第11話 中沢琴、ある中華屋の店内にて

 琴は仕事終わりに立ち寄った中華屋で、少し疲れた顔をしながら、メニューをじっと見つめている。人気店で、いつも賑わっているが、今日はたまたま空いている席に座れてラッキーだと思っている。


「今日の気分は…辛いものが食べたいな」と、メニューの中から一つ選んだ。


 店員に「麻辣ラーメン、お願いします」と注文を告げると、すぐに注文を受けた店員がニコッと笑って厨房へと向かう。


 しばらくして、熱々の麻辣ラーメンが運ばれてくる。琴は少し冷めるのを待ちながら、湯気が立ち上るラーメンをじっと見つめる。辛い物好きとしては、これは大きな挑戦だ。


「うん、今日はこれでいける!」と自分に言い聞かせるように、スープをすくい一口。


 最初は辛さに驚くが、だんだんその刺激が心地よくなってきて、琴は夢中で食べ進める。汗が額ににじみ、口の中で辛さとともに爽快感が広がる。


「うん、やっぱり辛いものは最高だ!」と、箸を進める琴。


 だが、その瞬間、突然、鼻の奥がツンとした感覚が走る。咳をしながらも、琴はどうにか食べ続けようとするが、次の瞬間、急に鼻血がポタリと落ちる音がした。


「あ、あれ?」琴は驚いて顔を上げると、テーブルの上に赤い染みが広がっているのを見て、慌てて手で鼻を押さえる。


「ああ、どうしよう…」と、顔を真っ赤にしながら周りを見渡すと、幸いなことに周囲には気づかれた様子はない。ただ、隣の席に座っていたおばあさんが、心配そうに一瞬こちらを見ている。


「やっぱり辛すぎたかな…」と小さくつぶやきながら、琴はティッシュを取り出して鼻血を押さえ続ける。


 そのとき、店員がやってきて、微笑みながら「大丈夫ですか?」と声をかけてきた。


「え、ええ、大丈夫です…すみません、ちょっと辛すぎて…」琴は赤面しながら答える。


 店員は心配そうに見守るが、琴が落ち着いてきたのを確認すると、「辛いものは気をつけてくださいね。お水、お代わりしますか?」と優しく声をかけてくれる。


「ありがとうございます、少しお水もらえると助かります…」琴は照れ隠しに笑いながら、鼻血をようやく止める。


 その後、麻辣ラーメンはほぼ食べ終わったものの、琴は顔を真っ赤にして、少し恥ずかしそうに店を後にした。


 店を出る際、琴はふと思い出し、今後辛いラーメンを食べる時にはもう少し慎重に選ぼうと心に誓ったのだった。





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