CHERRYー彼女が狩人になった理由ー

彩心

プロローグ

 「今日も暑いな……」


 家を出る前に見た天気予報では、今日の最高気温は39℃らしい。

 今は昼前だがもうすでに暑く、ただでさえイライラしているというのに、そこにせみの大合唱が加われば更にイライラが増した。


 ふと1年前のあの日もこんなに暑かったなと嫌な記憶を思い出してしまい、息が上手く吸えなくなった。


 あの時の男達の笑い声に混じって聞こえる蝉の声、冷房をつけているのに熱い体温にその場の匂いまで、五感で感じた全ての記憶が鮮明に脳内で蘇る。


 ハァハァハァと息はより荒くなり、首元をガリガリと掻きむしってしまいたい衝動にかられる。

 ちゃんと空気を吸っているはずなのに息苦しくて、悪循環なのは分かっているが更に空気を吸ってしまう。


 手や足がブルブルと小刻みに震えだすと立っていられなくなり、その場にしゃがみ込みこんだ。


 いつもの軽い発作とは違い、今日の発作はひどい。

 手の指が固まってしまう前に早く薬を飲もうと鞄の中を漁る。


 苦しくて涙が出てきて、視界はぼやけているが薬の入ったポーチと水の入ったペットボトルを何とか取り出した。

 小刻みに震える手で薬を口に放り込むと、水でそれを流しこんだ。


 これで大丈夫と安堵して、落ち着いて深呼吸を繰り返す。


 大丈夫大丈夫大丈夫。

 後1年……雅、もう少しだけだから頑張るのよ。


 私が死んでも、1人でも多くの人の記憶の中に私は存在したいから。



 

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