第2話 とりあえずの世界征服

 「ちょっとここで待っててください。」

 そう言うと金子は席を立った。俺は何もやることがないので、テーブルに置かれていたレベル測定用タブレットをいじっていた。自分の能力「サーチング」でも分かるが、改めて自分のレベルを測ってみたら250になっていた。女神殺しで大量に経験値が入ったのだろう。これならば魔王の夫として、魔王女の父として、誇れるレベルだ。また、なんか変な称号も獲得していた。「女神殺し」。これは魔神の悪戯だろう。厳重に抗議したい。


 「お待たせしました。」

 そう言うと金子は一人の青年を連れてきた。異世界で散った竹下に比べて線は細いが、眼光が鋭い。

 「少子高齢化でZ世代はやる気がない能力が無いなんてよく言われますが、竹下さん然り、優秀な若者は居るところには居るんです。この新井くんは性格に難ありですがとても優秀ですよ。」

 新井と言われる青年はニヤニヤしていた。なんだか気色が悪かった。

 「はじめまして、井上さん。新井です。世界征服なんてマンガやアニメの絵空事を大の大人が大まじめに議論するなんて、とても楽しい機会に立ち会わせていただいてありがとうございます。」

 なんか余計な一言が多そうなやつだ。

 「でも、俺は井上さんの存在で魔法も、奇跡も、あるんだよ、ってことに気付かされてしまった。時に、核を落とされて大混乱の現在。もう全部、古いものはぶっ壊して全部新しくしちゃいましょうよ!」

 新井は意気揚々と語った。

 「とまあ、新井君はやる気満々なわけです。若いフレッシュなアイデアをもらっていけば良いですよね。新井君を中心に世界征服プロジェクトチームを立ち上げてもらいます。井上さんはまあ、顧問というか、実行部隊というか、とりあえず何も考えずに指示に従ってくれればいいです。」

 俺はそこまで頭がいいわけではないし、指示待ちで良いのは正直ありがたい。しかし、この神輿に乗っかって、俺の天命を見つけ出すことができるのだろうか。魔神の前では明確なビジョンがあったような気がするが、ワームホールを抜けたら忘れてしまった。ワームホールには一種の痴呆効果があるのかもしれない。

 

 「早速ですけど、今考えている計画を大まかに説明します。第一に日本統一です。ここで英雄を作って挙国一致を実現します。第二にロシアの討伐です。第三にアメリカとの最終戦争になります。」

 俺は呆気にとられた。

 「そんな簡単に言うけど、そんなことできるの?」

 新井は机をドンと叩き、怒声を上げた。

 「できるできないじゃなくて、やるやらないでしょう!井上さんには失望した!」

 こんな他愛のない相槌にすら怒りを露わにするのか。不安だ。不安すぎる。

 「やるやる。やるよ。わかったよ。」

 俺のその適当な反応に多少不満げのようだが、新井は話をつづけた。

 「まず第一フェーズです。核爆弾2発の爆発と同時に、吉祥寺を中心に北朝鮮ゲリラが活動を始めたという情報が入っています。23区内は環八封鎖により事実上の壁ができ、市ケ谷を中心に都心防衛・治安維持が図られていますが、多摩地区は阿鼻叫喚の状況です。無責任な報道やSNS発信により恐慌状態に陥っています。これを解決する。」

 新井は自信たっぷりに話す。

 「えっと、それは俺が多摩地域を根こそぎ更地にしちゃうってこと?」

 つい話を遮ってしまった。口をだしてから後悔した。

 「まだ話は終わっていません!そんなことしたら戦後処理が大変でしょう!話がややこしくなる!」

 怒られた。今後はできるだけ黙っているようにしよう。

 「はい、すみません。」

 「じゃあ続けます。既存の政党、勢力を使っての掃討作戦が望ましいのですが、自衛隊や警察は指揮系統がしっかりしているので独断専横はできません。かといって住民自警団なんてものは存在しないし、華がない。そこが悩みどころです。」

 ここで金子が口を開いた。

 「お前のことだから、何かアテはついているのだろう。回りくどい言い方しないで、どうしたいか先に述べろ。あと、井上さんはいい人だから何も言わないけど、小バカにしていると化外にされちゃうよ。」

 場に少しばかりの緊張が走った。新井の舐めた口調も多少改まった。

 「失礼しました。当たりはつけています。共産党です。」

 「共産党!?」

 俺は思わず叫んでしまった。

 「この一昼夜でロシアに対するスタンスを明確にしたのは共産党だけです。しかし、あそこは高齢化が激しい。あと、中国共産党と対立しているのが地味にマズいんです。アメリカ戦を見据えると人民解放軍は何としてでも使いたい。有望な若者を送り込むか抱き込むかして、早急な傀儡化をしなければならないと考えています。共産党内革命が必要です。」

 新井は早口で述べた。そこに被せるように金子が補足した。

 「新しく人材を送り込むとなると時間がかかる。既存の党員で何とかしたい。しかし、今時共産党に入る若いやつなんてバカばっかりだからな。目星は付けておくから、井上さん、何とか思想改造できないかな。」

 俺は少し考え込んだ。

 「いっそのこと、対象を本当の傀儡(くぐつ)にしちゃうのはどうかな。一旦異世界で化外化して、魔改造施してワームホールの扉でこっちに連れてくる。」

 金子は嬉しそうな顔をした。

 「そういうの、良いですよね。私が欲しかった答えです。選定はすぐ終わらせます。井上さんは扉の前で待機していてください。」

 「なんなら化外魔改造軍団で1個小隊くらい作って、ゲリラ殲滅とかやっても良いけどね。」

 「そうですね。若いやつはあらかた化外化してもいいですね。その方が党内内ゲバをやりやすいし、それを終わらせた後、ゲリラ掃討戦の英雄、共産主義青年団を祭り上げたいね。」

 新井が嬉々として語った。

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