第49話 王家との契約

「だから、ニネットはアンドレの正妃にすると言っているだろう!」


「ですから、それは断ると」


「王命だ!」


「王命であっても、ジラール公爵家当主として断ります」


「はぁ!?」


ついに立ち上がってしまった国王に、アンドレ様が声をかける。


「父上、落ち着いてください。ここは私から」


「あ、ああ」


「ジラール公爵。公爵は王命を何だと思っているんだ?

 王命で出されたのなら、従うしか答えはないんだ。

 素直にニネットを置いていけ。今日から王宮に住まわせる」


「それも断ります。ニネットは私の娘だ。

 嫌な結婚などさせるわけないだろう」


「お前、不敬だぞ!」


「不敬でけっこうだ。

 お前たちこそ、ジラール公爵家をなんだと思っているんだ。

 ただ一方的に王家が搾取していい関係ではないんだぞ!」


「っ!!」


国王だけでなく、アンドレ様まで怒りで真っ赤になってしまった。


「……もう一度だけ言う。聞かなければ罰する。

 これは王命だ。ニネットを正妃にすると認めろ」


「断る」


「では、ジラール公爵を捕まえろ!反逆者だ!」


騎士たちが剣をこちらに向けてくる。

このままでは三人とも牢に入れられてしまう。


父様は、声をあげて笑った。


「……お前、頭がおかしくなったのか?」


「おかしいのはそちらだ。

 精霊との契約には条件がある。

 ジラール公爵家はこの国から出られない、

 そしてこの国のために尽くす。

 だが、王族に逆らってはいけないというものではない」


「……なんだと?」


「公爵家と王家との間で取り決めがあった。

 王家はジラール公爵家に無理強いはしない。

 ジラール公爵家は王命を拒否することができる。

 それを認めなかった場合、この契約は破棄することができる、と」


「破棄……まさか!」


「当主が精霊の愛し子の時にしかできないことだ。

 だからこそ、忘れ去られていたんだろう」


父様が手を広げると、どこからかたくさんの精霊が集まってくる。

精霊が怒っている……これは王家への怒り。


「精霊よ。ジラール公爵家の当主として伝える」


「や、やめろ!」


「二つの契約は破棄する」


遠くから何かが壊れる音がした。

もしかして、精霊を閉じ込めていた結界が壊れた?

これで精霊はもうこの国に留まる必要がない……


「誰か、公爵を止めるんだ!」


国王とアンドレ様が騒いでいるけれど、もう遅い。

父様は精霊を解放してしまった。

騎士たちが近づこうとしても、精霊たちが弾いているために、

私たち三人のそばには来れない。


「精霊よ。もう自由に生きていい。

 今までこの国のためにありがとう」


父様が礼を言うと、精霊の半分はどこかに飛んでいく。

あぁ、他の精霊に知らせに行くんだ。


「なんてことをしたんだ!」


「公爵!この責任をどうとるつもりだ!

 お前が一生奴隷になったとしても済ませられない問題だぞ!」


「奴隷?ごめんだな。

 国王、王太子に告ぐ。

 ジラール公爵家は独立する」


「「はぁ?」」


「ジラール公爵領は独立し、ジラール王国となる」


え……?ジラール王国?

ルシアン様も初耳だったようで、目を見開いている。

父様、そんなこと言ってしまって大丈夫なの?


「そんなことは認められるか!」


「認めるしかないだろう。

 初代ジラール公爵と王家との契約だ。

 関係が終わった時には、公爵領は公爵家のものだと」


「認めないぞ!」


「まぁ、国王と王太子が何を言ってもかまわない。

 だが、他国にはきちんと説明するよ。正式な契約書類は残っているんだ」


「おい、お前たち、公爵をここから出すな!

 殺してもいい!絶対に逃がすんじゃない!」


もう説得するのは無理だと思ったのか、

騎士たちが剣を構えて向かってくる。


だが、父様は私とルシアン様を抱えると、窓から外に向かって飛んだ。


「っ!?」


声にならない悲鳴を上げた私をルシアン様が抱きかかえる。

少しして、ルシアン様が優しく頭をなでた。


「ニナ、もう大丈夫だよ。

 地面についた。馬車に乗るよ」


「え?あ、はい」


「驚かせて悪いな。あのまま廊下に出ても騎士に囲まれると思ったから、

 窓から外に出たんだ。

 精霊の力を借りれば、ニナも一人で飛べるはずだぞ?」


「……怖くて無理よ」


「まぁ、俺が飛ばせばいいか」


「ええぇ」


また飛ぶようなことがあるんだろうかと思う。

そういえば、父様がジラール公爵家に帰って来た時、

馬車ごと飛んできたのを思い出した。


「急いで屋敷に戻ろう。

 準備をしたら、領地に行こう」


「叔父上、もしかして、最初からこうするつもりで?」


「最悪の場合を想定していた。

 だから兄上にはそのことも説明して許可を得ていた。

 ニナを無理やり連れて行かれるようなら、

 公爵領を独立させてもいいと」


「そっか……父上も」


「兄上は最後まで悩んでいたけどな。

 王家と貴族は嫌いでも、国民は心配だからと。

 でも兄上にとってもニナは大事な姪だし、

 自分の息子の想いは叶えてやりたい。

 王家が無茶をしたときは許すと言ってくれたんだ」


「叔父上、ありがとう」


「ああ。兄上にも後で言っておけ。

 話は後だな。もう着く」


馬車がジラール公爵家に戻る。

父様は降りると、すぐに表屋敷の使用人頭デニスを呼ぶ。


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