第1話 第4章 止まり木

 図書館で今回の怪異についてを調べ始め、早くも一週間が過ぎた。

 今週に入って高校は、特別入学の生徒と保護者、教師との三者面談がある期間に入っている。放課後の時間はかなり取りやすくなっていた。

 先週までは新入生向けのオリエンテーションや、生活指導の強化習慣だったり、妃慈さんの主たる活動――生徒会業務を終わらせた後で図書館へ合流してくれていた。

 妃慈さん曰く「怪異調べに時間が取れなくて申し訳なかった」らしい。ほぼ毎日、僕が調べる量の倍くらいは、ページ数と本のタイトルをノートに書いていたと思う。

 今週に入っても相変わらず、妃慈さんは僕の2~3倍の速度で図書館の蔵書を読み進めていた。

 僕と妃慈さんの積んだ本にトータルで15冊ほどの差が付いたタイミングで今日は終了、また明日続きをやろうとなった。


 ――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 

 翌日、水曜日。

 今日も僕はいつも通り学校に向かう。

 この一週間ちょっとで、凄まじい量の本を読んだせいか、目が疲れていた。

 ギューッと目をつむると、ジンジンと熱を帯びているかのように脈打つ様な感覚がした。

 ジンジンち脈打つ間隔が段々と緩やかになり、帯びていた熱が引いたタイミングで、僕は再び目を開けた。

 赤信号だった交差点はいつのまにか青信号に代わっていたので、僕は学校に向けて、また自転車を漕ぎ始める。

 

 学校の駐輪場について、防犯用のチェーンを取り付けようといじっていると。

「傘音くん!」

 焦ったような、大きな声で名前を呼ばれた。

 振り向くと、駐輪場の入り口付近にいた妃慈さんだった。

 いつものクールで落ち着いた印象からは想像もつかない――焦り、動揺、恐怖、心配、焦燥――そんな感情が見て取れた。

 学校までの道のりも走ってきたのであろう、少し息が上がり、顔の横からは汗が流れていた。

 妃慈ひなりさんは僕の前まで、そのまま全力疾走に近い勢いで走ってきた。

 立ち止まると肩を上下に揺らし、目の前の――そして、おそらくは登校中もしたのであろう全力疾走で荒れた息を整えようと、深呼吸を2度、3度と繰り返した。

 「ひ、妃慈さん、どうしたの?」

 「傘音くん、大変! 今朝、お母さんがっ」

 一息に話したせいか、息が整いきっていなかったのか、そこまで話してゴホゴホッと咳き込んでしまった。

 妃慈さんが再び息を整え落ち着くまで、ゆっくりで大丈夫だからと制止するよう、手の平を妃慈さんの方に向け、何かを止めるようなジェスチャーで、妃慈さんがこれ以上焦らないように制止していた。

 「お母さんが」と言いかけていた、まさかとは思うが。


 フゥーと大きく息を吐いて、そこでようやく呼吸を整えた妃慈さんはこちらにガバッと顔を上げた。

「お母さんが、私の声が聞こえないって、変な音が重なるって言って会話にならなかったの、今朝!」

 やっぱりだ。妃慈さんのお母さんに怪異の影響が出たんだ。

「お母さんとは会話にならなくて、私も気が動転しちゃって、傘音くんに言わなきゃと思って、急いで来たの!」

 相当パニックになっているんだろう、相槌なんかも待たずに、一方的に話していた。こんなことは知り合ってまだ二週間ほどだが初めてだ。

「このままじゃ、お母さん、死んじゃうのかなっ……」

 そこまで話すと膝に手を付き、下を向いて項垂れてしまった。続けざまに話したせいなのか、1度整え落ち着いていた呼吸は再び荒くなり、地面にはポタポタと汗が滴り落ちていた。

