第7話


 船の揺られる事二日。目的地である、賢人島へ着きました。


「アチェ、ひさひさなのー」

「エレちゃん、久しぶりね」

「みゅぅ」

「今日は何の研究を持ってきてくれた?」

「ふっふっふ、今回はエレのとくちぇいちょぉけっちゃくなの」


「元気そうで安心じゃ。にしても、月鬼坊が女子と手を繋いでくるとは。もうそんな歳か」

「お久しぶりです。マークル先王」

「その呼び方はよせと言っておろう。エレみゃんの愛嬌振りまき術を見習えとまでは言わんが」


 月鬼が、話している隣で、エンジェリアは島民達にお菓子をもらっています。


「……」

「祭りを始めてから、時より来ては菓子をもらって帰る。あのくらい堂々大胆になれ」

「あれは餌付けされてるだけでは?」


 月鬼がそう思うのも無理はありません。島民達は、エンジェリアにお菓子をあげながら「今回の研究内容は?」「どんな発表をするの?」と聞いているのですから。


「……そういえば、そっちのお嬢さんは初めましてじゃな。わしは、マークル。月鬼坊の国の先代の王じゃ」

「星愛です。よろしくお願いします」

「初々しいのぉ。月鬼坊も、良い女子を捕まえたもんじゃ」

「そうですね」

「否定せんとは。そうだ。この島の島長を紹介せんとな。アチェ、新島長として挨拶せんか」


 アチェと呼ばれた少女は、星愛達がここへ来た時に、エンジェリアと真っ先に話していた少女です。


「アチェ、このちまのおちゃになったの?」

「マークルが師匠といちゃいちゃしたくて押し付けてきただけよ」

「ふみゅ。アチェはエレとおはなちちゅるの。おちゃはマークルなの」


 エンジェリアがそう言って、アチェと二人で、どこかへ行きました。


「アチェはもう少し自覚を持って欲しいものだ」

「押し付けておいてそれはないでしょう。アチェは年頃の女の子ですので、友人が来た時くらい遊ばせてあげても良いと思いますが?」

「……それもそうじゃな。月鬼坊、星愛嬢、宿舎に案内する」


 星愛達は、マークルにあんなにしてもらい、宿舎へ向かいました。


      **********


「ふみゅふみゅ。アチェ、これ可愛いの」

「可愛いわね。エレは今日どこで泊まるの?」

「知らない」

「俺達と一緒に宿舎に泊まると言っていただろう」


 宿舎に向かっている途中、星愛達は、エンジェリアとアチェに会いました。


「いやよ。エレは渡さないわ」

「アチェ」

「マークルがなんと言おうと、エレは今日、わたしと一緒に寝るのよ」

「ノービィンと同棲してるの忘れてるのか?」

「部屋の空きくらいあるわ」

「……エレ、ゼロとフォルはどうしたんじゃ?」

「ちゅきあいきれないとか言って、どっか行った。どっか行った二人ちらない。エレも、アチェとねむねむする」


「……二人が戻れば、強制的に連れ戻すじゃろう」


 マークルが、エンジェリア達を放って、宿舎に向かいました。


      **********


 宿舎に着いて、案内された部屋に荷物を置きます。

 荷物を置いたあと、星愛達は、祭りの手伝いへ向かいました。


「済まんのぅ。来てもらっただけでなく、毎度手伝いまで」

「いつも色々と融通してもらっているので、このくらい喜んでしますよ」

「そうかぃ。それなら、月鬼坊は、力があるからこういうのもやってもらおうかしらねぇ」

「二ギア、いつ来たんじゃ」

「祭りを手伝っていたんだよ。あんたに任せておくと信用ならんからねぇ。おゃ、月鬼坊が可愛らしいお嬢さんをお連れするとは。アタシは、二ギア。そこの淫魔の妻さ」

「星愛です」

「星愛お嬢さんか。お似合いだねぇ」


 二ギアは、星愛と月鬼を交互に見て、にこやかに言います。


「二ギア、話してないで準備をしないと間に合わんじゃろ」

「そうだねぇ。あんたが、サボってばかりいたおかげで、準備が遅くなっているから」

「おまえだって、準備をしているというのに、ここをこうしろ。そこをこうしろとうるさくいうからじゃろ」

「あんたが、売り物にネチネチとずっと悩んでいるから」

「おまえが、素材集めに手間取っているからじゃろ」


 マークルと二ギアが、言い合いながらも、手を動かしています。


「……こういうのも愛の形なんでしょうか?」

「そうかもしれないな」


「あんた、もっと早く手を動かしなよ」

「おまえこそ」

「二人とも、向こう終わった。アチェ知らない?」

「アチェならエレと一緒にいるさ。ノービィン、アチェを連れてきてくれないかね」

「分かった」


「もしかして、今の方が、アチェ様の」

「ああ。アチェの恋人だ」

「素敵な方ですね……あっ、私は月鬼様の方が」

「分かってる」


 来てすぐにアチェを探しに向かった、ノービィン。星愛と月鬼が話していると、マークルと二ギアが、にやにやして見ています。


