第11話 初めての試練、本能のままの戦い
「受け取れ!」
チャールズの声が響き渡る。木製の影が空中を弧を描いて飛んだ。
レインは反射的に手を伸ばし、それを受け止めた。
手に馴染む上質な木剣。
刃には無数の訓練の痕跡が刻まれていた。
「父さん、これは...?」
レインが木剣を回しながら問いかける。
チャールズの眼差しが鋭くなった。
「お前が旅立つまでの間に、シルフィード家の剣術と付与魔術を伝授しよう」
一呼吸置いて、
「そして、我が家の秘術もな」
「さあ、その木剣で攻撃してみろ。全力でだ」
チャールズが一歩前に出る。
軽く手を振った瞬間、地下室全体に目に見えない重圧が満ちた。
レインの血が震え、呼吸さえ困難になる。
「今のお前の実力と、フレドへの覚悟を見せてもらおう」
チャールズは息子の現在の実力に大きな期待はしていなかった。
これまで普通の子として育て、特別な訓練は一切施していない。
今、彼が見たいのは息子の決意と根気——これから始まる厳しい訓練の礎となるものだった。
レインは深く息を吸い、剣の柄を両手で握り締める。
まるで本能に導かれるように、自然と戦闘態勢を取っていた——右足を引き、重心を下げ、木剣を胸の前で水平に構える。
チャールズの目が輝きを増した。
明らかに息子の姿に驚きの色が浮かぶ。
その時、レインは何かを思い出した。
瞳を細める。
『スキル発動:鑑定』
次の瞬間、チャールズのステータスパネルがレインの視界に広がった。父の真の実力を見るのは初めて——心臓の鼓動が加速する。
【ステータス】
名前:チャールズ
レベル:28
魔力適性:F(無適性)
【能力値】
生命力: 24
精神力:15
持久力:25
筋力: 25
技量:28
知力:13
感知:28
【習得技能】
「瞬閃突き」「大地裂破」「四方斬り」「円舞剣」「剣刃乱舞」「剣技『高山流水』」……
【特記事項】
・魔力適性Fにより魔法の使用が制限される
レインは父のステータスパネルを凝視し、その数値に心が震えた。
(すごい強さだ......でも、魔力適性は僕と同じFか......)
その発見に、特別な驚きはなかった。
先ほど父が語ったように、シルフィード家は代々魔力が低く、リリアだけが例外だという。
しかし、魔力はFランクでも、他の能力値は想像を遥かに超えていた。
木剣を握る手が微かに震え、眉間に皺が寄る。
(このまま突っ込んでも、こてんぱんにやられるだけだろう......)
チャールズは息子の躊躇いを見逃さなかった。
声が一転、厳しく響く。
「どうした?なぜ攻撃しない?勝ち目がないと思ったか?」
一歩前進する父。
威圧感が更に増す。
「もし、お前の目の前にいるのが私ではなく、敵だったらどうする?」
「敵が強いからと言って、怯むのか?」
チャールズの言葉が地下室に響き渡り、一言一言がレインの心に重く突き刺さる。
「今ここで敵に立ち向かわなければ、その敵は他人を、あるいはリリアを傷つけることになる」
最後の一言が、レインの心の琴線に触れた。
瞳の色が変わる。
躊躇いも迷いも消え失せ、代わりに今までに見たことのない強い決意が宿る。
木剣を握る手に、更なる力が込められた。
次の瞬間、レインの姿が疾風となって飛んだ。
稲妻のような速さで繰り出される一撃。木剣が空気を切り裂き、鋭い光を描く。
床の魔法陣が彼の動きに呼応するように輝き、決意に満ちた表情を浮かび上がらせる。
チャールズの目に驚きの色が走った。
(この速さは......予想以上だ)
特別な訓練を受けていない息子が、ここまでの瞬発力を見せるとは。
確かな才能の証だった。
地下室の空気が一変する。
魔法水晶の輝きが揺らめき、父子の戦いに厳かな空気を纏わせていく。
木剣が鋭い弧を描き、チャールズの喉元を狙う。
技こそ粗いが、その速度と力は予想を遥かに超えていた。
チャールズは軽やかに身を翻し、一撃をかわす。
目に喜色が浮かぶ。
だがレインの攻めは止まらない。
まるで本能に導かれるように、息つく間もない連撃を繰り出す。
左からの斜め切り、右への薙ぎ払い、下から突き上げる一撃——
動きこそぎこちないが、攻める角度は鋭く、隙を突く。
チャールズは息子の攻撃を軽々とさばきながら、その変化を観察していた。
表情が喜びから驚きへと変わっていく。
(これは......訓練を受けていない者の戦闘本能とは思えない)
レインの一振り一振りが冴えわたる。
次第に、体内に暖かな力の流れを感じ始める。
剣を振るうたびにその感覚は強まり、動きは滑らかに、反応は鋭くなっていく。
「ドン!」
木剣と木剣が激突する重い音が響く。
チャールズが半歩後退し、目に信じられない色を浮かべる。
息子の姿は、完全に想定を超えていた。
戦いの中で高まっていく気迫、直感的とも言える戦闘センス......
魔法水晶が、この異常な戦いを感じ取ったかのように明滅を繰り返し、父子の姿に揺れる光と影を投げかける。
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