第30話 サバイバルゲーム
真琴は江戸の街を歩きながら、少しずつ思い描いた計画を実行に移していた。自分の力を高め、清水五郎と手を組み、裏社会の支配権を握ること。だが、江戸の変革には単独では無理だと痛感していた。清水五郎との接触を試みたものの、話を進めるためには一つの問題に向き合わなければならなかった。それが、江戸市中に広がる謎の「サバイバルゲーム」だった。
このゲームは、江戸の裏社会に潜む犯罪者たちの間で密かに広まり、今や江戸中で数多くの人々がその存在を耳にしていた。ゲームの内容はシンプルだが、恐ろしいものであった。参加者は各々が決められた場所で与えられた任務をこなすことでポイントを獲得し、そのポイントを使って自分を強化することができる。しかし、その背後には確実に死のリスクがあり、ゲームに参加した者の多くは命を落としていた。
「あのゲーム、誰が仕組んでいるのか」 琴は思う。幾度となく江戸の裏社会で耳にするその名前、「サバイバルゲーム」の主催者が一体誰なのかは、今も明らかではなかった。しかし、琴は直感的にその背後に「ある人物」がいることを感じていた。それが、武市瑞山だという確信を持ち始めたのは、ゲームに関与している人物たちが、皆彼と繋がりがあることを示唆していたからだった。
琴が江戸の裏社会に足を踏み入れて数年。その中で出会った者たちの話や、ゲームに参加した者たちの死に様から、彼女はついに真実に辿り着いた。武市瑞山は、江戸の秩序を崩壊させるためにこのゲームを主催していたのだ。彼は、単なる権力欲や金銭的な利益だけではなく、このゲームを通じて江戸の運命を変えるつもりでいた。
「瑞山…」琴はその名前を何度も口に出しながら、彼の意図を考え続けた。武市がこのゲームを通じて何を達成しようとしているのか、それを知ることが江戸を変える鍵になると確信していた。
琴が江戸の裏社会での情報を集め、ついに武市瑞山との対面を果たす時が来た。江戸の繁華街から少し離れた場所、ひっそりとした茶屋で待っていると、長身で落ち着いた雰囲気の男が姿を現した。その男こそ、武市瑞山だった。
「中沢琴、久しぶりだな」瑞山は涼しげな目を向けながら、優雅に席に着いた。「君のような女性が、こんな場所で動いているとは驚きだ」
琴はその冷徹な眼差しで瑞山を見つめながら、ゆっくりと答える。「驚くのは早い。あなたが『サバイバルゲーム』を主催していると知った時、私はすぐにあなたを追い詰める決意をした」
武市は少しだけ眉を上げ、微笑んだ。「分かっているだろう。私がこのゲームを仕掛けた理由、そして目的は。江戸の現状に不満を持つ者たちに、力を試す場を与え、最終的には新しい秩序を生み出すためだ」
琴はその言葉をしばらく黙って聞き、ゆっくりと語りかけた。「あなたの言う秩序、それが本当に江戸に必要だと考えているのか? あなたが仕掛けるこのゲームは、ただの殺し合いだ。人々を試すために命を奪うことが、どうして新しい秩序に繋がる?」
「その答えを求めるのは愚かだ」武市の目が冷たく光る。「君のような正義感に縛られた者は理解できないだろうが、秩序を作るには時に破壊が必要だ。新しい江戸を作るためには、古い秩序を壊さなければならない。だからこそ、このゲームが必要だった」
琴はその言葉を聞き、胸の中で何かが引っかかるのを感じた。確かに武市瑞山が言うように、江戸の支配層は腐敗していた。だが、その「破壊」が人々の命を奪うことを正当化するものではないと、琴は心の中で強く反発を感じていた。
琴は少しだけ視線を落とし、次に言葉を発した。「ならば、あなたのゲームに参加することはない。あなたが進める『変革』は、私が思い描く未来とは違う」
武市は深いため息をつくと、ゆっくりと立ち上がりながら言った。「君の考えは理解できる。しかし、君がもしこのゲームに参加したなら、私は君を引き込むつもりだった。君には特別な役割を期待していたが、それも無駄なことになりそうだ」
「あなたが期待するものには興味はない」琴は一歩前に出ると、鋭い眼差しで言った。「私はこの江戸を変えるために、あなたと戦う」
武市はその言葉に微笑んだ。「では、戦おう。だが、君がどれほどの力を持っているのか、私は非常に楽しみにしているよ」
その瞬間、江戸の街を震撼させる運命の対決が、ついに始まろうとしていた。琴は新たな決意を胸に、江戸の未来をかけて戦いを挑む覚悟を固めた。武市瑞山の「サバイバルゲーム」——その背後に潜む真意を、琴はこれから全て暴き、江戸を変える力を手に入れるために、戦い続けるのだった。
琴と武市瑞山との対話は、江戸の運命を大きく変える一歩となった。武市の言葉に動じることなく、琴は「サバイバルゲーム」に参加することを決意し、江戸の裏社会に潜む暗黒の力と直接対決を挑むことを心に誓った。
