赤い服の女の子②

 本社から来るまでに十分の距離。

 中心市街地からも離れていない場所だ。こんな区画があったのかと思うような場所だ。古い木造の小学校。石造りの門に錆びたゲートが傾いている。真新しい虎ロープが立ち入り禁止看板をぶら下げている。うちの会社が着けたんだ。だがこの校舎に入った心霊マニアも廃墟マニアも帰ってこない。少なくとも僕らが救出するまでは。何人も名古屋で行方不明者が出ている。市内での目撃情報を最後に。付近の防犯カメラにこの廃墟区画に向かう車があれば、まずは家の会社に警察から捜索願が出る。一応持ち主が居るからね。名古屋市教育委員会。廃校になっても持ち主は教育委員会だ。

 先輩は俺にお神酒を掛けた。そしてさかきで身体をポンポンとする。

 「口に盛塩をひと掴み含むんだ。魔除けになる」

 「はぁ……」

 状況が呑めずに言われた通りにした。土木会社も運送会社も神事に安全祈願するからそういったものなのかなと思った。

 俺は校舎に向かう。だけど足音は俺のしか聞こえない。

 「あれ? 先輩!?」

 慌てて振り向いた。

 「すまないが校舎には一人しか入れない。俺は敷地の外で待っている」

 「一緒に来てくれないんですか!?」

 「ここは大人数で入るとリスクが増す。心配すんなこれでも神主の孫だ」

 「いや、結構遠いっすよ」

 「俺はどことなく現れる寺の息子じゃないんだ。それに幽霊分野や怪異の分野は本来は神事の領域だ。寺はそういった文化が本来はない。大丈夫一応専門だ」

 「何が専門なんだか。へんな会社に来たもんだ」

 まぁ、良いか給料良いし。


 校舎の中は廃墟として当たり前だがホコリっぽくって空気が巡回してないから息が詰まる感じがした。

 懐中電灯を点けた。ライトの先にホコリが舞っているのが見える。懐中電灯はアメリカの警察のように取っ手が長く、頑丈で警棒のようにも使える。顔の高さ、偏り上に上げている。いざというときは警棒に使える。でも、そういうのはあくまで正当防衛ですぐに逃げろがマニュアルだ。日本の警備員は戦わない。ドロボーを見つけても警察に通報するだけ。下手に抵抗して過剰防衛になったら裁判で不利になる。日本は暴力は正当防衛でも不利になる国。

 だから戦争できないし、させられるんだ。

 幸いまだ起きてない。

 でも、いつかそうなるんじゃないかと思う。

 「誰か居ませんか?」

 

 シーン


 誰も居ないか。

 そりゃそうだ。こんな不気味な廃墟。誰も来たがらない。それでも、稀に入る人が居る。


 短期バイト者マニュアル

 ① 廃墟区画、旧九番小学校の残留物は持ち出し厳禁です。校舎の外へも出さないでください。

 ② 構内で人にあった場合、来訪目的と身分証の確認をお願いします。その後速やかに校外へと保護してください。すぐに本部の者が保護します。抵抗された場合、危険ですので無理に保護せずすぐさま逃げてください。その際、業務は終了となりますので本部に報告後、こちらからご自宅まで送迎いたします。

 ③校内で赤い服の女の子を見つけた場合保護してください。

 上記のマニュアルは最低限護ってください。身の安全のためです。初日は先輩が同行いたしますので指示に従ってください。


 簡単に書かれたマニュアル。何かを隠している感じだ。

 闇バイトじゃないよな? そう疑い始めた。

 俺は昇降口から廊下に出て、玄関扉に向いた? ん? 俺はすぐに廊下に出たはずだ。なんで? 振り返る。そして廊下に出た。こんどは視界が逆さまになった。気づく瞬間すぐに床に落ちた。

 「いて!」

 どうなってんだこの学校は!!

 悪態をつきながら起き上がろうとして妙な違和感を右足に感じた。何か掴まれている感じ。それも強くではなく、確かに掴まれているけど弱くという感じ。見ると女の人の手があった。意外と血色の良さそうな手だった。そして綺麗だった。手の先は見えない。手首から先が初めから無いように、当たり前のように手首までの手だった。

 その手を見た時、恐怖とかそういう感情はなかった。鈍感とかじゃない。心では瞬時にそれが何かを理解しているけど、脳がそれを否定していた。ありえないと。だから、自分でも不思議だけど子どもの手だと思った。今思うとあれは大人の女性の手だった。それに子どもだとしても何処に居るんだ。そう、そうやって次第に理性的な ”ありえない” 結論に順番にやっていく。頭が心の答えに辿り着いた。

 そうなると急に怖くなった。

 でも、手も俺の心が分かるんだろう。分かった時に手はすっとひっこんだ。下には床板しか無い。そこに引っ込められる空間はない。何処に消えたんだ。

 俺はとりあえず走った。廊下の端まで。とりあえずあの場所よりはマシだった。突き当りで俺は倒れるように壁に寄りかかった。

 「何だよ今のは」

 怖いといえば怖い、不気味だし、恐ろしい。だけどありえなさすぎて脳が現実だとまだ思っていない。ありえなさすぎて夢だと思っている。

 それくらい異常の体験をあと六日続けるんだ。

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