トラジャの祭り「マネネ」
Hugo Kirara3500
もっと体に気を使っていればよかった……
私のカンだともうすぐあの日々がやってくるわ。この山奥の村で毎年ある有名な祭り。ガチャッという音がしたので私たち親戚一同が入っている小屋のドアが開いたみたいだわ。まだ暗闇の中だから詳しくはわからないけど。そして私が入った箱が地面に置かれたので外に出されたみたいだわ。私が四十歳目前でがんで倒れてこの小屋に入れられてからこれで三回目くらいかな。
しばらくして私は親戚二人がかりで箱から出されてその横に寝かせられたわ。久しぶりの陽の光だわ。おじいちゃんおばあちゃんが入っていた箱は装飾されて派手な大きくて赤いかまぼこ型の箱。そして比較的若かった私が入っていたのはふたに十字架が張られて横に「最後の晩餐」の絵がプリントされたそれよりも小さめの白くて四角い箱。まず刷毛で体の上についたホコリや汚れを落としてもらったわ。顔から脚までササッとホコリを落としてもらったときは結構さっぱりしたわ。そして箱の中にいる間にシミが付いてしまった服を着替えさせてもらっていい気持ちになったわ。そしてもちろん、すっかりぼろぼろになったおじいちゃんのスーツやおばあちゃんのワンピースも新調させてもらったみたいだわ。
そして私たちは十人くらいまとめて親戚たちに以前住んでいた家の壁に立てかけられたわ。そして近所の村人たちが続々とやってきて声をかけたりしてくれたわ。おじいちゃんたちにはタバコをくわえさせたりしていたわ。私は嫌だけど。とある通行人が面白半分で私の前に手鏡を出したわ。私は茶色く古ぼけたアンティーク人形のような見た目になったみたいだわ。虫来るな、カビつくなと念じた効果はあったのかしら。ただ乾燥してまぶたは開いちゃったし腕はしわしわになっちゃったけど。でも、かさかさのいかにもミイラって感じになっていたり、カビて鰹節みたいになっていたり、もうほとんど骨だけになってしまった村の人も結構いたのでこの中では幸せな方だと思うわ。
夜になると私は家の中に運ばれて南側の部屋に寝かせられるわ。倒れたときにも思ったけど、久しぶりの恋しい家だ!と思ってもこの部屋に寝かせられる日がこんなに早く来るなんて。もちろんこの部屋は特別な意味を持っているわ。
この時期になるとこの山奥のひなびた村にヨーロッパあたりからの外国人観光客たちがバスでやってきて、私たちを物珍しそうに見ていたわ。村の風景や珍しい家だけではなくて私たちの写真を撮ったりもしていたわ。そんな観光客たちを妹が英語でガイドしていたわ。私もしゃべれて村に来た彼らと話したこともあったけどねえ。その時私は見る方だったけど、まさか何年もしないうちにこんなふうに見られる方になっているとは夢にも思わなかったわ。それから私たちの紹介動画を作るつもりらしい地元のユーチューバーもやってきたね。彼が動画を撮っているときにも観光客が通りかかったから動画には地元の言葉と英語が一緒に収録されるのでしょうね。もしかして私はこの姿で全世界に知られて有名になっちゃうのかしら。
そして祭りの最後の日が来て妹に担ぎ上げられてスマホでツーショットを撮られたわ。次に可愛いいとこと一緒にね。それが終わったら私はまたみんなと一緒に箱の中に寝かせられてふたされて暗闇の世界になってまたあのイエス様の絵が表に張られた小屋の中に戻されたわ。またみんなと会える次の祭りの日まで。そして落ち着いたら私は思った。私たちの小屋が突然開いて新入りさんが来るのはやっぱり悲しいわ。すっかりこの小屋の住人になってしまった私から言うのもなんだけどね。特に若いと。村人たち、特に若い人たちに言いたいけど私みたいにならないように、お金も時間もかかるかもしれないけどなるべく街の病院で定期的に検診受けてね。私からのせめてものお願い。
トラジャの祭り「マネネ」 Hugo Kirara3500 @kirara3500
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