イケメン検事の一途な愛

蓮条

偶然は突然に

偶然は突然に➀

まさき、二次会は?」

「あ、悪ぃ。まだ仕事が残ってるから戻らないと」

「マジか。そういえば、お前飲んでなかったもんな。柾、帰るってぇ~」

「えぇ~、久我くが君帰っちゃうの~?」

「悪い、また今度な」


 桜が咲き始めた3月下旬。都内の四つ星の某ホテルで今日、大学時代からの同級生カップルが挙式をし、19時から35階のスカイラウンジを貸切っての披露宴が行われた。

 平日(金曜日)の結婚式とあって、挙式自体は親族のみ。夕食を兼ねた披露宴に呼ばれたのだ。


 既に酒が回っている友人らが、『仕事なんてなんとかなるだろ』と言いながら、強制連行とばかりに肩に手を回して来たのを軽くかわした。

 二次会を断った俺、久我くが まさき(28歳)、検察庁所属の現役検事である。

 披露宴がお開きとなり、二次会の会場へと移動が促される中、俺は友人らに挨拶して、一足先に会場を後にした。


 この手の付き合いが嫌いなわけじゃない。どちらかと言えば、交友関係は広い方だ。検事という職種柄、仕事を理由にすれば、大概この手の集まりからは早々に離脱出来る。


 今日は朝から小雨が降り続いていて、こんな雨の日は一人でゆっくりと過ごしたい、ただそれだけ。


 金曜日の21時を回り、ホテル内はさすがに宿泊客も多く、幾つかあるエレベーターはひっきりなしに稼働している。

 1~2分ほど待ち、漸く来たエレベーターに乗り込み【B2】を押す。扉が閉まると、緩やかに降下し始めた。


 僅かな浮遊感を感じながら、ゆったりとしたピアノの音色(BGM)に耳を傾ける。

 検事という職業は一年中仕事に追われるが、年度末の今は特に忙殺され、ゆっくりと音楽を堪能する余裕すらない。

 壁を背にして凭れかかり、ネクタイの結び目をほんの少し緩めた、その時。ピンポーンという停止音が鳴り響き、25階でエレベーターが停止した。

 何人乗るのか分からないためため角へと移動し、乗るであろう利用客と視線が合わないように顔を伏せる。

すると、ゆっくりと開いたドアの隙間から、声を荒らげる男女の会話が聴こえて来た。

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