Episode Final 異世界最高!



 『古竜の巣』での戦いから1年ほど経った。


 俺たち3人はキルス王都から移動し、

人口1000人ほどの静かな街シルバニアに家を構えた。


 街の人たちも俺たちのことを快く受け入れてくれ、今では仲良く暮らしている。

俺が貴族ということもあり、なんか領主みたいになっている気がするが。


 茜もシェネルも不満はないようで、

いつも楽しく暮らしている。


 ただ最近はまた小さい面倒ごとが増えている。


 御剣たちは悪いやつではないが、

ほぼ洗脳状態にしているミーシャはその限りである保証はない。


 将来的には彼らと再戦する可能性はあるが、今は平和だ。領地で起こるいざこざを解決したり、ちょっとした魔物の群れから村人を守ったり。


 楽しい日常を送っている。



 俺はのんびりとした生活がしたいんだ。

穏やかで優しい村人たちに、家でゆっくりしている茜とシェネル。

そして俺は領主として少し働きながらも、基本は村人たちと協力して問題を解決したり。


 そんなスローライフが俺の夢だ。

 そしてその夢はもうこれからすぐに、

いやもうほぼ叶いかけている。



 


 しかしそんな平和な日常の一部として、

ちょっとしたトラブルが今日もまた一つ、イブキの元へやってきた。


「イブキ様!助けてください!

大きな狼が森から突進してきそうです!」


 俺の家の門を叩き、村人の1人が助けを求めている。大きな狼か、ウルフ系の魔物かな。

 とりあえず村を壊されるわけにはいかない。

俺が対処しにいくか。


「わかった今行く」


 そう伝えた俺はこの前手に入れた能力『空中歩行』を使って2階の窓から直接外へ向かう。

本来『超進化』や『空中歩行』のような特別な固有能力は1人一つだが、ステータスのない俺にその法則は当てはまらない。


 『模倣』の能力を持ったやつなんかは一つだけ人の能力をコピーできるが、一つだけだ。

俺が『模倣』を手に入れたら世界中全ての固有能力を手に入れられるだろう。

 そしたらもう【固有】じゃあなくなっちゃうか。


「お、あれか」


 空から見下ろすと、確かに森の方から砂埃が上がっておりその先には一匹の犬がいる。

村人は狼と言っていたが、あれは犬じゃないか。

 銀色の美しい毛を持っているが、その顔はなぜか酷い表情をしている。まるで何かに怯えているかのような顔だ。


 何かに追いかけられているのかもしれないと考えた俺は、犬の後ろをよく観察すると、見えた。

一匹の巨大な蛇が。恐らく犬はあれから逃げているんだろう。


 あのまま放置しては犬が蛇に食われてしまうだろう、それは可哀想なので蛇を倒して犬を助けようと考える。とりあえず俺は犬の進行方向に着地する。


「俺の後ろに逃げろ!」


 そう犬に伝えてやると本能で意味を感じ取ったのかは分からないが、しっかりと俺の後ろに逃げ込んだ。

 対してこれらは向かってくる蛇は勢いを落とさず体をくねらせてやってくる。こうして近くで見るとかなり大きい蛇だ。


 ま、斬れないほどじゃないけど。


 己の勝利を確信しながら俺は竜剣を抜き放ち、蛇に狙いを定める。首を一断するイメージで振るった剣は正確に蛇の丸太のような首を両断した。


 あんまり強くなかったな。


 そんなことより銀色の犬の手当てをしてあげないと。そう思って後ろを振り返ると、右前足に怪我を負った体長1メートルほどの犬がいる。

俺がさっき助けた犬だ。


「大丈夫か?すぐに手当てしてやるからな」


 そう声をかけると犬はか弱そうな声で小さく鳴いた。


「くぅーん」


 俺は犬を抱えて『空中歩行』を開始する。

怪我を負った犬を抱えているので早くは走れないが、地上をいくよりずっと早い。


「茜、この犬を治療してやれないか?」


 俺は治療の得意な【聖女】茜に声をかけた。

彼女はその『祝福』のおかげで全ての治癒魔法を使用できる。

 ここ、シルバニアの街でも貴重な回復術師としてたくさんの村人を助けている。

そのおかげで茜は村の人気者だ。

あかねが道ですれ違った人がほぼ全員『このまえはありがとう』と言うほど多くの人を助けてきている。


 そしてその魔法対象は人間だけでない。

村人のペットや家畜を治療したりなど、いろんな生物の治療ができる。


 だから俺はそんな頼りになる茜に犬の治療を頼んだ。茜は快く受け入れてくれて、今もうすでに知慮に取り組んでくれている。


 俺は2階に戻って本でも読もうかと思ったとき、

玄関のベルが鳴った。誰だろう、狩りに行ったシェネルが帰ってきたのか?それにしては早すぎるな。


 誰だろうと少し不信感を抱きながら玄関を開けるとそこには予想外の人物が数人立っていた。


「イブキ・フジワラさんですか?

すこしあなたに聞きたいことが」


 なんと衛兵がいたのだ。

俺は何も悪いことはしてないはずだ、

さっきだって村に来ようとした犬を助け、蛇を殺しておいたし・・・・・あれ、俺、殺した蛇の死体どうしたっけ?


「森の入り口あたりで死んでいた【邪蛇バジリスク】を倒したのはあなたで?」


 邪蛇バジリスク?

そんな大層な魔物だったのかアレ。


 そういえば死体を放置しちゃってたな。


「はい」


 すると先ほどまで難しそうな顔をしていた衛兵たちは急に顔を輝かせて言ってくる。


「なんと!あの邪蛇は伝説の魔物とも言っていい存在です!それを倒してしまうだなんて物凄く強いんですね!」


 まあ、弱いつもりはないが。

それにしてもなんだ、目が、完全に崇拝してるような目をしてるぞ。

 もしかしてマズイ展開じゃないか、コレ。


 いやでも大丈夫だ。

俺は「俺なんかやっちゃいました?」なんてことは言わない!


「あ、ああそうだ。じゃあ!」


 俺は顔を引き攣らせながらも、

バッと玄関の扉を閉じ、逃げる。


「イブキ!バジリスクを倒すだなんて凄いじゃないか!あれは神話のころからいる魔物だぞ」


 家に入るとシェネルがそんなことを言う。

神話の時代の魔物だったとはな。そんなに強いやつだったのか、あいつ。


 なんか自惚れているみたいで嫌だが、

正直に言うと、俺って結構強いんじゃね?


 ま、それは置いといて。








「異世界スローライフ最高!」

「「最高!」」



  〈おわり〉


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

ステータスに縛られない俺は無限に成長し無双するー異世界に召喚されたがステータスが無いだけで無能と言われ追放された。みんなはステータスに成長限界があるらしいけど俺はそんなの知りませんー 玉塵 @rei32418

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