偶然が二度目なら…⑮

 いきなり現れた派手な色目の服を着た女性に対し、怪訝そうな顔つきで視線を向ける見合い相手。


「そちらこそ、どちら様ですか?」

「はい?」


 腕組しながら見下ろす女性は、にやりと余裕の笑みを浮かべた。


 見合いのことを知ってるのは母親くらいのはず。他に誰にも今日のことを言ってないのに。

 誰かと勘違いしてるのかもしれないと思った俺は、女性の顔を仰ぎ見た、次の瞬間。サングラス越しの彼女と視線が交わった。


「柾のお見合い相手の方、……でしょ?」


 その場の空気が一瞬で彼女のペースに切り替わった。

 俺の肩に手を乗せ微笑む彼女。それが、アイコンタクトだと分かった俺は、小さく頷いて応える。


 蛍光の黄色のアウターに黒いハーフパンツを合わせた服装の俺にマッチしてる彼女の服装。

 しかも、足下を見たら、シューズまで同じものを合わせてるときた。


 見合いだとは伝えてないが、もしかしたら偶然にもこの状況を見かけて、フォローしてくれたのだと勝手に解釈する。


「久我さん」

「……はい」

「先ほど、今好きな人はいないって仰いましたよね?」


 見合い相手が挑戦的な視線を俺の隣りにいる彼女に向け、口にする。

 あ~、そんな質問あったな。『いる』といったところで引き下がるような性格には思えない。俺の第六感がそう思わせた。


「『好き』な人はいないですよ」


 俺の肩に手を置く彼女の手を取り、腰に手を回して引き寄せる。


「『好き』ではなく、『愛してる』女性ならいますよ、ここに」


 俺の膝の上に座らせた彼女を腕の中に閉じ込め、目の前の見合い相手に見せつけるように、彼女の髪にキスを落とす。

 顔から火が出そうなほど憤慨した見合い相手は、テーブルの上に置かれている手がわなわなと震え出した。

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