第23話 一日目 七月二二日 九時四一分(09:02:19)

 バイクをワンボックスカーに入れるのは、シートを倒しても二台が限界だった。


 理乃りのの車で近場のガソリンスタンドまで移動し、バイクのガソリンを満タンにする。従業員はいなかったが、電気が生きているのでセルフ式の給油機はまだ使用できた。


 その後、バイクの操作を理乃から学ぶ。理乃はバイクの免許も持っていた。


「未成年の生徒にバイクの乗り方を教えるなんて、私も落ちたものね……」


 ガソリンスタンド内を縦横無尽じゅうおうむじんに走り回る無免許の生徒たちを、理乃は虚ろな目で見守る。強盗、器物損壊、無免許運転、それらの犯罪を複数の生徒に犯させる教師。ネットで大炎上間違いなしの極悪教師だな、理乃ちゃん先生。


「分かった。バイクはスカートで乗るものじゃない」


 あやがスカートのすそを太ももとシートの間に挟みながら、乗りにくそうにバイクを運転していた。


 運転の上達具合は人それぞれ。綾と騎士ないとは楽に習得していたが、誠也まさやはやや苦戦ぎみだ。


「センパイくんは練習しないの?」

「もう大体分かった」


 というかオレは運転したことがあるので、習うまでもなかった。免許など当然ない。


「来ないな……」


 ずっと警戒していたのだが、虐殺蜂ぎゃくさつばちが来ない。


 二台のバイクが爆音を鳴らしているというのに、一体の虐殺蜂も現れなかった。


 体育館の外壁にも、バイクを車に積み込んでいる間も、第二次試験が始まってからずっと、奴らの姿を全く見ていなかった。忽然こつぜんと消えた虐殺蜂……不気味でならない。


「これなら、あなた達でもバイクで移動できそうね」


 理乃が言う。九弦くづる学園高校から車で来たのは虐殺蜂と遭遇そうぐうした際に逃走するためだったが、これほど見かけないなら、運転の下手くそなオレ達がバイクで移動しても危険は少ないだろう。


「車に二台積んで、四人は運転してもらった方が効率的かしら……」


 理乃が思案していると、バイクに乗った誠也と騎士がトロトロと寄ってきた。


「騎士くん、司賀しがくん。私は車を運転するから、あなたたち四人は…………」


 バイクを降りた二人に理乃が指示をしている中、オレは【黒のスマホ】のマップを呼び出す。


 第二次試験は拠点制圧きょてんせいあつ。十日間で互いの拠点を破壊、もしくは防衛し、より多くの拠点を保持していた側の勝利だ。現在人間側の拠点が八に対し、虐殺蜂は一〇と増減は無い。通話しても不通な為、他拠点たきょてんへ直接出向くのにバイクが必要だった。


 オレはヘルメットを被り、空席のバイクに乗り込む。


当真とうまくん?」

「病院に行く」


 オレはアクセルを回す。


「当真くん!?」


 理乃の制止を無視し、バイクを走らせる。


 どうせ学校にバイクを集めても、誰が拠点まで行くのかで揉めるに決まっているのだ。オレが行ってさっさと連絡が取れるようにした方が早い。脳裏に氷漬けのアンジェリカが過ぎり、チリリと痛んだ。


 と、不意にバイクが重くなる。


「ズルイぞセンパイくん! 一人で行くなんて!」

「おま…………おうっ」


 後ろに飛び乗ってきた綾に一言物申ものもうそうとして、二の句が継げなくなる。腕が腰に回され、背中に二つの膨らみが押し付けられたからだ。


 その柔らかさに理性が飛び、思った。


(バイク、最高か)


 バイクは素晴らしい乗り物だと、心から思った。

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