文体練習

鳥羽ミワ

海について/『文体の舵をとれ』練習問題①問1

 私にとって海が一番、海そのものであるのは、冬の昼間だ。それ以外は日の光が強すぎて、水は太陽の光を透かして可視化するための触媒にすぎない。たしかに強い光に照らされて輝く海は美しかろう。その光が水中を旋回してあぶくをも照らし、そのひとつひとつも視界へすくいあげる、それをわが身の事のように思うのも豊かな光が滴らんばかりの昼間だ。だから冬がいい、いつも傾いて黄色くしなびた冬の光がいちばん、海を海として尊重する。海として尊重された海は重苦しい水の質量を伴っており、陸や空とはぴったり水面で区切られた水中の世界を閉じ込めている。南海の輝かしい美しさも本当のことだ、だけど、私にとって海は冬のものなのだ。夏の日差しなんかで化粧したあの、青くて、美しくて夢みたいな海を、私は愛しているし、だけど冬の方がより海だと思う。海は海だ。いつもそこにある。だけど何の引き立て役にもなっていないときの方が、そのものの本質だと思う。海はぶっきらぼうで、恐ろしくて、苦しくて、私はこれだけ海の悪口を言っておいて、海のことを愛している。

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