 僕は再び落ち着くまで静かに待っていたが、先ほど以上の時間を待っても一向に落ち着くことはなかった。

 違った……。最初は汗かと思った水滴は、お母さんへの脅威に耐え切れなくなってしまったのか、両目から流れる涙だった。

 状況はいよいよまずくなっているな。

 僕は当初、妃慈さんには調べるのを手伝ってもらったら終わり。それ以上の深入りさせるつもりは無かった。

 しかし、これ以上手を打たずに置いたら、本当に妃慈さんのお母さんが死んでしまうかもしれない。

 

 「……分かった、どうにかしよう」

 苦虫を噛み潰したような顔ってのは、多分だけど今している様な顔なんだと思う。

 流していた涙を手で左、右と拭って「え?」と聞き返しながら妃慈さんは顔を上げた。

「ただ、急ぐから今日の学校はフケなきゃいけない。 あと……」

 何と言ったものか、少し言葉を詰まらせた僕を、妃慈さんはジッと見返していた。

「うん……とりあえず行こう、続きは行きながら話すよ」

 カチッと自転車のチェーンをはめて鍵を抜き、歩いて妃慈さんの方へ歩み寄る。そのまま妃慈さんの半歩ほど前を進み学校の敷地外へ向かい、僕は目的地への道案内を始めた。


「で、傘音くん、さっきの続きは?」

 歩き始めて数分、まあその話になるよね。

「これから行くのは、怪異に関する僕の先生がいるお寺なんだ」

 はぁ、と溜息をついて話し始めたので、妃慈さんは少しいぶかしんでいるような顔つきになった。

 「先生? 傘音くんよりも怪異について詳しいって事?」

「そうだね、詳しい。 何なら敵意や実害のあるタイプの怪異に対しては退治なんかも請け負ってるよ」

 映画のゴーストバスターズってあると思うけど、和風ゴーストバスターズって感じと付け加えて説明した。

「そう……でも傘音くん、先生がいるならどうして早々に頼らなかったの?」

 当然の疑問だ。

「僕の先生は、確かに先生ではあるんだけど、僕のような善人では無いんだよ。 もちろん悪人って訳でもないんだけど」

 ここからの説明が難しい。

 僕の先生、怪異のスペシャリスト『五野神ごのかみ ロア』、これは偽名で本名は僕も知らない。

 僕が以前巻き込まれ、そして色々な人を巻き込んだとある事件で知り合った人間だ。

 彼は決して悪人では無い。ただ、人間よりも怪異に寄る人間で、決して人間の味方をするわけでは無い。

 善意での人助けはしない、ロアは怪異や世界に悪影響があると判断したときだけ、その『脅威』だけを取り除こうと助けてくれる。

 

 「だから、今回も助けてくれるとは約束出来ないんだ。何かしらのヒントがもらえたら御の字かなって思ってる」

 これから会いに行く人物について、一通りの説明をしておく。


「そのロアさん? は、普段何をなさってるの? 傘音くんは先生とはどこで知り合ったの?」

「普段何してるかは僕も知らないな、自称『怪異のスペシャリスト』らしいけど、廃れた小っちゃい寺とか神社とかおやしろの整備とか、掃除とかしてるね」

 ボランティアの人?と首を傾げながら妃慈さんは聞き返してくるが、僕も知らない。

「で、知り合った経緯は?」と、質問の続きを話してくれと妃慈さんが続ける。

「知り合った経緯は、僕が巻き込まれた怪異絡みの事件があってね、その時に初めて助けて貰って、それ以来の付き合いだね。助けられたり、逆にこっちが手伝ったり」

「事件?」

 当然、次はこの『事件』というワードについて質問が来るだろうなと思っていた。ただ話すにしては長いし、ロア以外にも何人か人物の説明が必要だし、とどのつまりは面倒なのだ。

