現代サキュバス学

彼岸花

傍にいるサキュバス

 サキュバス。

 この言葉を聞いた時、あなたは何を思い描くでしょうか?

 男を誑かし、精を吸い取る魔物?

 美しい女の姿をした化け物?

 性に奔放で、ふしだらな存在?

 裸のような姿で歩き回る不審者?

 それらのイメージは、必ずしも間違いではありません。少なくとも百年前まで語られていた、或いは今もフィクションの世界で描かれている、そして現代人がすぐに思い付く、空想上のサキュバスについてであれば。

 ですが我々が生きる現実の、傍にいるサキュバスについてであれば、それは偏見と言うしかありません。




 サキュバスが空想上の存在ではなく、現実に、我々人類と共に暮らしている。

 この事実を凡そ六十年前の生物学者、アダム・ブラウンは明らかにしました。更にその三十年後、当時最先端の生物学研究により、サキュバスの存在は完璧に実証され、人類は異種の知的生命体の存在を知りました。

 ですが六十年前の論文に記載されたサキュバスは、思い込みと偏見に満ちていました。研究による実証は偏見の解消にはならず。迫害や差別が横行し、サキュバスのみならず人類さえも苦しめました。

 研究が進んだ現代では正しい知識が得られるようになりましたが、残念ながら未だ偏見は打ち消せていません。一般の人々、政治や経済の世界はサキュバスの正しい姿を知らず、様々な国で無意味かつ有害な差別が横行。一部の国では今も誤った政策が取られています。




 少なくない科学者が、こう考えています。

 今の人類社会はサキュバスがいてこそ発展した。サキュバスがいなければ異なる歴史を歩んでいたと。

 例えば西暦二〇二八年現在にに着手する事は出来なかったのではないか、とも言われています。

 または第二次世界大戦時、寸でのところで止められたも、実施されたのではないかと。

 いずれも可能性であり、反サキュバス派の人々は「人間はそこまで愚かではない」と主張します。確かなのは、それらの決断を下したのはいずれも人間ではなく、サキュバスだった事でしょう。

 そのサキュバスへの差別と偏見は、人間に何をもたらすのでしょうか?




 サキュバスとは、どのような存在なのでしょうか。

 サキュバスは人間にどんな影響を与えるのか。

 害があるのか、有益なのか、どう付き合えば良いのか。

 現在の人間は、正しい選択をしていません。我々が対応を誤るのは、無知と思い込みの結果です。正しい知識を持ち、思い込みを捨てれば、我々はサキュバスの真の姿を知る事が出来るでしょう。それは不当な差別をなくし、サキュバスという隣人との適切な付き合い方を教えてくれます。

 勿論今の知識が必ずしも正解とは限りません。科学は今も発展し、今後も新たな説が出てくるでしょう。ですが今の不完全な知識でも、過去の誤りを正す事は出来ます。我々は常に知り続ける事で、正しい道を進んでいけるのです。




 今夜の『惑星センセーショナル』は、身近なようでよく知らない、隣人サキュバスについて放送します。

 全てを見終わった時、あなたの中のサキュバス像は大きな変革を遂げる事でしょう。

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