魔法で極める戦争稼業

マッスルアップだいすきマン

第1話 女神殺しの帰還

 ロシアがぶっ放したのは240KTの北朝鮮製水爆だった。発射もロシアの指示を受けた北朝鮮が行った。東京都心を目標としていたが、ブれにブれ、八王子に着弾したのだ。慌てたのは横田基地の米軍である。何の前触れもなく着弾した。札幌への着弾から数時間も経っておらず、三沢基地での警戒態勢を最大にした折の着弾。横田基地が標的にされたと勘違いし、横田基地からの米軍撤収、厚木移転作業が急ピッチで進んでいた。しかしロシアからの声明及びCIAによる情報収集により、米軍を狙ったものではないと明らかになると、アメリカはこの戦争には不介入との立場を取った。都心で起こったビルや住宅の大規模消失事件への警戒も考慮してである。泥沼のウクライナでも使用していないのに、いきなり日本に2発もぶっ放した真意も調査できていない。ましてや爆発でもなんでもない、得体の知れない建築物大規模消失事件などは、アメリカのトップ軍事アナリストを以てしても到底分析できるものではなかった。

 「なにか未知のもの、終末かなにかが近づいている。」

 アメリカの首脳部は皆そう感じており、だからこそ横田基地の撤収を急いだのである。

 

 一方、2発も核攻撃を受けた日本国民は深刻な心理状態に陥っていた。与野党拮抗状態の現石田内閣では何の結論も出せず、最大野党の民衆党はロシアへ無条件降伏せいと論陣を張った。与党、民自党は今までの派閥政治の弊害が一気に噴出し、党としての道筋が出せずにいた。一方、野党の中でも徹底抗戦を唱えたのは意外にも共産党である。これは連綿と続く各国共産党内の内輪揉め的なものの延長線上にあるものであったが、党方針は自動的に決まった。トロツキーも草場の陰で泣くような情けない話だが、結果、世論には相対的に共産党への好意が高まった。

 とにかく石田首相は自衛隊の防衛出動を命ずることができなかった。政治が何もできないまま、時間だけが過ぎっていった。


 俺は魔王城から移動し、異世界と現世界が完全にくっついてしまった、ど◯でもドアの様なワームホールを抜けた。板橋のマサユキ宅には誰もいなかった。プレハブの中でテレビをつけると、どのチャンネルも緊急速報が垂れ流されていた。

 「今後もミサイル攻撃が予想されます。できるだけJアラート発報時には地下への退避をお願いします。」

 「環状八号線に沿って交通規制がしかれています。以東への通行はできません。」

 「外国人ゲリラ部隊によるテロ行為が確認されています。多摩地域にお住いの方は速やかに退避してください。」


 退避しろって言われてもどうすれば良いのか。多摩の人たちは大変だな。俺は他人事の様な感想を持った。まぁ他人事なんだけど。とにかく霞が関へ向かうことにした。

 マサユキ邸の庭は斜めに更地になっていた箇所があった。ああ、そうか。ここは都市計画線に少し掛かっていたんだ。俺がもう少し適当だったらプレハブが危なかったな。少し安堵した。庭に止めてあったランクルは、かろうじて無事であった。

 霞が関への早朝ドライブは快適であった。しかも俺が整備した都市計画道路のおかげで、広い道路を独占して利用ができた。電柱や防火水槽なども無視して吹き飛ばしたので、そこら辺から水が吹き出したり、電線が垂れ下がっていたりしたが。核→都市消失→核のコンボで住民たちは自宅で震えているようだ。出勤ラッシュの時間帯だが人気が無い。ところどころで警察と自衛隊による検問があったが、金子から貰った政府関係者用パスのお陰で無事通行できた。「内閣官房特別公安班 参事 井上彰」。なんなんだこの肩書は。

 ノーストレスで霞が関に到着した。この時間帯の官公庁は通勤者でごった返しているはずだが、都心への出入りが封鎖されているので、人が疎らだった。運悪く出勤し、少数で右往左往する政治屋の話を聞かなければならない官僚たちのことを考えると、自分ごとのように涙が出た。まあ他人事なんだけど。

 適当に車を路駐し、いつものビルにパスをかざして入場する。金子の執務室には金子しかいなかった。

 「他の連中は?」

 「五木さんは別室で休んでいます。その他の職員は都心封鎖で来れたりこれなかったりですね。」

 金子は徹夜明けであるのにワイシャツのシワもスーツの乱れもなく、いつも通りに座席に座っていた。

 「ところで、向こうの世界での仕事は終わったんですか?」

 「ああ、終わった。泣いて田中を斬ったし、女神も殺した。」

 金子はさほど興味がなさそうに自席から立ち上がり、応接セットのソファに座った。

 「で、今、ご存知の通りこんな状況ですけど、これからどうします?」

 俺は面食らった。

 「おいおい、それは俺が知りたいよ。俺は一応、こっちの世界に残したものがあるような気がして戻ってきただけだしね。」

 「直感ですか。」

 「そう、だね。」

 金子と俺の間にしばし沈黙が流れた。

 「じゃあ、とりあえず何かしていきましょうか。そうだな、抽象的な言い方だと、『世界征服』とか。」

 金子にしては面白い冗談を言う。しかし目は笑っていなかった。

 「あなたが昨晩ここに戻ってきた時、目が血走っていて何かに取り憑かれてました。そして夜通し作業した。普通に考えて『街を消す』なんて常人の考えじゃあないですよ。常人じゃないならば、常人じゃないことをする義務があると思うんですよね。やり残した事はその過程で発見すれば良い。」

 俺は呆気に取られたが、考えを反芻してなんだか哀愁じみたものを感じた。

 「金子さんはいつでも俺にとりあえずで物事をさせるね。最初の暗殺もそうだった。『とりあえず殺しましょう』ってね。でも、とりあえずで世界征服なんてできるの?」

 「まあとりあえずですからね。やれることを淡々とやっていけばゴールが見えるはずですよ。」

 俺はソファにもたれかかる形で腰掛け、天井を見た。

 「あー、こんな時に竹下がいてくれたらな。竹ちゃん、おもしろいやつだから面白いアイデアくれそうなんだけどね。」

 「そういえば、竹下さんは壮絶な最期を迎えたんですよね。」

 「そうそう。魔王軍の将軍と一騎打ちして、勇者として華々しく散った。最高に美しかったよ。俺みたいに往々にしてやる気のないニヒリストじゃなくて、天命を見つけて全うした感じ。あれこそ男だ、と思ったよ。」

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