第6話 冥界の剣士、令和に降臨
冥界の静寂を切り裂くように、鋭い刃が振るわれる。中沢琴の手に握られたのは、長年愛用していた刀ではなく、冥界の鍛冶師によって新たに鍛えられた黒光りする刃だった。火のような赤い霧に包まれた地で、琴は一振りの刀で次々と迫る敵を斬り倒していた。
「まだ…まだ足りない」
琴は息を呑みながら、足元に転がる骸を見下ろす。その目は、冷徹に、だがどこか深い決意に満ちていた。冥界に来てから数年。彼女はここで戦い、修行を積んできた。かつての刀と剣術に頼るだけでは、冥界の猛者やモンスターを倒すことはできなかった。だからこそ、冥界で鍛えられた新たな武器と戦術を学ばなければならなかった。
琴は剣を収め、振り返る。その先に立つのは、冥界の守護者—巨人のような姿をした武者だ。その姿こそが、琴に与えられた最終試練であり、彼女が修行を終えるために倒さなければならない相手だった。
「来い、守護者」
琴は深く息を吸い込み、刀を構える。敵の動きがわかる。冥界の空気が、彼女の感覚を鋭敏にしていた。守護者が一歩踏み出すと、琴もまた反応した。振り下ろされる大きな刀をかわし、琴はその隙間を突いて守護者の側面に斬撃を加える。しかし、その一撃では巨体を揺るがすことはできなかった。
守護者が大きく振り上げた刀を再び振り下ろす。琴は反応するも、今までのような素早い動きでは避けきれなかった。
その瞬間、琴の脳裏に浮かぶのは、故郷の群馬のこと、そして自分が何のために戦ってきたのかという問いだった。
「強くなりたかった。守るために」
琴の目に炎のような光が宿る。意識を集中させたその刹那、彼女は冥界の風を感じ、体がひときわ軽くなった。守護者の一撃を紙一重で避け、そのまま反転して背後に回り込むと、今度こそ隙を突いて一閃。刃が巨人の防御を切り裂き、ついに守護者は倒れた。
琴は膝をつき、深く息を吐いた。冥界での修行を終えた瞬間だった。
目を開けた時、琴は見知らぬ景色に囲まれていた。高層ビルが立ち並び、車の音が絶え間なく響く。空は青く、冥界のどこか閉ざされた雰囲気とはまるで違っていた。
「ここは…?」
琴は立ち上がり、周囲を見渡す。その手に握られているのは、冥界で鍛えられた新たな刀—しかし、時折持ち歩いていた短銃も帯びている。古き時代の武士の装束をまとった彼女が、現代の世界に立つその姿はまさに異物だった。
「やっと…戻ってきた」
琴は、冥界での修行が終わったことを感じ取った。それと同時に、令和の世界における自分の役割が何であるかを、無意識のうちに感じていた。時代が進み、戦いの道具は変わった。しかし、戦士としての誇りや矜持は失われていない。むしろ、時代が進む中でこそ、それが試される時が来たのだ。
琴は歩みを進めると、そこに現代の武器を持った者たち—警察や軍人たちが通り過ぎる。彼女の視線がその動きを追うと、一瞬、彼女の目が鋭く光った。刀と銃が交錯する時代が、彼女の目の前に広がっていた。
琴は、令和の世界で新たな戦いに挑むこととなる。冥界での修行は、彼女に現代の戦い方をもたらしたが、それと同時に、彼女は一つの問いを胸に抱いていた。
「この世界で、私が守るべきものは何だろうか?」
その答えを探し続ける琴は、今後の戦いでどんな敵に立ち向かうことになるのか、そして自分の使命をどのように果たすのか、まだ知る由もなかった。
だが、一つ確かなことは、どんな時代でも、戦士としての誇りと魂を持ち続ける限り、琴は負けることはないということだった。
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