名状しがたい邪神様は、ダンジョン配信で無双する~配信切り忘れで本体ポロリ、BAN不可避だと思ったらバズりまくってグッズ化しました~

かるぼなーらうどん

バズり散らかし三邪神

第1話 名状しがたい邪神様は、ダンジョン配信を始めたい

 ここは、闇の底、夢の中、世の裏――常夜塒エヴェース


 暗黒の世界にひしめく邪神たちは、陰に勤める者として大なり小なり退屈をもて余し、無益に身を焦がしながら暮らしていた。


 何者の存在も許されぬ無の界域……そこには、『存在』という名の残滓が微かに残っていた。


「ダンジョン配信でバズリたいんじゃあ……」


 黒色に塗りつぶされた空間で、怖気が走るような声が響いた。


「フハッ、無知蒙昧の輩が。くだらん雑事を申すな」


 言葉に対し、不可解な音律を組み合わせたような声音が応える。


「また、なにか影響を受けましたね。ア・リトル・リトル」


 あらゆる周波数をかき集めたかのような、声とも音とも似つかない音吐おんとが応対する。


 ア・リトル・リトル――それが、邪神の一柱たる存在の名前である。


 人間の基準で言えば無限と数える命、世界の法則性を捻じ曲げる強制力、世界の創世すらもお手の物。


 軟体動物を思わせる数億もの触手をもち、そのひとつひとつに意思を宿らせることもできた。


 だが、その化物染みた邪神は――


「最近、ハマったDtuberの配信者が可愛いんじゃあ……わしも、ダンジョンに潜って配信して、ワクワクキラキラの毎日を送りながら、あわよくばコラボとかしちゃってお名前呼んで欲しいんじゃあ……」


 見事なまでにキモオタだった。


「益体もない輩が。貴様の卑しき品性で、良くもまぁ邪神の一柱を名乗れたものだな」

「なんじゃ、セティ=スタムレタス? おぬし、ダンジョン配信反対派なのか?」


 セティ=スタムレタスは、かつて、古代エジプトで猛威を振るった邪神の一柱である。


 死後の楽園アアルに入るまでの過程を描いた死者の書ペレト・エム・ヘルゥに、ちゃっかりと描かれちゃってるくらいに有名だったりした。


 その姿形は蠕虫ぜんちゅうを大量に寄せ集めた奇怪のモノであり、暇つぶしに太陽を殺したり生き返らせたりを繰り返す程の力をもつ。


 秩序と混沌を手中に収めており、世界を滅ぼしたり再生させるのはお手軽プランであった。


「フハッ、我は」


 だが、その埒外の邪神は――


「その配信者のお姉さんとの添い寝シーンがあれば満足である!!」


 見事なまでのギャルゲーマーだった。


「無論、最低、三シーンは確保しておけ。スチル数は多ければ多いほどに善良であることは、今更、言わんでもわかるであろう? 神たる我によれば主人公はショタにするのがベスト、その心に留意しておくが良い」

「……お待ち下さい」

「神の下知を止めるとは……何用だ、マリフチョーロ?」


 マリフチョーロは、万物を掌握している邪神の一柱である。


 『している』という言葉通り、ソレは全生命の目玉に棲んでいる。


 その目を通してなにもかもを掌握し、その気になれば、物質非物質、生命のあるなしに関わらず、存在ごとなかったことにできる。


 マリフチョーロの本体は、ありとあらゆる生命体の目玉を寄せ集めた惑星大の塊であった。


 今もその数は増え続けており、『支部』と呼ばれる別惑星が様々な宇宙に感染を続けている最中である。


「私が思うに」


 だが、その劇甚げきじんたる邪神は――


「そのスチル、私のフォロワーである神絵師に頼み込んで書いてもらいましょう。スチル枚数は一シーン二枚に限定、量より質に頼るべしと出ました。私のデータによれば、ショタおねよりはおねショタ……一夏の終わりに褐色おじさんに寝取られれば、一億リツイートは固い」


 見事なまでのSNS中毒であった。


「ゲーム化した際のタイトルも既に考えましたよ。『ぼくの夏休み~お姉さんの家で飼ってる蝉が、ミンミンじゃなくてアンアン鳴いてる~』」

「おぬし……ほんま、死んでええぞ……推しのダンジョン配信者に対する、ささやかな応援の気持ちが台無しじゃ……この間、推しとコラボしていた褐色の優しいおじさんが、一転して間男にしか視えなくなったわ……」

「神の命である、死ね」


 そんなキモオタ三邪神は、常夜塒エヴェースで、ワイワイガヤガヤと討論を繰り広げるのが常であった。


 邪神といえども、神であるがゆえに信仰の対象であり、人々の信仰を集めることが己の強大さへと繋がる。


 邪神界隈において、信仰を集めること以外に時間を費やすということは、無職ニート扱いされても文句はいえないことだった。


 ゲームやアニメの話ばかりしているキモオタ三邪神は、積極的に信者を集めることをしなかったため、自他ともに認める常夜塒エヴェース無職ニートとして低名を馳せていた。


 ところが、ある日、ア・リトル・リトルが思いつく。


「……人間に擬態して、ダンジョン配信を始めれば信者集められるんじゃね?」


 歴史に名を残すどころか、宇宙に爪痕を立てている邪神の二柱は応えた。


「「天才か?」」

「怖い……わしの発想力が怖い……全オタクが望む『オタ活で金を稼ぐ』が、儂らなら叶えられるという事実に身震いしておる……」

「無駄虚無喰らいと揶揄やゆされてきた我々も、ついに働く時が来たというわけですか!」

「フハッ、我らの名を人間界に刻むもまた一興! まさしく、秘奥に至る愉悦である!」


 異議なしの首肯、彼らは行動だけは早い。


 あっという間に受肉体を創生して受肉を終え、その世界を守護する女神の防衛機構プロテクトを秒で破って顕現した。


 そして、早速、ダンジョン配信を開始して一ヶ月――


「「「…………」」」


 同時接続者数2。


 キモオタ三邪神は、早速、配信界の荒波に揉まれまくっていた。

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