第12話 中沢琴、幕末の頃を思い出す

 ある日、静かな午後のこと。中沢琴は、自宅の書斎でひとり静かに本を読んでいた。ページをめくる音が、空気を切るように響く。彼女は一冊の歴史書を手にしており、その内容に心を奪われていた。歴史、特に幕末の時代に興味を持つ琴にとって、まるでその時代に自分が生きていたかのように感じられることがあるのだ。


 ふと、ページの中の人物や出来事を目にし、琴の心はある記憶の扉を開いた。それはまるで夢の中の出来事のようだったが、どこかで確かに存在していた、そんな感覚。



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 幕末の時代、琴の記憶の中で――


 坂本竜馬の顔が浮かぶ。彼が駆け抜けた時代、その情熱的な生き様に魅せられた琴は、何度もその姿を思い描いた。彼女はかつて、夢の中で竜馬と話していたことがある。自分が何故かその時代に生きているかのような錯覚を覚え、時には彼のことを理解し、共感することもあった。


 竜馬の理想や志、そして彼が掲げた「日本を変える」という信念。琴は、その強い意志に深く感銘を受けていた。


 ある日、琴はその記憶の中で、竜馬と出会った。


「お前、何か感じるか?」と、竜馬が笑顔で問いかける。琴は一瞬戸惑いながらも、答える。


「感じます。あなたのように、世界を変える力が欲しい…」と答えたその時、竜馬は深く頷き、真剣な眼差しを向けてきた。


「ならば、お前もきっと、何かを成し遂げるだろう。ただな、大切なのは志を忘れないことだ。それを持ち続ければ、どんな困難も乗り越えられる」


 その言葉が琴の胸に響き、目を覚ますとき、彼女はその熱い思いを胸に抱いていた。



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 現代の琴、幕末を思い出しながら


 琴は本を閉じ、再び自分の部屋に静かに戻る。今、目の前に広がる現実と、あの時代の情熱はまるで遠く離れた世界のようだが、心の中ではその炎が絶えず燃え続けているような気がした。


「坂本竜馬も、ただ一人の人間だった。けれど、その志が日本を動かした。私も、何かできることがあるかもしれない…」


 琴は思う。それが一瞬の閃きであっても、何かを始めるきっかけとなればいいと、心の中で小さく誓った。


 そして、再びその日の本を手に取ると、彼女は静かな笑みを浮かべながらページを開いた。幕末の記憶が、今でも彼女の中で生き続けていることを確信していた。



  新徴組の隊士、戦国時代に旅立つ

 

 慶応四年(1868年)2月、薩摩藩との戦争の最中、新徴組の隊士たちは、戦の終息を迎えることなく、突如として不可解な現象に巻き込まれた。


 その日、新徴組の隊士たちは江戸の近郊で訓練をしていた。突然、辺りの空気が震え、空が歪み、耳をつんざくような轟音が響き渡った。誰もが驚き、訓練を止める。だが、数秒後には何も見えなかったはずの空間に、まるで渦を巻くように巨大な光の渦が現れた。


「何だ、これは…!」


 隊士たちは動けず、その光に引き寄せられるように次々と吸い込まれていった。


 そして、目を開けたとき、彼らは見知らぬ土地に立っていた。


「ここは一体…?」


 目の前に広がっていたのは、見たこともない景色――大きな城と、戦の準備をする武士たち。その服装や道具は、まるで時代を超えてきたかのように異なっていた。


「隊長、これが…戦国時代?」


 その声を発したのは、新徴組の副長、土方歳三だった。


 その言葉に、他の隊士たちも驚きの声を上げる。沖田総司、斎藤一、永倉新八、藤堂平助も次々にその場に立ち尽くし、信じがたい現実を受け入れようとした。


「だが、どうしてこんなことが…」土方は眉をひそめながら言った。「我々が戦うべきは、幕府のためではなかったか?」


そのとき、斎藤一が冷静に空を見上げた。


「この地が戦国時代であれば、我々が戦うべきは――織田信長か、豊臣秀吉か、それとも武田信玄か…」


その言葉に、隊士たちの顔色が変わった。戦国時代は、強者が生き残り、弱者が滅びる時代。だが、彼らには江戸時代の知識と戦術があり、これをうまく活用できれば、戦国の大名にとっても無視できぬ存在となるだろう。


彼らが立っていた場所は、後に「尾張名古屋城」として知られる場所だった。初めて見るその城に圧倒されながら、隊士たちは城の中に案内された。


「こちらに案内する者が必要だな」


 声を掛けたのは、一人の侍だった。彼の身なりからして、名古屋の主、織田信長の家臣であることが分かる。


「我々は、何も分からぬ者たちだが、どうか助けてはくれぬか?」土方が一歩前に出る。


「信長公は、よくも悪くも新しき者を受け入れることで知られる。ただし、忠義を重んじる者であればこそだ。お前たちが何者か、まずは見極めさせてもらおう」


 その言葉に隊士たちは互いに顔を見合わせたが、土方は即座に頷いた。


「我々の技術と心意気を見ていただければ、すぐに理解いただけるだろう」


 数日後、信長の元で過ごすことが決まった新徴組の隊士たちは、戦の準備を整えていた。織田信長の軍は、次に北方の武田信玄との戦いを控えていた。信長はその戦を、彼の部隊の中で最も優れた戦士を揃えて挑もうとしていた。


「このままでは、我々も戦に巻き込まれてしまうかもしれません」沖田総司は言った。「でも、信長公の軍に参加すれば、我々も戦力として認められるかもしれません」


「戦国時代の中で生き残るためには、力を貸す相手を選ばねばなりません」土方が答える。「我々は信長に仕えるべきだと思う。しかし、我々の技術をどう活かすべきか、戦場で確かめる必要がある」


 その夜、信長から直接話を聞く機会が訪れた。


「お前たち、異世界から来た者だというが、戦の場ではただの部下だ。我が軍のために尽力し、勝利を掴み取れ」信長は冷徹な眼差しで彼らを見つめた。


「了解した」土方は一礼し、隊士たちを鼓舞した。


 その時、沖田が小さな声で言った。「信長公は、どこか冷徹だけど、何か惹かれるものがありますね」


「そうだな」斎藤一が答える。「だが、この時代の戦いに、我々がどう絡むかが重要だ」


 ついに戦の朝が訪れた。信長の軍は、武田信玄の軍を迎え撃つため、壮大な戦場へと向かっていった。


 新徴組の隊士たちは、信長軍の精鋭部隊として先陣を切ることとなる。土方歳三はその指揮を執り、沖田総司は素早く戦場を駆け巡り、斎藤一は冷静に敵の動きを読みながら戦う。


 そして、戦の最中、信長公自身が現れる。彼の圧倒的な存在感が、敵軍を混乱させ、信長の戦術は見事に功を奏した。


「やはり、我々の戦闘力が加わったことで、勝機が広がったようだ」土方は冷静に戦況を見守りながら言った。


「だが、この時代を生き抜くには、さらに強くなければならない」斎藤一の言葉が、次第に新徴組の隊士たちの心を捉えていった。


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 戦が終わり、信長の軍は見事に勝利を収めた。新徴組の隊士たちは、その功績を認められ、織田家の重臣として、戦国時代の荒波の中で新たな歩みを始めることとなる。


 だが、彼らには一つの疑問が残っていた。この時代に飛ばされた理由、そして元の時代へ帰る手段は果たしてあるのか…?


 その答えを求めて、彼らは再び動き始めることとなる。


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 次回へ続く…





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