タンタカタン

こはり梅

タンタカタン プロローグ

 鳥が止まっていた。見たことが無いくらいの数の鳥が。

 今、目の前の樹に止まっている鳥の、異常な数を目にしているので、厳密に言うと「見たことがない」ことにはならないのかもしれない。ただ彼は今まで生きてきた中で、一本の樹に百羽以上の鳥が止まっているのを見たことがなかった。時期は4月だが、今年は例年よりも寒さが長引いた。

 そのせいかは知らないが、街の樹もまだ芽吹いてはいなかった。だから『アレは異常だ』とすぐに気付けたのかもしれない。

 鷺淵 傘音さぎぶち かさねは、校庭にある桜の樹に近付いていた。

 始業式終わり、部活動も一部を除いてやっていない日だからか、校内に残っている生徒の数もかなり少なかった。

 傘音の高校にある桜の樹は、二棟ある内の東側校舎と校庭の間に植えられている。何期生目かの卒業生が贈呈したらしい。高校だとよくあるやつだ。そんな桜の樹は、近くで見ると小さな蕾が付き始めてはいるが、やはり遠目に見てもピンク色の綺麗な花が咲いているような段階ではなかった。ピンク色の花びらや蕾の代わりに、桜の樹がまとっていたのは『黒』。真っ黒な鳥、あれは皆がよく知る鳥、カラスだった。そんな大量のカラスが止まった木の下で、僕らは初めて出会った。

――か――――よ――?何か用?

 それは酷く聞き難い、まるで『ラジオノイズ』みたいな声だった。

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