第4話

――ソリッドの思い――


…なんとかセレーナとの会話を切り上げることに成功した僕は、そのまま急いで屋敷から出発する準備を整える。

目指すべき場所はたったひとつ、僕ら貴族家を統括する立場にあるジルべス侯爵様のところだ…!!


――――


「公爵様はいらっしゃいまんせんか!!!公爵様!!!」


公爵の暮らしている場所は非常に広大な土地であるため、中に入るのにも一苦労である。

さらに公爵は当然のことながら、非常に多忙な生活を送っているる。

それゆえに、こうしてアポもなしに公爵の元を訪れたとしても、会える可能性は極めて低かった。

…しかしそれでも、ソリッドは今すぐにでも公爵様に会って釈明をしなければならなかった…。


「公爵様!!ソリッドでございます!!なんとかお話だけでもさせていただくことはできませんか!!公爵様!!」

「…ソリッド様ですか?」


何度か大きな声を上げていたソリッドのもとに、1人の人物が屋敷の中から姿を現した。

その人物は公爵様に仕える使用人のように思われるが、伯爵の姿を見たとたんややその表情を怪訝なものにする。


「…今更いったい何の御用でしょうか?公爵様はもうあなたに会う理由はないとおっしゃっておられますが?」

「そ、そこをなんとか!!僕と公爵様の間には大きな誤解があるのです!!それを解かないことには、このまま帰ることなどできません!!」

「はぁ…。何を勝手なことを言っておられるのですか?伯爵様、そもそもこれはあなたが自分の意志で始められたことではありませんか?だというのにそれを今更公開されているなど、とても伯爵位の貴族家である者のすることではないかと思いますが?

「そ、その節は本当に申し訳ないことをしてしまったと思っております…!!!ですからこの通りに…!!!」


なにやらソリッドには、ジルべス公爵に対してこれほどまでに謝らなければならないほどの理由がある様子。

そしてそのことは公爵の使用人も理解しているようで、どこかとげとげしい口調でソリッドに対する言葉を続けていく。


「伯爵様、そんなあなたをミラお嬢様様はきちんと受け入れられていたのでしょう?にもかかわらず、あなたはそんな彼女の思いを無下にし、一方的に婚約破棄を告げられた。その事実の大きさをどう認識されているのですか?」

「で、ですから…。何度も申し上げています通り、ミラ様が公爵様と血縁関係にあっただなんて知らなかったものですから…」


そう、それが伯爵がはるばる公爵の元を訪れた理由だった。

彼が一方的に婚約破棄を行ったミラは、実は公爵がかつてともに生活していた実の娘だったのだ。

しかしミラ本人はその事をいまだ知らされておらず、当然それゆえに伯爵もまたその事を把握してはいなかったため、こうして筋違いな婚約破棄を生み出すこととなってしまったのだった。


「で、ですから何卒公爵様にもう一度だけお話をするチャンスを…!!」

「うるさいなぁ…。一体何事だ?」

「「こ、公爵様!?」」


2人が問答を繰り返していたその時、それまで外に出ていたジルべス公爵が屋敷まで戻り、その姿を現した。


「なんだ、我が最愛の娘を婚約破棄した愚かな男ではないか。お前に対してはもうまもなくそれ相応の天罰を下そうと思っていたところだが、何か最後に言いたいことでもあるのか?」

「そ、それは…!?!?」


ジルべス公爵の圧倒的な雰囲気の前に完全に言葉を封殺されながらも、このまま黙って帰るわけにもいかないソリッド。

彼はなんとか心の片隅に残したほんの少しの勇気を振り絞り、ジルべスに対して弁明の言葉を放ち始める。


「き、聞いてください公爵様!!あれはどうしてもそうせざるを得ないだけの状況があったのです!!もちろん僕とて、ミラ様との婚約関係を幸せに感じており、その時を永遠に過ごしたいと思っておりました!!僕は今まで生きてきて本当によかったと思いながら、婚約式の時を過ごしていたのを今でも覚えております!彼女の存在はそれほどにこの僕にとって大きなものだったのです!信じてください!!」


果たしてその言葉のどこまでが真実なのかはわからないものの、少なくとも自分の身を守ることに必死である事だけは伝わってくる。


「ミラ様ほど心の美しい女性を、僕は一人も知りません!だから謝りたいのです!なんの説明もなく一方的に関係を終わらせてしまう道を選んでしまった過去の僕の非礼を、心からお詫びしたいのです!!公爵様、どうかお願いします!僕をもう一度ミラ様と会わせていただきたいのです!」


必死な雰囲気でそう言葉を続けていくソリッド。

それを聞くジルべスは全く表情を変えることなく、ただただ冷静な雰囲気のままにこう言葉を返した。


「ふむ、それならばお前の運命はお前自身に選ばせてやることにしようか。伯爵よ、お前は過去の自分の行いを悔いているといったな?その言葉に偽りはないだろうな?」

「も、もちろんでございます!このソリッド、敬愛する公爵様の前で嘘など申したりはいたしません!!」

「良いだろう。ならばついてこい。すべてに決着をつけようではないか」

「あ、ありがとうございます!!!」


ソリッドはこれを、ジルべスから与えられた最後のチャンスに違いないととらえた。

…しかし、向かう先は自分の過去の罪の全てを清算する場所であるということを、伯爵はまだ知らないのだった…。

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