剣と勇者とドラゴンがない

沼津平成

本編に入る前に~本編

【本編に入る前に】




 私は児童文学作家じどうぶんがくさっかだと自負している。

 児童文学と童話とは何か? またその違いは?


 この問いを頭の中にいつも入れている。

 天使がわっかをいつも回しているような感じで。


――答えを言うのは簡単だ。


「ともに幼年ようねん・少年時代を想定した文学。ただし児童文学の想定読者そうていどくしゃは童話の読者より少し年代が高い」


 しかし、これは本当に正しいのだろうか? 現に最近の子供を見てみろ。あのちっぽけな体でもうライトノベルや一般の書籍しょせきを読んでいる。差別だなんだの問題の以前に、もう一度これを考えてほしい。


「児童文学と童話とのありかたは?」


 本作を書くにあたって最も意識いしきした、そして最もむつかしい問い。


 あなたもかみしめてほしい。


【本編】



 幼稚園生、陣内宗也じんないそうやくんの担任の先生は悪魔です。アッシュ先生です。


「アッシュ先生、おねがい!」

と、いうと、アッシュ先生は決まって、

「ええ、いいですよ」

「ええ、いいの?」

「うん、いいんだ」

 アッシュ先生は、遠くを見えていました。

「いいんだよ。ほら、いってらっしゃい……」

 副担任ふくたんにんのミドー・フクチ・ミホ先生は、その様子を怪訝けげんそうに見ていましたが、最近のたい度が悪すぎて、つい……。

「私も魔王よ」

 その言葉を聞いた途端アッシュ先生はいいました。「あなたが担任でいいわ。私、副担任で……」

 次の日、ミドーミホ先生は困っていました。

「ああもう! やりがいがない仕事ね。報酬ほうしゅうはあるんでしょうね?」

 そこでかつて、同僚どうりょうから聞いた話を思い出しました。

「スラ―幼稚園職は年収90マスだ」

90マス――日本円でいう90万円。ミドー先生は机の上に、伏せながら泣いていました。

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剣と勇者とドラゴンがない 沼津平成 @Numadu-StickmanNovel

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