第23話 ワーウルフ
移動は人目のない所まで来たら、ニクスの背に乗ってとにかく走る。
「ちゃんと夕方までに帰れる様に頑張ろうね」
レッティは家や学校にバレない様にするには、とにかく時間を掛けるわけにいかない。
ニクスの背中で風を感じながらレッティは声を掛ける。
「わふ!」
走りながらニクスが答える。
馬車で移動するよりもずっと早く着いた。
被害を受けている村の方に行き、まずは話を聞いてみる。
「アンタ方がワーウルフ討伐に来た冒険者の方でよろしいのですかな?」
禿頭の老人が困った顔でレッティ達に対応してくれている。
村長さんらしいが、レッティがどう見てもまだ子供なのに困惑している様だ。
ニクスも線が細く、頼りなさそうに見えることだろう。
それに、見た目は大人びたニクスだが、中身が子供っぽいので、村長さんの話を聞いてるのか、聞いていないのかキョロキョロ忙しなく辺りを見ている。
それだけじゃなく、そこら辺の葉っぱを毟って捨てたり、落ち着きが無く不真面目だ。
今度フェンリーに言いつけてやろう。
「はい。コレが依頼書です」
戦闘以外では頼りになりそうにないニクスはさて置いて、レッティの方で話を進める。
「ははぁ……」
村長さんの長い白い眉毛がハの字に垂れる。
他の村民の男性も、興味を持ったのか依頼書を覗き込む。
「村長、おらぁ学がなくて字が読めねぇ。この人らは頼りになるんか?」
「最低ランク……の様だが、他に誰も来てくれないなら仕方が無い。
どんな人でも来てくれて命を賭けてくれるんだ。ありがたいと思おう。
…………ワシらはアンタらが怪我しても助けられないが、それでも頼まれてくれるのか?
前金は無しだ。討伐後じゃなきゃ金は払えない……」
「わかりました。討伐後で構いませんよ」
残念ながら見た目だけではなく、冒険者のランクでも依頼主に安心を与える事はできない。
駆け出しなのでそれは想定内だ。
ワーウルフは、二足歩行の武装したオオカミの魔物だ。
それなりに強いが、一匹だけなら冒険者がパーティを組んで挑めばランクが低くても十分に勝てる。
大した依頼では無いのにワーウルフが存命な理由は、依頼主の村が豊かでは無いせいで謝礼をあまり払えない上、前金も無しだからだろう。
レッティもお金は欲しいが、今回は腕試しも兼ねているので、金額に拘らない。
それに、ニクスが勝手に選んじゃったからしょうがないね。
「ワーウルフを最後に見たのは向こうの森の方じゃ。頼みますよ……」
村長さん達に心配そうな顔で見送られた。
「そろそろ良いかな?」
そう言いつつニクスが元の姿に戻る。
「ひゃっ……!」
レッティがすぐ隣にいたのに、ニクスが人からオオカミに戻ったせいで、モフモフの巨体に弾き飛ばされた。
「もう!気をつけてよ!」
『ふふ……ごめん』
と言いつつ、クツクツと笑ってる。反省してないのは獣の顔でも伝わってくるぞ。
「もうイイから早くワーウルフを探して!」
『はーい』
ニクスは地面に鼻を近づけてフンフンと匂いを嗅ぎ始めた。
『こっちだね』
レッティも鎧に着替えてニクスから下りると周囲を警戒する。
剣を握っていつでも戦える様に身構えながらニクスの後、鎧が立てる音を気にしながら、ゆっくり歩みを進める。
『あれだね……』
ニクスが楽しそうに、小さく呟いた。
ムッとする様な血の匂いがここまで漂って来る。
片手に家畜の死骸を引きずった、2メルトルを超える二足歩行のオオカミの魔獣。
向こうもこちらに気がついた。人間よりずっと鼻が利くのだ。
「……村の人を二人殺してるのよね」
『僕に任せてよ……』
ニクスが身を低くし……一気に飛び掛かった。
一瞬だった。
ニクスの牙は魔物の首根っこに深々と刺さり、ワーウルフは手足をピクピクと痙攣させながら、やがて動かなくなった。
大きく見えたワーウルフも、ニクスと比べてしまうと細く華奢だ。
『うぇ……不味い』
ニクスがペッとワーウルフを吐き出した。
『コアを取り出して、あのシワシワの髪の毛無いニンゲンに見せればイイんだよね?』
「うん。村長さんにね」
ニクスが爪でワーウルフの胸元を引っ掻いた。
「コレが魔物のコア……」
かつて見た神獣スコルのコアとは違って、黒く濁った石が胸の中に収まっている。
触っても大丈夫らしいけど……あ!ニクスが躊躇なく爪で掘り出して地面に転がした。
表面の血を水で流して、綺麗にしてから仕舞う。
「これで終わりね。呆気なかったな……」
冒険者としての最初の仕事は全てニクスに任せてしまった。
ニクス強いんだもんなぁ……。
今度はニクスには遠慮してもらって自分で魔物倒したいなぁ……。
ニクスに飛び乗って村に戻る。
この調子ならあっという間に冒険者のランクも上がるだろう。
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