第24話 義父と息子のブルース
俺は魔獣群帯でソジュンのバニシング指導をした。最初はイメージがつかないのか、俺の教え方が悪いのか全くできなかったが、そもそも高レベルである。やがて自分なりのコツを掴んで使用できるようになった。
俺がやったように、まず小物の魔獣を近場に飛ばすところから始めた。それから徐々に魔獣の数と大きさを増やしていった。レベルも90を超えた。こいつはすごい。
「さすがツアレが見込んだ男だな。お前はすごいよ。じゃあ最終試験だ。バニシングによる自分の瞬間移動だ。これは俺もできるようになるまで苦労した。コツは服に術をかけることだ。やってみろ。」
ソジュンは素直に術式の実行をしたが、服だけ飛んでいって裸になってしまった。
「いや、面目ないです、お義父さん。」
「最初はそんなもんだ。とりあえず服を着ろ。」
ふと、竹下を思い出した。竹下は瞬間移動を教えなくても勝手に習得していた。改めてあいつの頭の良さに恐れ入った。
「それだけだと自分そのものを移動させることができない。服と肌の間の空気を移動させることを意識するんだ。もう一度やってみろ。」
繰り返すこと3度、ソジュンは瞬間移動に成功した。
「よくやったな!」
俺達はハイタッチをした。ソジュンは竹下と違い従順だし俺への尊敬の念も持ってくれている。気分がいい。
「よし、じゃあ魔王城帰る前にどっかで酒でも飲むか。お前、魔王領域から出たことあるのか?」
「いや、ないですね。」
「じゃあ社会科見学だな。俺に掴まっていろ。」
俺達はカケル王国まで飛んだ。
「魔神様、どうも。」
「おお、井上くんか。どうも。」
「こちらは私の息子になったソジュンです。」
「息子?」
「あ、娘のツアレと結婚したみたいなんですよ。俺の不在の間に。全くけしからん話です。」
「ハン・ソジュンといいます。魔神様、よろしくお願いします。」
「ふむ。」
魔神はソジュンをジロジロと脚のつま先まで詳細に観察した。
「君は転生者か。転生者の割に造型が完璧だな。僕好みというか女神好みだ。まあいいや。よろしくな。」
魔神様はイケメンは好きじゃないようだな。逆に俺くらいのモブ顔の方が好きなのだろうか。
魔神は言葉をつづけた。
「そういえば先ほど君から預かった3人組が目を覚ましたよ。」
「え、それでどうでした?意識はありますか?化外化してないですか?」
「化外化はしておらず、意識も記憶もはっきりしているよ。なかなか素直な子達だね。死も受け入れたようだ。」
「そうですか。それは良かった。ここで俺が会うとややこしくなるから、魔神様が復興に役立ててくれれば幸いです。」
「ああ、そのつもりだよ。薬学に精通しているから助かるよ。」
その後、俺とソジュン、魔神は連れ立って酒場に行った。酒の種類も味も、昔飲んだ時に比べて大分見劣りしていた。
「復興もなかなか大変そうですね。」
豆のツマミを頬張りながら魔神に相槌を打った。
「まあそうなんだよね。ここの元々の人間は自立心が乏しいし、オリジナリティもないんだよね。昔は『女神の加護』とか言って食糧も空から降ってきていたみたいだし、自分たちで作り出す気概がない。そこが一番苦労しているところだね。それでも現地人だけでこれだけの料理や酒も作れるようになったんだから、僕も大したもんだろう?」
「いや、さすが魔神様です。やっぱり魚の釣り方を教えるのが一番大変ですからね。少しずつ良くなっているのを実感します。」
「逆に魔王領はオリジナリティが溢れすぎてるのが気がかりなんだよなぁ。僕が作っておいて言うのもなんだけど。」
「ははは!たしかにそうですね!ツアレなんか研究に凝っちゃって大変ですよ。」
俺達は夜通し飲んだ。特にソジュンの北朝鮮での生活に魔神は興味を持ったようだった。夜通し楽しく語り明かし、会がお開きになったのは昼近かった。
「じゃあ魔神様、またよろしくお願いします。」
俺とソジュンは瞬間移動で魔王城の門の前まで戻った。門の前ではエマちゃんとツアレが腕を組んで俺たちを睨みつけていた。
「あんた達、今何時だと思ってるの!いつまで遊んでるつもりなの!」
既婚者は辛いなぁ。
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