「まあ、その話はまた今度ね、そろそろ着くよ」

 良い具合に話を打ち切って、僕と妃慈さんは目的地に辿り着いた。

 そこは拡張工事中の道路沿いにある坂道。その坂道を少し上って横に逸れた道から入る小さなお寺だった。

 そこまで長くない石段を上ると、これまた小さな鳥居がある。ここをくぐると、少しだけ視界が開けた。

  ――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 

 赤。何とも場違いな赤だった。

 竹箒でお寺の境内けいだいを掃除していた。どこからか飛んできたであろう桜の花びらや、春先でまだどこかに残っていた砕けた枯れ葉を一か所に集めていた。

 これだけであれば、この寺を管理しているお坊さんとかなのだと思う。

 ただその服装は真っ赤なジャケットとパンツ、ジャケットの中にはダークレッドのワイシャツを着ており第1ボタンは開けられており、その首元には緩く赤いネクタイが締められている――という寺社仏閣に普段いる人物の装いとしてはあまりにもアンマッチな組み合わせだった。

「やあ、傘音くん、思ったよりも早かったですねっ」

 枯れ葉を掃く動作を止めて、右手の平をこちらに向ける軽い動作で挨拶をしてきた。

 ニコニコというか、ニヤニヤというか、なんとも胡散臭い薄ら笑いを浮かべているこの男が、先ほど妃慈さんに説明した『五野神 ロア』だった。

「簡単な内容はさっき電話で話した通りだ、ロア」

 上げた手のひらを二度曲げて「こっちおいで」のジェスチャーをしてきた。棒立ちになっていた妃慈さんを「行こう」と促して、ロアの元へ向かう。

「では、改めて説明していただけますか、電話では気付けなかった情報もあるかもしれませんしっ」

 言葉尻を短く切る癖がある独特な話し方で、小さな本堂に続く十段ほどの石階段の途中に腰を掛けたロアが尋ねる。

「さっき電話でも伝えたけど、じゃあ僕が知っている情報から……始業式の日に僕は桜の木の下で――」

 そこから僕は妃慈さんと出会った日から土砂崩れ、怪異の事を妃慈さんに伝え、一週間ほど図書館で原因となる怪異を調べていたことを伝えた。

 怪異絡みとなると、持ち上がっていたロアの口角は下がり、いつもよりかは真剣な表情に見えた。

 次に妃慈さんがロアへ説明を始めた。半年前から始まった異変。一人目から始まって四人目まで、「自分の声にノイズが重なる」と言われた後で友人が立て続けに亡くなってしまったこと。

 五人目が僕で、土砂に巻き込まれたが生きており、その後からは普通に会話ができるようになったこと。後の部分は僕の説明と二重になる部分だったのでロアが「うん、ありがと、その先は大丈夫ですよっ」と静止した。妃慈さんの説明を聞いているロアは、最初僕の説明を聞いているときと同じように真剣な表情だったが、話が進むに連れて元のニヤついた顔に戻っていった。


「で、ロアには今回の怪異が何なのか、検討ついてるみたいだけど……何か分かったことはあるのか?」

 元通りの飄々とした雰囲気を出し始めたのを見逃さなかった僕は、原因について尋ねる。

「ええ、まあ……大体はですがっ。とりあえず傘音くんに質問なんですが、妃慈さんと初めて会った時に何か不思議な事はありませんでしたかっ?」

 ざっくりとした質問だ、と思った。ただこれをツッコんだとしても聞き方が変わるわけでもないし、寧ろ長引くのをこれまでの付き合いから知っている。

「不思議な事、ねぇ……ノイズ掛かった声に、あとは……」

 妃慈さんと初めて会った時は、確か桜の木の下だった。そして、その木には。

「カラス、一本の木を埋め尽くすくらい大量のカラスが止まっていたな」

「カラス……?」

 意外にも聞き返してきたのは、僕の後ろにいた妃慈さんだった。

「あの日、確かに桜の木の下で鷺淵くんと会ったけど、カラスなんていなかったわよ?」

 どういうことだ?

