第7話 Good boys hunting
本国から突如指令を受けたソジュン達は人集めに奔走した。三鷹と西荻窪から10名はすぐに駆けつけるようだ。八王子で爆発した核爆弾の影響で街中がざわめき始めた。今は一分一秒を争う。指示が出たからには早急に行動に移さなければならない。例え失敗してもやらなければならないのだ。最も効果的なのは爆発だ。
「ミンスク!駅が封鎖される前に、トイレにプラスチック爆弾を仕掛けてこい。カメラに写っても構わない。時限装置なんかもいらない。目立つ所にあと一つ置いてすぐ爆発させろ!」
「分かった。」
訓練兵時代、何度も想定したシチュエーションである。多くを語らずともミンスクは押し入れの中のプラスチック爆弾と信管、起爆装置をバックパックに入れてすぐに駅に向かった。
爆破はミンスクに任せるとして、あとは立てこもり拠点をどうするか、だ。我々の目的は明白で、「偉大なる形式主義」だ。とにかく何かやったことが本国に伝わればいい。日本人を殺戮することなんて毛頭考えていない。それに我々は市街戦の訓練はほとんど積んできていない。市街戦を想定して朝鮮戦争時の廃墟での紅白戦は何度も行ったが、ここまで入り組み、建物が林立している場所での戦闘は経験がないし、立ち回り方が分からない。毛沢東戦術主体の我々でできる最も効果的なものは山でのゲリラ戦だ。しかしここは都会のど真ん中。しかし都合のいいことに井の頭公園があった!あそこの林の中に塹壕でも掘ればそれなりの防御陣形を敷ける。
残ったメンバーとソジュンの考えを共有していた矢先、駅の方角で2回の爆発音が聞こえた。ミンスクが爆破に成功したようだ。これで本国への面目が立つ。後は我々の仕業と大々的にアピールし、林の中で籠城戦だ。駆けつけた警察と小競り合いを演出すればほぼ形式主義は完成だ。その後はまた南西側から市街地に潜り込んで散り散りに逃げればいい。ニューナンブしか持っていない一般警官相手に苦戦するとも思えない。
「『Kim Yuna's Parties』じゃ俺達の実績が目立たないな。だから、これを前々から作っておいた。」
そう言ってジュノが横断幕を広げた。「朝鮮義勇軍解放区」。
「爆発にビビった人たちが逃げ去った後にサンロードに掲示しよう。その前にSNSに犯行声明だ!」
外は防災無線がけたたましくなっており、テレビのニュースも核爆発のニュースの合間に吉祥寺の爆発を報道した。吉祥寺の爆発の一報がテレビから流れた時、ソジュン達はハイタッチをした。同志も10人合流し、計20人となった。仕事を終えたミンスクも戻ってきた。人々は西には逃げられないから、南北、そして都心に向かって逃げているようだ。だいぶ外の喧騒も消えた。
「よし、サンロード入り口に横断幕を張りに行くぞ!その後井の頭公園を占拠だ!一応、4人残って拡声器で『朝鮮義勇軍参上』なりなんなりサンロードの中で叫び続けてくれ。襲いかかってくるような奴がいても極力殺すな。脚を撃つなどしてストッピングしろ。」
ソジュン達はカラシニコフを担ぎ、井の頭公園に向かった。公園の入り口の案内所には一人デブの職員が詰めていた。警備員などはいない。
「お前ら、なんなんだ!」
「押し込み強盗です。」
そのデブをガムテープでグルグル巻きにし、口にもガムテープを貼って転がした。池周りの売店にも人がいるかも知れないので対処はしたかったが、人数もそれほど多くないので見送ることにした。
目指すは御殿山の林である。林の中に塹壕を掘り、その中に潜む。脱出用に南東側の民地との境界まで塹壕を掘りたい。16人で懸命に穴を掘った。土自体は腐葉土で軟らかかったが、木の根っこが邪魔をする。しかし、それも想定内だ。持参したチェーンソーでカットしていき、昼過ぎには概ね塹壕と言えるものが完成した。後は警察が来てくれるのを待つだけである。
「暇だな。」
「暇だね。」
YouTubeでニュースを見て、「朝鮮義勇軍解放区」の横断幕が映し出されるのを見て歓喜するのにも飽きてきた。
ふと上空をみると、樹木の間に様々な鳥が巣を作っていた。なるほど、ここはバードウッチャーの聖地だったな。
「おい、鳥でも狩って楽しもうぜ!銃弾は沢山あるし。」
テホが皆に提案した。本国では飛ぶ鳥を落とす訓練をよくやっていた。あの頃は訓練だったから鬼教官が付いていたが、今はいない。純粋な娯楽としてハンティングが楽しめる。
「あ、カワウがこんな所に来てる。俺に任せろ!」
テホはトカレフを手に取ると狙いを定めて撃った。銃弾はカワウに命中した。
「どんなもんだ!」
皆の歓声があがる。
「じゃあ次はおれだ!」
「いや、おれだ!」
皆で銃を奪い合っていると、一際大きな鳥が飛来した。オオタカだ。まだ営巣を始めるには早い。下見にでも来たのだろうか?
「よし、ここはリーダーとして俺が手本を見せてやろう。頭を打ち抜くぞ。」
ソジュンはオオタカにトカレフの標準を合わせた。一瞬の間を開けたあと、引き金を引いた。見事命中し、大歓声が上がった。
そんな遊びに夢中になっていたため、駅前に残した4人の定時連絡の確認を失念していた。
「こちら北口班。重武装の一団に急襲されている。コピスで応戦中!至急援軍をくれたし!」
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