美少女
「・・・なんで?」
鏡に映る顔が何故か自分の顔であることは認識できた。記憶の中の顔と似通った個所も何点かあり、大きな違和感を感じないことが不思議だった。
潤った唇に艶の良い肌、整った眉。そして金色の髪と緑色の瞳。
少なくとも記憶の中の自分は純粋な日本人であり、黒髪黒目であった。
それよりもなによりも。
(なんで性別が変わってるんだ?)
夢である可能性は先ほどの女性二人組と女将とのやりとりの時にも考えたが、一向に覚める気配はない。それどころか、冷たい空気に混じる潮の臭いと風景が現実感を突き付けてくる。
「ねえ、大丈夫かい?」
女将に声を掛けられ、我に戻る。
「だ、大丈夫です」
「それならいいんだけど」
手鏡を手渡すと、女将は納得いかなそうな顔でため息をついた。
「・・・」
次の言葉はなく、微妙な間が生まれる。
「あ、えっと...」
頭の中が混乱し、声を発することはできなかった。
女将は複雑そうな顔をしながら、踵を返す。
「まあ、何かあったら...気が向いたらでいいからさ。おばさんを頼っておくれよね」
夢ではないとすれば、ここはどこなのか?
何故セーラー服の金髪美少女の姿になっているのか?
この次、何をすればいいのか?
これは異世界転生なのか?
ステータス開示や魔法、スキルやチート能力の説明はなく、第六感などといった感覚も感じられない。
『それはこっちのセリフ!街中でそんな魔法使ったら牢屋行きでしょ!』
先ほどの二人組の会話だ。
「あっ・・・」
そうだ、魔法だ。
「あ、あの!さ、さっきの!」
木造の扉に手をかけた女将が振り向く。
「ま、魔法...!」
そこまで言って止まってしまう。魔法って何ですか?と聞くようなものなのか?一般常識だった場合、魔法そのものについて聞く事はおかしいのではないか?と、再び頭の中がかき乱される。
だが、女将は顔をゆるめた。
「うん、やっぱり魔法学校の転入希望者だったんだね。まあ、外はまだ寒いし中にお入りよ」
「え?あっ...はい!」
女将が信用できる人間なのかどうかは正直わからなかったが、二人組とのやりとりや自分への態度から悪意はないと判断する。
これは、自分が成人男性であったら何もわからないまま放置になっていたのではないだろうか。
(美少女になって助かったのかも知れない)
そう思いながら、綾瀬悠里はこの世界で初めての一歩を踏み出した。
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