第5話

「え、えっと…。私もなにがなんだかさっぱりなんですけれど…」


自分の本当のお父様が公爵様だと知らされただけでも頭がひっくり返ってしまいそうになっているのに、今度は私のところに伯爵様が訪れているのだという…。


「ど、どういうこと??私もう伯爵様とお話しすることなんてなにもないと思うのだけれど…?」

「お手を煩わせてしまって申し訳ありません、ミラ様。しかしこれは、ほかならぬジルべス公爵様からのお話ですので…」

「わ、分かりました…。とりあえず伯爵様にお会いすればいいのですね…?」


婚約破棄後、どういうわけか公爵様との血縁関係を知らされることになった私は、そのまま公爵様のお屋敷で過ごしていた。

するとまたまたどういうわけか、あの時は私の事なんてどうでもいいと言っていた伯爵様が私の後を追ってきて、ぜひとも話をしたいと言っているのだという…。


――――


「あ、会いたかったよミラ!!こうして再会できて本当にうれしい!!」

「???」


婚約破棄後、初めて会ったソリッド伯爵様の雰囲気は、それまでの私に対する者とは全く違うものになっていた。

まるで、別人になってしまったかのように。


「えっと…。伯爵様、何の御用ですか?もう私の事は必要ないとか、妹が最優先だとか言っていませんでしたっけ…?」

「それは過去の僕の言い方が悪かっただけなんだ!セレーナの事は妹として大切に思っているということが言いたかっただけで、そこに特別深い意味なんてなかったんだよ!なんなら、君と比べてどちらが大切な存在であるかなんて、今更聞かなくてもわかるだろう?僕にとっては最も君の存在こそが大事で、それ以外に何もいるものなんてなかったんだあぁもう!そんな簡単なことにも気づかなかったかこの僕を殴ってやりたい!!」


伯爵様はどういうわけか、聞き取れないほど饒舌な口調で言葉をスピーディーに連ねていく。

…そこにどんな思惑があるのかははっきりいってバレバレだけれど、ここまでくるとなんだかすがすがしく思えてくる。



「公爵様にはすでに話を通してあるんだ!だからあとは君の意志さえ確認することができたなら、僕たちは今日にでも以前までの日々に戻ることができる!だから後は君が一歩、こちらに歩み寄ってくれるだけでいいんだ!」


先ほどから何度もその内容の言葉を口にしているけれど、やはりソリッド様のお目当ては私との関係を再興することにあるらしい。

…なら、私の中には当然ひとつの疑問が沸き上がってくる。


「でもそうなると、伯爵様は私とセレーナのどちらを信じるのですか?きっと彼女は私の事を受け入れてなんてくれないと思いますよ?そうなったとき、伯爵様は私の事を助けてくれるのですか?」

「もちろんだとも!正直なところ、セレーナの自分勝手さには僕も手を焼いていたところなんだ!それに、よく考えてみてほしい!公爵令嬢である君と、ただの妹に過ぎないセレーナと、一体どちらを優先的に扱うのが正解かなんて、聞くまでもなく明らかだろう?それを並列にして考える地点で、失礼な事であると僕は思っている」

「まぁ」


今まで私に言っていた言葉はどこへやら、今度は私の事を全面的に信用してくれるという。

でもそうなると、また新しい疑問が浮かびがってくるのでは?


「なら、どうして伯爵様はあの時私の事を信じてくださらなかったのでしょう?私は何度もセレーナの性格の問題点を冷静にご報告したつもりだったのですが、伯爵様は私の事を一向に信用してはくださりませんでした。それが今になって、どうしてそこまで?」

「そ、それは……」


私の生まれがそうだとは知らなかった、とは正直に言えないのですね。

もうここまで来たら、隠す方が難しい事でしょうに。


「依然の私は伯爵様が思っているほどの価値をもって言いなかったから、ずさんに扱ってもよかったということでしょうか?それなら今になって伯爵様の事を信用するのはできないと言わざるを得ないのですけれど…」

「ちょ、ちょっと待ってほしい!!」

「公爵様にもそう告げておきますね。私に価値がなかったから婚約破棄されたのでしょう?セレーナだけいればなんでもいいとお考えになっておられたのですから、私との関係が再興できなくても構わないでしょう?すべてを失う結果になったとしても、セレーナさえいればそれでいいのですよね?ならどうぞそうされてくださいませ。私はそんな伯爵様の思いを尊重して、すべての真実を公爵様にお伝えするだけですから」

「っ!?!?!?!?」


…その時の伯爵の絶望顔ほど、おかしいものはなかったことだろう。

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