 あの日、僕はおびただしい数のカラスを見かけたから、あの桜の木の下に行ったのに……。

 じゃあ、あの時妃慈さんは何の目的で桜の木の下にいたんだ、カラスの異様な光景に引き付けられたんではなかったのか。

 「あの時、妃慈さんはなんで桜の木の下に……?」

「鷺淵くんがあの木の下でずっと立ってたからだよ? あの木の下には、私よりも先に鷺淵くんがいたのよ?」

 僕の認識とそこだけが違う、どういうことなんだろうか。


「何も不思議はありませんよっ、傘音くんは止まり木に惹かれて休みに行ってしまったってことですよっ」

 「疲れてたんですかね、新学期早々っ」と言いながら石段に腰掛け、脚を組みながら僕たち二人を前にロアがそう言った。

「妃慈さんはね、何かの怪異に憑りつかれているわけじゃないってことです、ただ休ませてあげる存在に『成り上がった』という事ですよっ」

 言い終えるとロアはスッと立ち上がり、背筋を伸ばしたままゆっくりと妃慈さんの方へ歩み寄っていく。

 

 怪異っていうのは概念なんです。

 そでひきも「急いで帰っているときに限ってに邪魔される」という、誰しもが感じた事のある、いわばに対して多くの人が共通のイメージを持ったことから生まれたんですよ。

 決してそればかりではないですが、基本的にはイメージや思念などがという形をかたどって生まれた存在ですから。その範囲が広かろうが狭かろうが、その人に対して多くの人が「」とイメージした場合、その人はその役割に徹しようとするものなんですよ。

 

 ロアは淡々と説明する。

「だから妃慈さんは止まり木になんてなってしまったんです、誰よりも『安心する』『頼りになる』そんな存在を期待されて、それに応えようと妃慈さん本人も並み以上に頑張ってしまった結果なので悪いことではないですが」

 ――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 

 品行方正、模範的、生徒会書記、成績優秀。

 いつからか日申 妃慈ひもす ひなりという存在を形作る言葉はそればかりになっていた。

 別に私自身も嫌なわけじゃなかったし、そのために努力して、認められた時の達成感自体は私も好きだったのだと思う。

 求められるものは次第に増えていった。自分の事だけではなく、次第に周りの存在に対しても勉強を教えてあげたり、何かを手伝ったり、時には素行の悪い生徒に対しても更生させるための働きかけを『生徒会だから』ではなく『日申さんだから』と求められた事もあった。

 善意や期待だけじゃなく、悪意や失望に対しても受け止め肯定プラスに出来るように努めた結果、それがあらゆる事柄に対しての『止まり木』となってしまったんだ。

 

 別になろうとした訳じゃない、気付いたらなっていました。

 ――そんなもんです、怪異にかかわりを持つ人間は、なにも望んでそうなっていない。

 私はどうすればいいんでしょうか。

 ――『止まり木』という役目を悲観する必要はありません、誰しも役割を持っています。傘音くんも、ボクにも。

 同じように妃慈さんの役割が『止まり木』になったんです、その役割も一度受け止めてみて下さい。

 出来るでしょうか。

 ――出来る、とか。出来ない、とか。そういう話じゃないんです。妃慈さんの今まで積み重ねたものが『止まり木』になったんです。それは決して不名誉なものじゃない、人でも、物でも、怪異でも、誰かの拠り所に成れるなんていうのはそうそうないことなんですよ。大丈夫、自信をもって良いんです。


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 妃慈さんの怪異は、妃慈さんという止まり木へ、羽を休めに来ていた様々な鳥の怪異の仕業だった。

 仕業というのにも語弊があった。それは本当に、ただただ休みに来ていただけであったのだから。

 元来福を招く怪異も、悪さをする怪異も、分け隔てなく全てが『日申 妃慈』という止まり木に止まって、少ししたら飛び立っていただけだった。


 妃慈さんの声にノイズが重なって聞こえた理由だけど、古来よりカラスは『死を予兆する鳥』としての伝承が残る、その影響で生まれた怪異の鳴き声が妃慈さんの声に重なっていたんだろうという事だった。


