また、明日。

@rui-turuta

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第1話

シュワッ。

炭酸水の向こうに青い空と青い海が見えた。

ガラス張りのカウンターに並んで座った、田中慶斗と恋人の水越優羽。

二人は、整形外科の理学療法士と患者だった。

あれは3ヶ月前、地域のバスケの大会があり、優羽の所属するチームも参加していた。

優羽は、小学生の時から大学までバスケットをやっていて、大学を卒業後は、市役所に勤め、社会人チームに入って活躍していた。

優羽は、決勝戦の4ピリで、ゴール下のリバウンドの競り合いでボールをキャッチして着地した時に、右足首を捻って倒れた。

優羽はその場で立てなくなり、仲間に肩を抱かれてベンチに下がり、アイシングをした。

試合が終わるとすぐに、キャプテンの原山由紀の車に乗せてもらい、病院へと向かった。

レントゲンを撮り、医師の診断のあと、リハビリルームで名前を呼ばれた優羽は、看護師の案内でベッドに横になった。骨には異常なく、捻挫の診断だった。

「お待たせしました。担当の田中です。よろしくお願いします。痛いのは右ですか?」

「はい」

慶斗の爽やかな笑顔が、優羽に好印象を与えた。

「今日は、試合だったんですか?」

「はい」

優羽は慶斗の質問に、笑顔で答えた。

「その格好からすると、バスケですね?」

「はい」

慶斗は、優羽の足首を持ってマッサージしながら、親しげに話しかけてきた。

「僕も、ミニからバスケやっていて、今は地元のチームに入ってるんですよ」

「そうなんですか」

「ちょっと、ひねりますよ。これは痛いですか?」

慶斗が、優羽の顔を覗き込んで言った。

「痛いです」

優羽は、ちょっと顔をしかめて言った。  

「これは?」

「痛いです」

「ここ押すとどうですか?」

「痛いっ」

優羽は、一瞬足を引いた。

「大丈夫ですか?」

「大丈夫じゃないですっ」

優羽は、泣きそうに声で言った。

「すみません。でも、痛いところがわからないと、治療できませんから」

慶斗は、笑いながら言った。

「ポジションはどこですか?」

「フォワードです」

「僕は、ミニの時は小さかったので、ガードやってましたが、中学からはセンターです」

慶斗は、話をしながら、電気の吸盤を足首の周りにつけ始めた。

「ちょっと電気入れますね。痛かったら言って下さい」

「はい」

「大丈夫ですか?」

「はい」

「では、終わるまで、ゆっくりして下さい」

「ありがとうございます」

慶斗は、一瞬優羽の顔を見つめると、次の患者を呼んだ。

トントンッ、トントンッと、リズムの良い振動が、足首を刺激していた。

ピーッ。

終了のブザーが鳴ると、再び慶斗が優羽の前に現れた。

「今日はこれで終わりです。暫くは毎日来て下さい」

慶斗が、電気の吸盤を外しながら言った。

「はい。ありがとうございました」

そこへ看護師が来て、湿布をし、包帯を巻いてくれた。

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