美少女なら人生イージーモードって本当ですか？『友達』になってくれますか？

秘密の共有

　「今回みたいに、幻影魔法を見破れたり、何も無い場所で光が見えるという事は過去にもあったのかい？」

　「いえ、そういったことは無かったと思うんですが・・・」

　アーシェラにスライムの事を聞く筈が、気付いた時にはユーリは質問される側になっていた。

　通常、幻影系の魔法を見破るためには魔法を使うか、魔法道具が必要らしい。だから、どちらも使用していないユーリが幻影魔法を見破れるはずがないのだ。

　部屋に入った際にアーシェラが妙な顔をしていたのは、そのことに驚いたからだろう。

　「それじゃあ、それは最近身に付いた能力って事になるのかな。――魔法を使う事がトリガーとなって発現する異能か。ボクも聞いたことは無いね・・・」

　「――あ、いや、えっと――魔法を使うより前から使えていたかも知れません・・・」

　視覚に関する特殊能力には、この世界に来た初日から気付いていた。知らない文字が読めた事だ。言葉が理解できることも特殊能力である可能性は高いと思う。

　「ふむ――」

　いっそ異世界で暮らしていた事を説明する方が良いだろうか。

　だが、どこまで信用して貰えるだろう。性別が変わった事実もある。

　信じて貰えず、彼女に頭のおかしい人間と思われるのは避けたい。

　「つまり、この街に着いた日から不思議な感覚はあった・・・と。一つ、確認させてくれるかな」

　アーシェラは大きく息を吐いて続ける。

　「キミは、魔族なのかい？」

　「・・・魔族？」

　ユーリの知らない言葉だった。この世界においては。元の世界であれば、ゲームやアニメなどで聞いたことがある。

　しかし音の響きからはあまり良い印象を受けないものだ。ユーリには「魔族」という存在に邪悪な印象があった。

　思わず握った手に力が入る。

　「魔族自体も知らないのかい？」

　眉根を寄せるアーシェラに、頷いて返す。

　「――ああ、確かに最近は魔族という呼び方はしないかも知れないね。大陸北部の『トゥルーネ帝国』の人々の事を昔は魔族と呼んでいたんだ。別の呼称にするべきだとか、同じ人類として考えるべきだという議論もあるんだけど、当の本人たちが国交を断絶しているから話が進まなくてね」

　「あ、トゥルーネ人・・・」

　思い出した。

　歴史の授業のなかで出てきた。確か帝国人という表現がされていたと記憶している。擁立されていた「魔王」はかなり昔に討伐されているため、帝国というのも正しくないような気もするが。

　「その魔族の人たちには、私みたいな不思議な力があるんですか？」

　「いや、そんなものはないよ。魔族なら、ボクの知らない魔法を身に着けている可能性もあると思ったんだけど、ユーリがそう言うなら違うんだろうし」

　「私が、嘘を吐いているかも知れないじゃないですか？」

　「それならそれで別に気にしないよ。ボクがユーリの言葉を信じたいだけさ。実際は昨日まで、ボクはユーリの事を魔族じゃないかと疑っていたんだけどね・・・」

　言いながらアーシェラは机の上の球体を持ち上げた。大きな光が一つ、小さな光が四つ灯っている。この街に居る魔族の数を示しているらしい。

　「ユーリがこの街に来た日、丁度この小さな光が一つ増えた。そして、ユーリの入国記録はどこにも無かった。初めて会った時の黒い服、あれは非常に珍しい物だったからね。気付かない訳がない」

　「それで、あの時私に声をかけたんですか・・・？」

　アーシェラの言葉に、ユーリの声は震えていた。

　自分が魔族という存在である可能性についてショックを受けたのではない。アーシェラがユーリに声をかけた理由が、ユーリに疑いを持ったからという疑念でダメージを受けていた。

