Fortune ~be with me~
@rui-turuta
序章
第1話
荒れ狂う日本海の断崖絶壁 に、一人の女が白い花束を抱えて立っていた。
女の名前は、大原瞳。三十歳過ぎの落ち着いた雰囲気で、薄化粧だが誰が見ても美人だと思うような端正な目鼻立ち。肩甲骨の下まで伸びた髪が潮風に吹かれてなびいていた。
寂しそうなその横顔に、一筋の涙が流れて落ちた。瞳は何かを吹っ切ったかのように花束を海に投げると、くるりと海に背を向けて歩き始めた。
その様子を、少し離れた岩場の陰からじっと見つめている黒ずくめの男がいた。男もまた、瞳の後を追うように動き出した。
瞳は腕時計をチラッと見て、パンプスの踵をカツカツと鳴らしながら、小走りに歩を早めた。
8号線に出てバス停が見えてきた頃、瞳の後ろから路線バスが迫って来た。
「わあ、待って〜」
瞳が走り出した時、軽やかにジャージ姿の男が走って瞳を追い抜いて行った。
男はバス停で立ち止まり、バスに向かって手を挙げた。瞳を追い抜いたバスが、左にウィンカーを出してスピードを落とした。バスが止まり、後ろのドアが開いたが男は乗ろうとはせず、前のドアをノックして、運転手にドアを開けさせた。男は運転手に話しかけると、また走り出した。バスは瞳が追いつくまで停車したまま待っていた。息を切らして瞳がバスに乗り込むと、バスは静かに動き出した。
バスが、ランニング中の男を追い抜こうとした時、運転手が軽くクラクションを鳴らして男に合図した。男も運転手に向かって手を挙げた。最後部席に座って窓の外を見ていた瞳の目に、笑顔で手を挙げている男の顔が、飛び込んできた。
男が手を下ろした横を、バスの後ろを適度な車間距離を取りながら追走する一台の白いワゴン車が通り過ぎた。
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