 僕が見た、夥しい数のカラス。あれは僕自身も怪異として寄せられていたらしい。存在が怪異寄りであることと、名前に『さぎ』の字が入っているかららしい。

 理由として無理やり感があったが、ロア曰く「たいを表すから」という事らしい。

 怪異とは概念。そのものに対して『こうだ』と定められたものが、形を得たものが怪異。

 あの時、妃慈さんの『止まり木』としての概念が僕の目の前に、妃慈さんの形を借りて現れた、とかなんだろう。

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 「妃慈さん、ちゃんと自覚してください。貴女は止まり木なんだから、休ませた後はしっかりと飛び立たせるんですよっ」

 ロアが妃慈さんに自分の役目について教えている。これだけだが分かる。この事件は解決するんだ、って。

 止まり木は、ただ鳥を休ませるだけの木ではない。休ませた後に飛び立たせてあげる役目もある。

 あぁ、だからこの人妃慈は『止まり木』なんだ。

 ――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 

「私は止まり木……私は、止まり木……わ、たし、は……」

 人はあんなにも眉間に皺を寄せられるものだろうか。普段は皺ひとつ無いはずだった顔は、かれこれ10分ほど深い深い皺を刻み続けている。


「要は自覚ですっ、自分自身は『止まり木』だと自覚し、その役割に遂行することが大切ですっ、そうすれば怪異は害ではなくなり、逆に力を貸してくれるようなりますっ」

 ロアはこう言っていた。

 確かに僕が事件に巻き込まれた時も同じようなことはやった――やり方はもっとずっと荒々しかったが。


「妃慈さーんっ、力み過ぎずで大丈夫ですよーっ」

 手をメガホン代わりに口の横に当てて、ロアが妃慈さんへアドバイスをする。

 「はい!」と大きな声で返しているが、依然として表情は変わらないのでわかってはいないのだろうと思う。

 気持ちはわかる、僕のときは中学生の事だったが、高校受験直後から卒業式までの約一ヶ月間はロアのところに通い詰めてた。その間は朝から晩まで同じことを繰り返してた。

 自分自身が怪異であることを自覚する。わば『無自覚の自覚』なのだ。そうできるものじゃない。

 目を凝らしてみると、鳥の怪異は順調に集まってきているみたいだ。

 影のようにぼんやりしたもの、煌々こうこうと光っているもの、中には妖怪絵巻で見たような有名どころもちらほらと。

 妃慈さんの体に近付いていくとスゥッと朧気おぼろげになっていく、彼女の体が昼間にも関わらず少しい光を帯びたような印象を持つ。

 なんとなくだが、温かく感じる心地の良い光だ。

 両手を大きく上に掲げると、妃慈さんを包んでいた光がより一層温かさを増し、大小様々な翼を一斉に持ち上げ、集まっていた鳥の怪異たちが飛び立つ。実体はないので音こそ無いものの、その光景には何とも言えない迫力――荘厳そうごんさを感じた。


「うん、できましたねっ」

 妃慈さんから少し距離を置き、僕と並んで立っていたロアが飄々とした普段の顔を五割増しくらいニヤけさせながら満足そうに言った。

 ん、できた?

「え、ロア? 妃慈さんのあれ、完了なのか?」

「はい、大方完了ですっ」

「まだ始めて10分も経ってないけど……?」

「自転車って乗れるようになるまでに、個人差がありますよねっ」

「慣れるまで日にちを分けて練習するとか……?」

「自転車って一度乗れれば、何年か期間を空けててもコツって忘れないですよねっ」

 なんで全部例えが自転車なんだ!

 

「それよりも、傘音くんっ」

 飛び立たせてあげた後、また羽を休めに来た別の怪異と、本物の鳥を可愛がるように戯れる妃慈さんを見ていた僕とロアは、目線を外さず、その場の邪魔にならないように小声で僕を呼ぶ。

 「ん?」と短く小さく返事をすると、僕の体の前に竹箒を持ったロアの手が差し出された。

「じゃあ、掃除のお手伝いをお願いしますね。お礼はそれで大丈夫ですっ」

 横目でロアと竹箒を交互に見るが、今回は全面的に助けられてしまった。

 僕は渋々、竹箒を受け取る。

 ズズッと鼻を啜り、僕は枯れ葉を掃き始めた。

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