　少なくとも、アーシェラとの授業も会話も、ユーリ自身はとても楽しい時間だと思っていた。

　一体、自分たちの関係はなんだったのだ。

　「――そん、な――」

　「まって！」

　言い淀むユーリを遮って、急にアーシェラが立ち上がった。落ち着きなくユーリに近づきながら、ゆっくりと話しかけてくる。

　「――それは違うよ。最初に声を掛けた時点ではユーリの情報は無かった。単純にボクがキミに声を掛けただけだ。信じて欲しい。でも、キミを疑っていた事を今日まで黙っていたことは謝りたいと思ってる」

　「・・・うん」

　目の前にある青色の瞳から眼を逸らせず、ユーリは返事をした。

　「謝って済むことじゃないかもしれないけど――。昨日のスライムも、キミの事を調査するためにボクが作ったものなんだ。もし君が魔族だったら、難なく処理することが出来ると思った、から――。・・・魔法は本来魔族が編み出したものだからね。帝国で暮らしていたのなら、ボクの知らない魔法も多く知っている可能性もあるし、スライムを排除する事くらいは簡単にやってのけると思ったんだ。――でも、そうはならなかった。・・・ただ単に・・・ボクはキミを傷つけただけだ・・・。――本当に申し訳ない」

　元々ユーリよりも一回り小さいアーシェラだが、縮こまって頭を下げる姿は更に小さく見えた。

　――自分も隠し事している。

　感情が上手くまとまらなかった。

　アーシェラが自分を疑う事は正しい事だと理解していた。逆の立場なら怪しむだろう。

　それでも、自分と接点を持った理由にその事も含まれると思うと、心が苦しかった。

　――何故そう感じるのかが分からなかった。

　「・・・やっぱり。おかしいと思ったんですよね。アーシェラ様の屋敷の近くとはいえ、人が簡単に足を踏み入れられるところにモンスターがいるなんて。もし私以外の人が通りかかってたら、怒られてますよ？」

　「ごめん」

　冗談っぽく言ってはみたものの、声が上滑りしてしまう。アーシェラも反応が無い。話を続けなければ。

　「でも・・・魔族って、普通の人と何が違うんですか？」

　「基本的には同じだよ。だけど、人間の姿とは別にもう一つの姿を持ってるんだ。本人の理想の姿だって言われているけど、本当のところはよくわかってない」

　「理想の、姿？」

　ユーリは自分の身体を見下ろした。異世界に来る直前に想像した、理想の姿。金髪碧眼のセーラー服美少女。

　「わ――」

　考えるより先に声を出してしまっていた。

　ユーリはグイっとアーシェラに顔を近づけ、

　「――私、魔族かもしれません！」

　と言い放った。

　それを聞いたアーシェラは眉根を寄せる。

　「ど、どうしたんだい？急に」

　話が飛び過ぎている。彼女はユーリの秘密を知らない。

　しかし、この流れなら言える。

　――言ってしまいたい。

　「あ・・・えっと、どこから説明すればいいのか分らないんですけど・・・」

　姿が変わってしまった事について、原因が掴めるかも知れない。そのためには異世界についても話をする必要があるだろう。

　突拍子もない話ではあるが、アーシェラはユーリの言葉を信じると言ってくれたのだ。ユーリ自身、その言葉を信じたかった。

　だから、

　「じ、実は――」

□　□　□

　「――信じて、くれますか？」

　話し終えてみると、ユーリの身体から一気に力が抜けた。

　意識していなかったが、どうやら自分の事を誰にも話せないというストレスをずっと感じていたようだ。今はずいぶんすっきりした感覚がある。

　「――――」

　アーシェラの反応は落ち着いていた。

　「――なるほどね。まあ、この世界にも異世界って概念はあるから、ユーリが異世界から来たって事は驚く事ではあるけど意外じゃあないよ。実際、可能性の一つとしてはあがっていた。それに、たとえ異世界からの来訪者だったとしても、キミにこの世界を害をなす意思がなければ、それは別の国からの来訪者と大差はない――。とボクは思う」