「あつあつだねぇ」

「あつあつじゃのぅ」

「えっ⁉︎こ、これは」

「いやぁ、若いっていうのはいいのぅ」

「そうさねぇ」


 にやにやして見ている、マークルと二ギアの言葉で、星愛は顔を真っ赤にします。


「むにゅぅ」

「またマークル?なんなの?」


 ノービィンが、機嫌が悪そうな、エンジェリアとアチェを連れてきました。


「アチェ、ごめん。もっと話していたかった?」

「別に、まだ滞在するんだから良いわ」

「ありがとう」

「ノービィンが、お礼言う事なんて」


 マークルの前では、強気だったアチェが、ノービィンの前ではそれを見せません。


「好きな人の前だと……もしかしたら、私も」

「変わっていないな」

「若いっていいのぅ」

「そうさねぇ」


 恋人相手では、別人のようになるアチェを見ながら、星愛達は、小声で会話しました。


「ぷすぅ」

「エレー、好きー」

「エレー、好きー」


 ゼーシェリオン達が、機嫌の悪いエンジェリアに抱きつきます。


「ふたりきらい。エレ放った」

「準備手伝わないとで、忙しかったんだ」

「放ってなんてないよ。泣く泣く、こうして離れていたんだから。もう離さない」

「……ぷみゅ」


 ゼーシェリオン達の言葉で、エンジェリアは機嫌を直します。


「……」

「……」

「若いっていいのぅのくだりどうした?」

「……黒いのぅ」

「そうさねぇ」


 星愛と月鬼、アチェとノービィンには、若いくだりをしていた、マークルと二ギアは、エンジェリア達にだけは、別の反応を示しました。


「エレ、これ壊れてるの直せる?」

「ふみゅ。てんちゃい、エレちゃまにまかちぇたまえー……なんか違う気がちゅるの」

「あともう一息さねぇ。さ、頑張るよ」


 もう少しで、智欲祭の今日分の準備は終わります。


「二ギア、素材足りない」

「……」

「ふみゅ?なに足りないの?」

「飾り付けに使う布」

「ぷみゅ。ちょれなら、エレのとくちぇい布。せいじょうはきぎょぉひみちゅ。をちゅかうと良いの」

「ありがとう」

「みゅ。困った時は、お得意ちゃまなの」


 足りない素材等は、偶然エンジェリアが持っていて、順調に、準備を進めていきました。


      **********


 準備を終えて、宿舎に戻ります。


「今日から十日間、アチェがエレに会えないと寂しがるから、わしらもこっちに泊まる事にした」

「エレ、一緒にいられる」

「ふみゅ。いっちょにいられるの。エレは、ぎゅむぎゅむなの」

「むぅ。エレは、俺と一緒に寝るんだ」

「僕と一緒に寝るの」

「寝るよりも前に、今日はある程度準備を終えた祝杯をしようじゃないかねぇ」


 二ギアが、そう言って、豪華な食事と飲み物を用意します。


 エンジェリアが、目の前に置いてある酒に興味を示します。


「……じぃー」

「駄目だ。ついでに、星愛も駄目だからな」

「えっ?それって僕らは」

「見た目年齢的にアウト」

「仕方ないからジュースにしよっと」

「私、一応成人年齢です」

「駄目だ」


 星愛も、酒を見て興味はありましたが、月鬼が、星愛の視線から、酒を移動しました。


「おやおや?」

「星愛嬢が、酔う姿を見たくないと?」

「いやいや、マークル、それは違うんじゃないかねぇ」

「じゃあ、なんだというんだのぅ?」

「それは、当然、星愛お嬢さんが、酔っている姿を人前に出したくないんじゃないかねぇ」

「ほうほう。独り占めしたいという事かのぅ」


 星愛に酒を飲むのを止めている月鬼を見て、マークルと二ギアがにやにやと会話します。


「そういえば、酒ではなくても、酒の酔いに似た事になるジュースがあるんだよ。それを、飲めないお嬢さん達に飲ませてみてはどうかねぇ」

「ふみゅ。エレ飲みたいの」

「僕もそれ飲もうかな」

「俺も飲む」

「わたしも飲んでみようかしら」

「アチェが飲むなら」

「……私も、飲んでみたい」


 酒飲めない組は全員興味を持ちました。


「これなら、酒じゃないからいいんじゃないかねぇ?」

「……飲み過ぎないなら」

「ありがとうございます」

「エレもエレも」

「一気に飲んじゃだめだよ」

「ふみゅ。ゆっくり飲むの」

「さあさあ、飲んでくださいな」


 二ギアが、酒飲めない組に、ジュースを配りました。


「……甘いです」


 星愛は、最初に一口飲んで、味わった後、もう一口飲みました。


「あまあま?じゃあ、エレも飲めるの」

「どんどん飲んでいいさ。これはいっぱいあるから。おかわりし放題だよ」

「ほんと、ありがと」


 星愛が一杯飲み干した時、まだジュースを飲んでいたのは、アチェとエンジェリアだけでした。

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