天使のような悪魔たち

@rui-turuta

第1話

桜の蕾がほころび始めた。目の前には青い空が広がり、所々にちぎれた雲がゆっくりと形を変えながら流れていた。

つばさ保育園の2歳児、ひばり組の担任になった三咲玲奈は、保育士になって2年目。

今日から、心も新たに新学期が始まった。

朝礼で、総勢15人の職員の顔合わせが行われた。

年度末に定年で退職した保育士と、姉妹園に異動した3名の保育士に代わって、3名の異動してきた保育士と、新卒の若い男性保育士が1名採用されていた。

園長から自己紹介が始まり、続いて園長の横に並んで座った男性保育士の番になった。

「今年から採用されました吉田詠斗です。わからないことばかりですが、先輩方に色々教えて頂いて、早く仕事に慣れて。皆さんや子供たちと仲良くなりたいと思います。よろしくお願いします」

詠斗が緊張した面持ちで、深々と頭を下げた。皆から拍手が沸いた。

つばさ保育園では、初めての男性保育士だった。

「詠斗先生には、主任と一緒に3歳のうずら組を担当して貰います」

園長が主任の顔を見ながら言った。

玲奈は短大卒、詠斗は大学卒で、詠斗は後輩だが、年は詠斗の方が一つ上だった。

他の保育士も、結婚退職する人も多くいて、40歳の主任以外は、20代から30代の独身者が多かった。

次々と自己紹介が終わり、最後に園長が、

「皆さん、一年間このチームでよろしくお願いします」

と言って閉めた。

朝礼が終わり、みんなそれぞれの部屋へと散って行った。

「玲奈先生」

不意に声をかけられて、玲奈は一瞬ドキッとした。

「はい」

振り向くと、詠斗が小走りに追いかけて来た。

「玲奈先生、中学の時、一つ下にいましたよね?」

玲奈は、よく覚えていなかった。

「南中ですか?」

「そうです」

詠斗が嬉しそうに答えた。

「あら、私も南中よ」

後ろにいた横山由美が、口を挟んだ。

「でも、詠斗先生、私の1つ下だけど、記憶にないか」

由美は、残念そうに言った。

玲奈は、歩を速めて二人から離れるように、ひばり組に入った。玲奈は、由美が苦手だった。由美は玲奈と同じ吹奏楽部の先輩で、玲奈が一年の時、由美は三年だった。

去年、20代の保育士5人で合コンに行った事があったが、誰が良かったかと由美に訊かれて、玲奈が良かったと答えた彼と、いつの間にか由美が付き合っていた事があった。

その次の合コンでも、玲奈が気が合ってラインを交換した彼と、由美はホテルに行ったと自慢気に話していた。

それから暫くは、日々の仕事に追われていた。

詠斗は、身長は170cm位だが、イケメンでスポーツ万能、ピアノも上手で、子供からも保護者からも人気があった。玲奈は、隣の部屋から聞こえてくる詠斗の歌声に聞き入ってしまうことが度々あった。

その日は、3日後のお泊まり会の準備で、保育士達はみんな残業していた。辺りが暗くなった頃、それぞれに仕事が終わった人から帰り始めた。

一緒に組んでいる先輩は、誕生日で、アニバーサリー休暇を取っていたので、ひばり組の準備は玲奈が一人でやっていた。

「あー、間に合うかしら」

玲奈がため息を吐いた時、手提げ鞄を持った詠斗が部屋を覗いた。

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