Episode 19 vs. 死神②


 俺と死神の戦闘が始まった。


 俺は死神との間のピリピリとした緊張感に興奮を覚える。強敵との接戦。

これほど面白いものはない。


「はぁっ!」


 両足に力を込め、地面を強く蹴って死神に肉薄する。

 死神の攻撃にも対応できるように竜剣は中段に構えている。


 死神も戦闘の開始を察知したのか、動き始めた。

鎌を八相の構えのようにしている。


 きっとこのまま迂闊に近づけば死神から繰り出される鎌の攻撃をくらいあっさり死ぬだろう。


 幸いなことに死神の構えからどう攻撃がくるかは分かりやすい。ちょうど右肩あたりに構えた鎌はそのまま振り下ろせば、右斜め上から左斜め下を一直線に裂くような斬撃になるだろう。


 俺、正面側から見れば左斜め上から右斜め下への斜めの攻撃。

 一振りだけでも広い攻撃範囲をもつやつの鎌による攻撃は危険だ。


 まともに食らえば大量出血で死ぬ。

どうにかして回復ができればいいが、生憎そういう能力は俺にはない。後々の課題だな。


 ーーウー


 そんな呻き声のようなものをあげた死神は鎌を振り始めた。


 当然その攻撃は予想していたので剣で弾く。

 この死神、頭は良くないようだ。


 鎌を弾かれた死神は体勢を崩し、攻撃はできない。これなら近距離まで近づいても、いける!


 俺は攻撃に移る。

弾いた時に左に傾いた剣をまっすぐに戻し、そのまま死神の首筋まで一閃。


 ーーすっ


 抜けた。

 死神の首筋を真っ直ぐに切り裂いたはずの竜剣は、手応えを感じることなく死神の体を抜けた。


 斬った感覚はないし、実際俺の目にも無傷の死神が映っている。


 それよりも、まずい!


 今の数秒で完全に立て直した死神は今度こそ必至の一撃を放ってくる。俺は体重をかけた攻撃が空振りして重心が前によっている。


 今のままでは後ろに飛んで攻撃を避けることはできない。それに対して死神の攻撃はもう1秒後には目の前に迫っているだろう。


 まずい、まずい、まずい。


 待てよ、あいつの体は物理的に透ける。

鎌は実体があったが、やつの体と黒い布は俺の剣を通さなかった。


 それならこれもいけるはず。

唯一の可能性にかけ、俺は飛び込んだ。



「ぐぅっ!」


 俺は呻き声をあげる。

だがそれは鎌による攻撃をくらったからではない。


 成功したようだ。

鎌が迫り来る一瞬、俺は後ろに飛べないことを理解した。だから逆に、前に出た。


 空振りした後で重心が前方に偏っているからこそできる素早い動き。

前に飛び込んだ俺の体は、実体を持たない死神の体を抜け、鎌の攻撃を避けた。


 地面に激突したから多少の痛みを覚えるものの、鎌の攻撃をくらうよりはマシだっただろう。


 死神は絶対に当たると思った攻撃が躱されたことに驚いているようだが、すぐにこちらを振り向きニヤッと笑みを浮かべた。


 俺が向こうに対する有効な攻撃手段がないことに気がついたのだろうか。

 だとしたら面倒だ。

実際俺に良い攻撃手段がないのは事実。


 魔法でも使えたら攻撃は通ったのだろうか。

やはり強敵と対峙してこそ見つかる課題は多くある!


「おい、お前。俺はこの剣だけでお前を斬る!」


 俺は死神に対して宣戦布告をする。

通じないはずの剣だけで倒すと言っている。


 死神からしたら舐められたも同然。

低い知能ながらも、顔に怒りの表情を浮かべたやつは、鎌を構えて迫ってくる。



 これで、いい。


 俺は気づいている。

やつの透過は完璧ではないし、意識してあの状態を保たなければいけないこと。


 やつは攻撃に持っている大鎌を使う。

当然、鎌は相手に接触して切るため実体はある。

ならば、その鎌を握る手は?


 もしやつの手が実体ではないのだとしたら鎌を握れているのはおかしい。実体ではないのに実体に触れることは無理だ。


 それは俺の攻撃が死神の体を透過したこと、さらに俺の体が死神の体を透過したことで証明されている。


 だとしたら答えは簡単。

やつの鎌を握っている右手は実体!

でも他の体の部分は非実体。

 同じ体なのに部分によって違うということは、自らで実体か非実体か、コントロールできるということ。


 右手だけが実体ということはない。

やつはさっき両手で鎌を持っていたから、もしそうならやつの左手も非実体なはず。


 だが俺がさっき前に飛んだ時に触れた、いや触れられなかったやつの左手。触れられなかったのだ。非実体ということになる。


 これがやつは意識して実体、非実体と入れ替えていることを示している。



 完全な非実体ではない以上隙はある。

現に右手は斬れるだろう。


 そうと決まれば連続して斬り続けるのみ!


「さあ、第2ラウンドだ」

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