耳と尻尾の令嬢 〜婚約者の片想いの相手は変身した私!?
ありあんと
第0話 プロローグ
「待ってくれ!君をもっと知りたいんだ!行かないでくれミスティカ!顔を見せてくれ!」
アルフレッドが、巨大な白いオオカミの背に乗った私に向かって手を伸ばしながら懸命に叫んでいる。
しかし、顔を見せたら流石にバレるよね?
だから兜を外す気にはなれない。
レッティは今、変装の為に全身を鎧で覆っている。
顔の上半分も兜で隠している……ただし、大きな銀色の三角形の耳は今はピョコンと兜から出ている。
オオカミの神獣のニクスは、どうする?と聞く様に自らの背中に跨るレッティを仰ぎ見る。
可愛い弟分の金色の瞳は、レッティを伺っている。
レッティはポニーテールに結った長い銀髪を手で払いながらお断りする。
「それはダメ!別にアルのこと嫌いな訳じゃ無いけど……今は話したくない…………」
レッティはニクスの背中で、その真っ白な長い毛を落ち着き無くワサワサと撫でくりまわしながら、アルフレッドの言葉をどう捉えるべきか頭を悩ませる。
「俺のこと嫌ってはいないんだろ?だから何度も会いにきてくれるんだろう!?
頼む……俺は君が、君のことが好きなんだ!!」
それを聞いてニクスが不快そうに唸り声を上げる。
『レッティ……コイツやっぱり浮気者じゃないの?僕、コイツ食い殺したい!』
レッティにしか理解出来ない声でニクスは歯を剥き出しにして怒りを表明する。
それを宥める様にニクスの頭を撫でて、その大きな耳に囁く。
「ダメ。厳密には浮気じゃ無いでしょ。
でも、ちょっとオイタが過ぎるよね」
そして、今度はアルフレッドに向かって聞こえる様に大きな声で、その真っ直ぐな告白を一刀両断にする。
「貴方も貴族なら婚約をそう簡単に覆せないと知っているでしょう?
婚約者を大事にしなさい。私は貴方の友人としてこれからも話は聞いてあげるし、勿論今後も貴方を助けてあげるわ!」
そう、レッティを末長く大事にして、夫婦でニクスの様に真っ白な白髪になるのが婚約者としての責任というものでは無いだろうか。
レッティが公爵夫人となるべく、これまでどれ程努力をしたと思っているのか。
「婚約は……きっと破棄する!
だから俺の手を取ってくれ!」
ムカ!ムカムカ!!
この私とそんなに婚約破棄したがるなんて、どういうこと!?
「お断りよ!いくよ!ニクス!!」
「待って!待ってくれ!!」
追い縋るアルフレッドを置き去りに、ニクスの背中に捕まり、振り落とされないように気を付けながらスピード感を楽しむ。
どうしてこうなったのか……。
アルフレッド様が貞淑な女性が好きだと言っていたから素敵な……ちょっと大人しめのレディに――表面上だけでも――なったのに!
……少なくともアルフレッドの前ではそれなりに頑張ってきた。
なんで剣を振り回し、オオカミの耳の生えた私が好きだって言うのよ!
……と言うか!声で同一人物だと気が付きなさいよ!
正体を気付かれたくないのに、気が付かない婚約者に不満が募る。
乙女心は複雑なのだ。
「アルのバカ!嫌い!」
レッティはアルフレッドの婚約者として頑張ってきたこれまでを振り返る。
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