奇跡を起こした小さなインコ

無雲律人

プロローグ:君は唐突に居なくなった

 二〇二三年十二月十三日、君は、唐突にこの世を去った。


 昨日まで元気なはずだった。元から良く寝る子だったから、その日も「今日も良く寝るな」としか感じていなかった。


 でも、君は朝になっても目を覚まさなかった。


 私の手の中で冷たくなった君を見て、涙がとめどなく溢れた。


 ひとりで死なせてしまった。看取れなかった。寒い日だった。君はケージの中でただひとり死んでいったのか……。


 何にも心を動かされないタイプの父も、うっすら涙を浮かべていた。君が父に対して起こした奇跡は数知れなかった。父にとって、君は特別だった。


 父は君を弔うためにそっと自分のハンカチを私に差し出した。それに君を包んで、キンカンの木の下に埋めた。君が好きだった生米を上からそっと振りかけた。


 君は……最期に誰を呼んだのかな……。その声に気付けなくてごめん。ひとりで逝かせてごめん。最後に抱いてやれなくてごめん。


 私は後悔の念に駆られた。


 もっと君と遊べば良かった。父にばかり懐かせてしまった自分に腹が立った。


 飼い主であるおいたんの消沈ぶりは凄まじかった。ご飯も喉を通らなくなり、換気扇の下でタバコをくゆらせながら泣いているのだ。


 おいたんは日中は仕事に出ているし、帰宅した頃には君は寝ているから、朝だけがコミュニケーションの時間だった。それでも、君とおいたんの絆は強固なものだった。


 母も、うっすらと涙を浮かべていた。


 家族の誰もが悲しんだ。君ともう遊べない事が悲しかった。君の世話を出来なくなるのも悲しかった。君はいつも寝ていたけど、それだけでも良かった。居てくれたらそれで良かったのだ。


 君は、この家の全ての人間にとって光だったのだから──。

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