、時に厳しく、優しく、そして強かった。

 いつかこの人のような存在になれればと、僕の剣の目標だ。


 あれは訓練を兼ねた小規模の魔物討伐の任務の時だった。


 突如現れた高位の魔物と一騎打ちし、見事討ち果たした時のことは記憶に新しい、   

 屈強な1つ目の魔物を最後は縦に真っ二つにした剣の軌跡は、僕の瞼の裏にいつもある。


 あの一振りこそが目指す道だった。


 頼もしい仲間がいる、憧れる人もいる。


 目標もある。


 勿論、生き残れる保証はどこにもない。


 それでも、きっと乗り越えられる。


 僕はそう信じて剣帯の位置を直した。


 そのタイミングで、各地に配置された魔術師による、花火のような魔術が打ち上げられ、開戦を知らせてくれた。


 透き通るような青空に、それでも分かる魔術が色とりどりの線を描いて吸い込まれた。


 「いよいよ始まる…」


 腰の一剣と共に、生き残って、そしてこの先の未来を生きるんだと。

 そう思い、願った。


 だけど、僕の感じていた不安も希望も、そのすべてを飲み込む絶望は、その口を開けて待っていたのだ。




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