　アーシェラが微笑む。

　「うん、もしかしたら過去にも異世界からの来訪者は存在していて、この世界の発展に尽力していたかも知れない。誰も知らないだけで、ね。――結局、こちらの世界からユーリの居た世界を観測できない以上、大騒ぎする事じゃあない。多少不思議な能力や知識があったとしても、それ以上でもそれ以下でもない。ユーリは普通の女の子でしかないよ」

　「さっきも説明しましたが、私は元々男だったんですが・・・」

　普通の女の子。という言葉に思わず反論。

　言葉遣いは変えずにいた。理由は今の声で男言葉を発する事に違和感があったからだ。敬語を使っているので自分的にも違和感はない。

　「うーん、それは魔族とは関係ないね。ボクは戦時中に魔族の変身を見たことがあるけど、人から人の姿に変わるというのは見たことが無いし聞いたこともない。狼や竜とか、動物やモンスターが混じったような姿ばかりだったよ。――だから、魔族なんて呼ばれていたんだ。キミの場合はどちらかというとボクと同じ感じじゃないかな？」

　「え？」

　突然アーシェラと同じと言われ思わず聞き返す。どういう意味だろうか。

　「ユーリ、もしかしてボクが魔法で100年間この姿を保ってると思っているのかい？もし、そんな事ができるんだったら、世界中の魔法使いは不老になってしまうよ・・・」

　「――あ」

　確かにそうだ。だとしても別の方法でその身体を維持しているという事になる。ユーリの性別が変わった事と関連するようなものだとしたら、性別や外見を自由にコントロールできるということで、世の中の誰もが欲しがるような情報ではないだろうか。そのような事を自分に公開出来る筈が無い。

　（でも、そういう事実があるって事がわかっただけでも）

　今の身体が別の人のものではなく、自分自身のものである可能性も高くなったのだ。それに、元の身体に戻る方法も見つかるかも知れないと思えば、心持が変わってくる。

　そう考え、詳細の説明は無いと考えていたところ、どういう訳かアーシェラは淡々と説明を続けた。

　「これは、魔王討伐から持ち帰られた秘宝によるものでね。ボクに預けられたときは発動方法も解らなかったんだけど――。ある時、ボクが触っただけで発動したんだよね」

　「えぇ？」

　触れただけで、という言葉に驚く。

　「発動した魔力の残滓を調査した結果、理想の自分に変化するもの凄い魔法が秘められていた事が分かったんだけど、それは一度しか効果を発揮しないものだったんだ」

　「――――」

　「たぶん、ボクの前に触った大人達は「理想の自分」として自分に納得していたんじゃないかな。ボクはまだ幼かった――といっても１５歳くらいだったけど。だからからなのかな・・・。それか、戦争で死んでいく人を見ていたからなのか不老不死にでもなりたいとでも思っていたんだろうね。だから魔法が発動したんだと思う」

　最後の方、自分の事を話すアーシェラは少し寂しそうだった。

　「だから、それに近い事がユーリにも起きた。と考えれば、納得いくだろ？」

　「確かに可能性はあるかも知れません・・・」

　仮定の話でしかないし、根拠もない。だが、謎を紐解くためのピースが一片でも手に入った。そんな気がした。

　マジックアイテム。自分がこの世界に転移したタイミングではそれらしきものは見当たらなかった。

　身に着けていた物に何か魔力が込められている可能性はあるだろうか。

　いや、そうだとしてもアーシェラ魔法を掛けたアイテムと同じように魔力切れになっている可能性が高い。

　いや、アイテムならば複数存在する可能性もあるのではないか。少なくとも、現時点でアーシェラとユーリの２回、事象が発生しているのだから。

　「あの、その秘宝って、他に見つかっていないんですか？」

　もし複数存在するのであれば探せばいいの。

　アーシェラは元に戻るし、自分も男に戻る事ができる可能性が高くなる。

　「うん？この100年で一つだけだね。というか、ボクの使った秘宝の事も当時の七賢者以外は知らないよ。結局当時の話も戦後の有耶無耶で記録にも残ってないから、今知ってるのはユーリとボクだけさ。それに、そんなものがあるって知られたら、大きな争いが起きる可能性もあるしね。世間には公開しない事に決まったんだ。まあ、ボクが100年この姿なのは魔族の呪いって事になってるけど――」

