第6話 マニュアル通り

 俺は魔改造された共産党青年団と共に機動隊が乗っているような緑色のバスを2台手配して貰って西へ向かった。環八から西への交通規制がなされており、当然中央道も封鎖されている。

 

 異世界から連れ帰った魔改造された50人を見た新井は意外と冷静だった。ポーカーフェイスで俺に付き従う50人の、先頭の男をジロジロと舐め回すように見ながら、口を開いた。

 「本当に言う事聞くんですかぁ?」

 相変わらず失礼な奴だ。

 「心配すんな。マニュアルを作ってもらったから。」

 そう言って俺がツアレから受け取った、古の魔導書みたいな本を新井に手渡した。新井は本をパラパラとめくったが、すぐに本を閉じた。

 「これ、何が書いてあるか分かんないですよ。」

 「そりゃそうか。異世界文字だもんな。俺は読めるけど、お前には無理か。」

 その言葉に新井はプライドが傷ついたらしい。顔をムッとさせた。

 「井上さんにいちいち翻訳してもらってたら日が暮れちゃいますね。でも、井上さんの言う事は絶対聞くんでしょう?だったら私が作ったストーリーを井上さんがインプットしてくれませんか?やってみせ、言って聞かせて、させてみて、褒めてやらねば・・をお願いします。」

 「大抵のことはできるって聞いているけど、物理的に不可能なものはやめてくれよ。」


 バスの中で、俺は各員に新井の作った台本を渡し、頭の中に叩きこむように伝えた。海削が恐る恐る手を上げた。

 「あの、井上様、質問があるんですが。」

 俺は新井の作った台本を全く読んでいなかったので、困惑した。適当に誤魔化すこととした。

 「質問か。おそらくそれはとても素晴らしい質問なのだろう。俺がすぐに解答を出すのは簡単だ。だが、そこは総員の創意工夫で何とかしてほしいところである。」

 「井上様の深淵なる配慮、大変ありがとうございます。質問しようとなどおこがましい考えを持ったこと自体恥じ入るばかりです。」

 「き、気にしなくていいよ。」

 何とか乗り切った。正直こいつらは最強だ。銃に打たれても死なない。特段俺が何もしなくても簡単に制圧できるだろう。俺は後方で流れ弾だけに気をつけていればいい。


 バスは首都高から中央道に入り、厳重にバリケード封鎖された高井戸インターチェンジから吉祥寺に向かう予定であった。各所に設けられていた関所は、内閣官房の紋所で完全スルーすることができた。この高井戸インターチェンジは首都高に入れる要所であるので、バリケードの外では市部からの難民が行列を作っていた。しかし日本人とは不思議なものである。騒がず、混乱せず、ただただ黙って地蔵のように、大勢の群衆が立ち尽くしていた。まるでゾンビだな、と感じた。

 ともあれ、高井戸インターからは下道に降りることができなかったため調布インターまで進んだ。バリケード前に多少の人はいたが抜ける事ができ、そこから北上した。

 吉祥寺駅前に着いたのは夕方近くになっていた。ゲリラ蜂起のニュースや防災無線の影響で、北口はゴーストタウンと化していた。サンロードの入り口には「朝鮮義勇軍解放区」と大きな横断幕が貼られていた。爆発があったのはJR吉祥寺駅の男子トイレとヨドバシカメラ入口だ。早朝時間帯及び八王子の核の影響で外に人はおらず、犠牲者はゼロだった。

 貸与されたカラシニコフで武装した海削が先頭に立ち、賊の本拠地を探った。武装はカラシニコフとM9サブマシンガンで半々といったところか。海削達は視覚・嗅覚・聴覚強化を施しているので、人の気配を探るのは造作でもない。ただ、押し入ったサンロード内の店舗で逃げ遅れて隠れていた一般人をゲリラと誤認して射殺することが結構な数が続いたので、俺も口を出すことにした。

 「ゲリラはコピス3階のファミレスに2人、角のドトール内に2人いるよ。」

 もちろんサーチングの能力によるものである。

 「我々が不甲斐ないばっかりに井上御大のお手を煩わして申し訳ございません!至急部隊を向かわせます!」

 あとはマニュアル通りやるだろう、そう思ってパルコ前に停車していたバスに戻り、奥の席の椅子を最大限に倒して寛いだ。暫くして生け捕りにされたゲリラ4人がロープで縛られてバスに放り込まれた。こいつらは生け捕りなのか。じゃあ一般人の殺害もマニュアル通りなのか。ゲリラの仕業と見せかけるため、カラシニコフを使ってる理由も納得できる。

 「こいつらは陽動部隊みたいですね。多少の撃ち合いになって取られていた人質は全員射殺しました。ビル内に隠れていた人間も全員口封じしました。ゲリラの本隊は井の頭公園に潜伏中とのことです。」

 ゲリラによる被害よりもうちの部隊の方が沢山殺している。

 「こいつらもプロのゲリラなんだろ?そんな簡単に情報を吐くのか?」

 「マニュアル通りです!薬剤投与です!」

 縛られているゲリラをよく見たら、白目を剥いてヨダレを垂らしていた。俺はなんだか背筋が薄ら寒くなった。


 「市民の皆様、我々共産党青年団は北朝鮮のゲリラ部隊から吉祥寺駅及び北口サンロードを開放しました。北口は安全です。逃げ遅れた皆様、炊き出しを行いますので北口広場までお越しください。安全を保証いたします。こちらは共産党青年団です・・」

 1/4の化外部隊を北口に残し、サンロードのスピーカーを使って商店街中に流した。1/4はバスに積んだ拡声器で北口を中心に半円を描くように三鷹、西荻窪を街宣させた。

 「北朝鮮ゲリラ部隊は井の頭公園に潜伏しています。これから我々共産党青年団が掃討作戦を始めます。危険ですから絶対に近づかないでください。」

 大音量で放送した。 

 俺はもちろん掃討部隊だ。正直バスの中でダラダラしていたいという気持ちも強かったが、ある程度魔法で索敵してあげたりしないとこいつら手当たり次第殺しそうだからな。

 吉祥寺通りから公園入口に入る。入り口にある公園管理所で車両の通行止めがなされていたが、押し通る。一応案内所の中をのぞいてみたら、デブの職員が一人、ガムテープぐるぐる巻きで転がされていた。糞尿垂れ流しながら「助けてくれぇ!」と呻いているようだったが、隊員の一人が躊躇なくカラシニコフで射殺した。隊員10名ほどがバスを降り、井の頭池周りに展開した。俺はサーチングでそちら側にゲリラはいないと分かっていたが敢えて言わなかった。これもマニュアル通りなのだろう。

 バスは樹木や造作物を踏み蹴散らし、御殿山の高台に陣取った。暫くして池周りに展開していた部隊が返り血を浴びて戻ってきた。公園内の売店などに隠れていた一般人を皆殺しにしてきたのであろう。敵は御殿山の雑木林の中にいる。入り口や要所には斥候でも置いているものかと思っていたが、何の備えもしていなかった。あいつらは林の中で何をやっているのだろうか。

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