12


 わたしの顔が熱くなる。


「……あ、今のなしで」


「いや、可愛いからありで」


 わたしはイチゴのホワイトチョコレートが入った袋に手を伸ばす。


 指と指が触れた瞬間、足音が近づいてくる。


 グイッ。

 藤原ふじわらくんに手を引かれ、カーテンの中に隠れる。


藤原ふじわらくん、ローファーが…」


灰野はいのさん、シッ」


「声が聞こえた気がしたけど気のせいか」


 担任の男の先生が教室の前を通るのが分かり、足音が遠のいていく。


「はー、セーフだったな」


「うん……」


灰野はいのさん、チョコ渡しといてなんだけど、俺一個貰ってもいい?」


「あ、うん」


 藤原ふじわらくんは袋の中から丸いイチゴのホワイトチョコレートを左手で一個取ると、わたしの口の中に入れる。


 え、自分が食べるんじゃ……?


「どう? 美味しい?」


「うん、甘い…」


 微笑むと藤原ふじわらくんはわたしの唇を塞ぐ。


 甘いオレンジと深いブルーが混ざり込んだキラキラな光がわたし達を暖かく包み込む。


 そして……ふわっ。


 少し空いていた窓から春風が入り、カーテンがまるでドレスのように広がった。

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