　「な・・・そんな事を私に話してもいいんですか！？」

　「ユーリだって、自分の事を話してくれたじゃないか。それならボクも秘密を共有しないとフェアじゃないだろう？」

　驚きの理由だった。絶対にそういう問題ではない。これは、国家機密に準ずる情報だ。

　悪戯っぽく笑う姿はいつものアーシェラのものだった。ユーリも笑おうとしたが、引き攣った笑いを浮かべてしまった。

□　□　□

　「――え、ユーリは元の身体に戻りたいのかい？それが理想の身体なのに？」

　「り、理想の身体ですか？――ど、どうなんでしょう。確かにその時はそんなことを考えたと思います。でも、それまで自分で女の子になりたいって自覚はなかったので・・・」

　この身体は成りたい自分、理想の姿だったという事なのだろうか？

　しかしユーリ自身は性的指向として女性が好きなのは間違いないし、男性の身体で違和感を感じるような事もなかった。

　ただあの朝、美少女になりたいと強く思っただけだ。

　――と思う。

　「でも、自分自身は男性だという認識があるのに、性別を偽って女性と接している感じがあって、心苦しいところもあるというか・・・」

　「なるほど。それは周りは気付けないからね。――うーん。でも、慣れていくしかないと思うよ。正直、ボク以外にユーリの話をすんなりと受け入れるような人間はなかなかいないと思う。人間性の話ではなくて、突拍子の無い話すぎてね」

　「それは私もそう思います・・・」

　アーシェラでなかったら話していない自信がある。

　だが、そこは仕方ないだろう。むしろ早い段階で共有できる相手が出来て良かったと感じていた。

　じきに身体の方に心が慣れてしまうのかも知れないが、このまま一生秘密を持って過ごすというのも辛いだろう。

　現にたった一週間程度で、女性的な考え方をするようになっていたり、行動指針が変わってきている自覚がある。

　不思議なもので、アーシェラに話すまでその事実に気付いていなかった。

　「まあ、ユーリが男性だとしてもボクは気にしないよ。ボクも身体は女性ではあるけど、正直性自認と言われても曖昧でね。――成長が止まってる影響なのかもしれないけど、性的指向って感覚もイマイチ良く分からないんだよね」　

　爆弾発言ではあるが、そこは何となく納得できた。アーシェラは子供っぽいと感じるところがある。中世的というか。

　もちろん、発言は理路整然としており十分に大人なのだが。

　「それならよかったです。昨日のスライムが少しベタベタしてくる感じだったので、ちょっとやらしい眼で見られてるのかもって思っちゃいました」

　とユーリは冗談を返した。

　が、

　「あぁ、それはボクにそういう欲求があるのかも知れないね。スライムには自分の体液・・・今回は涙を使ったんだけど、起動して暫くはその影響が出るんだよね。うーん、よくわからないんだけど、やらしい感じだったのかい？」

　「！？」

　至極真面目にアーシェラはそう返した。予想外の返答にユーリの心臓が跳ねる。

　「い、いや！？別にそういう感じではなかったですよ！ただの冗談です！」

　上昇する心拍数を抑えることもできず、慌てた様子も隠しきれずにユーリは手と首を強く振って答える。

　「そっか、それならよかった。キミを不快にさせてしまってたら、申し訳ないからね。おや・・・もうこんな時間か」

　つられてユーリも時計を見る。もうすぐ一時限目が始まる時間だった。

　「ああっ！もう行かないと！ごめんなさいアーシェラ様！」

　立ち上がり、扉を押そうとして身体をぶつけた。内開きだった。

　「うん？そうだ、キミのその目の事や異世界の事を時間がある時に調べてみるよ。でも、期待はしないで欲しいかな・・・」

　「は、はい！大丈夫です！」

　「あ、今日は午後も七賢者の会合があるから、授業はできないよー」

　「はい、今日もよろしくお願いします！！」

◆　◆　◆

　何故か突然不自然な動きで部屋を出ていったユーリ。

　それを見送ったアーシェラは、難しい顔をしていた。

　スライムの事をユーリは許してくれたようではある。

　女性がスライムを作成した場合はスキンシップが激しくなるため、阻害力が高まる傾向があった。そのせいで戦時中は女性の体液でスライムを作成することの方が多かったらしい。