琴が踏み入れたのは、ただの犯罪者たちのゲームではなかった。サバイバルゲームは、言葉では表現できないほど過酷で、死と隣り合わせの世界だった。裏社会の力を集めたその「ゲーム」は、ただのサバイバルに留まらず、参加者が与えられる「武器」や「戦車」が現実を超えたものとなり、江戸の街を支配するための真の試練へと変貌していた。
琴が最初に遭遇したのは、囲碁のように見える戦略的な要素を持つ挑戦だった。参加者には、戦車の種類や特殊な装備を駆使して競い合うように課せられており、ただの戦闘能力ではなく、巧妙な戦略と計算が求められた。
最初の試練で琴が目の前にしたのは、TOG2重戦車だった。1943年のイギリス製戦車で、その鈍重さに反して恐ろしい破壊力を誇る。だが、その速度の遅さから、まるで江戸の街を徘徊する遅い怪物のように感じられる。それはまるで琴が新たな現実に引き寄せられるかのようで、彼女はその戦車を使いこなすための試練に挑まなければならなかった。
「これが…戦車?」琴はその巨大な鉄の塊を見上げ、息を呑んだ。強力な砲塔を備えたその戦車は、まるで鎧を着た巨人のようで、江戸の街の中にあって異様な存在感を放っていた。
次に登場したのは、ギャップジャンピングタンク。1943年のイギリス製のこの戦車は、奇抜なデザインで、左右に取り付けられたロケットジャンプ装置が特徴的だった。奇怪で未来的なその外見に、琴は一瞬戸惑ったが、武器としての力を試すためには乗りこなすしかなかった。
「これが…空を飛ぶ戦車?」琴は驚きの表情を浮かべつつ、戦車の操縦席に座った。ロケットジャンプのスイッチを押すと、戦車は一瞬でジャンプし、広い空間を飛び越えて障害物を超えていった。これまでの戦車とは全く異なる戦術が必要であり、琴はその新しい戦法を使いこなすことを決心した。
次に琴が直面したのは、パベルグロホフスキーという恐ろしいロシア製の戦車だった。その戦車はまるでロボットのように見え、肩にロケット砲が取り付けられていた。これに乗る者は、まるで人間ではなく、機械そのものの一部になったかのような感覚を覚えた。
琴はこの戦車を見て、武市瑞山の目的がただの破壊ではないことを再び確信した。この戦車のような異形の兵器を使いこなすことで、江戸に新たな力を植え付けようとしているのだ。だが、それが人々の命を奪うための道具である限り、琴はその力を使うことに強い抵抗を感じていた。
次の試練で琴は、戦場において一番厄介な敵、ボワリョー装甲列車と遭遇する。フランス製のこの装甲列車は、江戸の鉄道網を使って移動し、列車自体が巨大な戦闘兵器に変化する。無駄な動きがなく、速やかに戦闘に入るその戦車のような装置に琴は恐れを抱く。
しかし、戦闘は続く。次に現れたのは、シュトゥルムティーガー。ドイツ製のその戦車は、強力な火力を持ち、もはやただの機械ではなく、まるで破壊の象徴のようだった。琴はその恐ろしい砲撃を避けることができるか、そしてその暴力的な破壊の力をどう打破するか、戦略を練りながら立ち向かう。
琴が最終的に向き合ったのは、デンマーク製の山岳用戦車、ストリッツヴァグン103だった。その形状はまるでハンペンのようで、見た目の不格好さと裏腹に、機動力が非常に高く、山岳地帯でもその速度を生かして戦うことができる。琴はその小回りの利く機動力を最大限に活かすため、狭い街中での戦術を再編成した。
これらの戦車との戦いを繰り広げる中で、琴は徐々にその力をつけ、次第に武市瑞山の影響力を削ぐ方法を見つけていった。戦車の力、戦略、そして裏社会の繋がりを駆使し、琴はゲームの主催者に迫っていく。
最後の試練で、琴は武市瑞山と再び対峙することになる。彼は冷徹に、琴に告げる。
「お前の力は見込み通りだった。だが、このゲームは終わらせるわけにはいかない」
「ならば、私が終わらせる」琴は冷ややかな目で言い返し、その瞬間、戦車が再び戦場を駆け抜け、最終決戦が繰り広げられる。
江戸の街を揺るがす戦闘が続き、琴はその勝利によって江戸を変革する力を手に入れようとする。しかし、最終的に琴はその力をどのように使うべきかを選ばなければならない。
江戸の未来を決めるその瞬間、琴は再び戦う決意を固めた。それが新しい秩序を作るための、最後の戦いであると。
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こうして、琴は江戸の運命を賭けた戦いを終わらせ、新たな秩序を築くために動き出す。だが、彼女が選ぶ道の先に待つものは、まだ誰にもわからない。
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