Episode 11 試練を求めて



 新しい剣を使い始めてから、

何日か過ぎた日のこと。


 俺は泊まっている宿の中で、神妙な顔をしたシェネルに話しかけられた。


「イブキに初代竜王の残した秘伝の技をやろう。

『超進化』だ。効果は単純、成長速度が通常の10倍くらいになる。妾など他の奴がやってもすぐに成長限界を迎えるだけだろう。

だが、お前なら上手く使えるはずだ」


 『超進化』

『祝福』のようなものだろうか。


 いや、女神からではなく初代竜王からだというし、技のようなものと捉えた方がいいか。


「ありがとう」


 成長速度が上がるというのは俺にとっては最高の能力だと思う。


 これはつまり、ある程度強くなったらステータスに縛られ成長できなくなる他のやつとは違い、

いつまでも通常の10倍で成長できるという意味だ。


 長い年月をかければ間違いなく最強ルート確定だ。ただ俺がほしいのは強さだけではない。

最終目標は地球に戻ることだ。


「それで、どうやって『超進化』を使えばいいんだ?」


「ああ、秘伝の技ということで簡単に与えることはできない。妾が渡したいと思っても簡単にコントロールすることはできないのじゃ」


「だから、どうするんだ?」


 急かしたみたいになってしまう。

自分の成長が楽しみで少し焦っているのだろうか。


「試練が、あるんだ。それもかなり高難易度の。

古代竜族に伝わる訓練場、という感じなのだが、いろいろ複雑でな。

詳しい説明は目で見ながら聞いた方がいいだろう」


「分かった。とりあえず、『超進化』を得るにはその試練をクリアすればいいんだな?」

「そうだ」


 そうして、俺たちは古代竜族の住んでいた場所へと向かうこととなった。


 聞くところによると、かなり離れた場所にあるらしいので、俺を召喚したここキルス王国からもしばらく離れることになるだろう。


 移動はシェネルがどうにかすると言っていた。


 俺たちは今日を、旅に出る用意の日として使い、

早くも明日を迎えた。




 現在、俺はキルス王都から遠く離れた切り立った崖まできている。


 身投げじゃないよ?


 そして、隣にいるのは白銀色の鱗をもつ美しい竜だ。シェネルの竜フォームを見るのは初めてになる。


 街中で竜になったりしたら大騒ぎになるからな。


 ちなみにここはまだ古代竜族の街ではない。

ここからシェネルに乗って移動するらしい。


「イブキ、乗れ」


 竜フォームのシェネルから発せられる声はいつもの柔らかいものとは違う。

重圧感のある、竜、という圧倒的な力を持った生物であることを感じさせる声だ。


 俺は、シェネルの後ろ足のところから飛び乗り、

少しずつ上に登ってゆく。


 頭らへんのところまでいくと2本の角があった。


「角、掴んでもいいか?」

「ああ、いいぞ」


 了承をもらったので、そこに座って角を掴んだ。


 シェネルの両翼がゆっくりと動き出し、

崖を強く踏み、空中へと飛び出した。


 落ちたりしないか不安に思いながらも、

空中から見える美しい景色に目を奪われる。


 竜の飛行は速い。

俺が背中に乗っているから、少し遅くしてくれているのだろうが、それでも速い。


「・・・うっ!」


 反対側から来る空気ですら勢いを持って痛い。


「悪いが我慢してくれ」


 そんなぁ。


 我慢するしかないことが分かり、

覚悟を決めた。



 それから2,3時間ほど飛んだ頃だった。


 シェネルが飛行速度を落とした。


「そろそろ着くのか?」

「ああ、あと少しだ」


 周りの景色を見渡すと、キルス王国とは全く違う様子が広がっている。

見える限りで地上に人間はいない。


 山、だ。

1000メートル級の山々が連なっている山脈地帯にきているようだ。


 あちこちにトカゲのような小さい竜のような生き物や、それより大きくもっと竜って感じのもいる。


「なあシェネル、あいつらもやろうと思えば人間の体になれるのか?」

「無理に決まっておる。人間フォームが使えるのは今の世界なら妾だけじゃ」


 ほーん、やっぱシェネルは特別な竜族なのかぁ。


 

 シェネルは一際大きな山の前まで来て、着陸した。



「これは、何かの遺跡?」

「ああ、『古竜の巣』だ」


 一際大きな山だと思った山の麓には、

人工的な扉のようなものが彫り込まれている。


「この扉を開け、中に入ると試練が始まる。

この山自体が試練の間だ。ダンジョンのような感じで中には魔物がいる。

それらを倒し、最上階層までいけばクリアだ。

最悪、死ぬ可能性もある。

それでも、やるか?」


 そんなの、答えは決まってる。


「当たり前だ」

「分かった。じゃあその剣を上手く使って戦えよ」


 よし、行こう。


 俺は扉を押し開け、中に入る。


「じゃあ、行ってくる」




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