　アーシェラは作成したスライムを人に対して使ったのは初めてだった。

　「あんなにベタベタするとは思わなかったなぁ」

　ちなみに、男性の体液を元にしたスライムは男性よりも女性を狙う傾向があったり、女性が作成したスライムは男性を狙う事が多いという。性的指向も影響しているようだが、使う人物やその時の気分でもその行動パターンは大きく変化するという研究結果が出ていた。

　「それにしても、ユーリは元々男性だったのか。なるほどだなぁ」

　今までユーリの行動や反応に違和感を感じていたが、元々男性だったという事なら納得できた。

　自身の成長が100年止まってしまっているアーシェラからしてみれば、ユーリの性別が変わってしまったという話に疑念は無かった。

　そういう事もあるだろう、という印象だ。

　それに性別が何だろうと、強く興味が惹かれる対象である事には変わりない。

　個人的な趣味としては、可愛い服を一緒に選んだりできるため女性である方が好ましいと思う。いや、男性だとしてもアーシェラが可愛いと思うような服を着たいという願望があるのであれば、それでもいい。もしユーリが男性に戻ったとして、アーシェラの趣味に付き合ってくれるのならオーダーメイドで服を見繕ってあげたいと思うのだった。

　そもそも何故世の男性は可愛らしい服を着ないのだろうか。アーシェラにはそれが理解できない。

　フリフリだったり、化粧をしたり、肌の露出も含めてファッションを楽しんだ方が絶対に良いと思うのだ。

　「もう報告義務はないけど、一人で調べるより協力して貰った方がいいのかなあ・・・」

　スライムの件で「連邦国に害なす可能性」はクリアになっている。

　彼女？の事を更に調査するためには、ユーリのプライベートにも踏み込む必要もでてくるだろう。他の七賢者に協力を仰ぐべきかどうか――。

　「どっちにしても、午前中は自分で調べてみよう。断片的にしか聞けていないけど、ユーリの話を整理する必要もあるしね」

　アーシェラはいそいそと部屋の鍵を閉め、図書館へ歩き出した。

　「それにしても、異世界かあ」

　数十年ぶりに新しい研究対象が見つかった事に、アーシェラは高揚していた。ユーリの言葉は欠片も疑っていない。早く色々話を聞いてみたい。

　「本当に、ユーリと出会えて良かったなあ」

　思わず顔が緩んでしまっていた。

◆　◆　◆

　廊下を早足で歩きながら、ユーリは難しい顔をしていた。

　「そ、そんな目で見られてたって事？？これから、アーシェラ様とどうやって接すればいいの――」

　アーシェラはユーリを性的にみている可能性がある。自覚はまだないようだが。

　今後も普通に接するべきか。

　いや、普通とは何か。

　女性同士の距離感でいいのか。

　私は男性として接するべきなのか。

　しかし今は身体は女性になってしまっている訳で。

　「アーシェラ様は今の私を好ましく思っているのかも知れない・・・。もしそうなら、男に戻ってしまうと接し方が変わってくるのかな――？」

　自分はどうしたいのか。全てがわからなかった。

　「あれ、なんか俺って――」

　――この世界に来てからアーシェラ様の事ばかり考えていないか？

　アーシェラの事はもっと知りたい。だが、別に恋愛対象であるといった事は考えていなかった。

　――でも今は？

　「ああもう・・・アーシェラ様と出会ってから何か変だ・・・」

　顔が赤らみ、強張っているのがわかる。

　自分の教室とは逆方向に進むユーリの頭の中からは、特殊な目の事や異世界について話したことは跡形も無くなっていた。