第29話 精霊の祝福と作戦の決行

それから二週間が過ぎ、表面的には穏やかな生活を送っていた。

母様は何をしているのか、いつになったら助け出せるのか、

悩みがなくなることはない。


ルシアン様もそれには気づいていただろうけど、

そんな時は私の頭をなでて困ったように笑うだけだった。


「ニナの母上は、夜会の日に助け出すことにした」


「夜会の日?いつですか?」


「三週間後だ。その日は王都中の警備が王宮に集中する。

 精霊教会の上層部も夜会に出席する。

 母上が閉じ込められている司祭の別邸も警備が手薄になるはずだ」


「その時に忍び込んで助けるんですね?」


精霊の力を借りるのなら、私も行きたい、

そうお願いするつもりだったけど、お見通しだったようだ。


「俺とニナも夜会に出席する」


「ルシアン様と私もですか?」


「ああ。精霊の力を借りて助け出したのがわかれば、

 まず疑われるのはニナだ」


「それは……」


「だが、俺と夜会に出ていれば、ニナには不可能だとわかる。

 それでも疑われるだろうが、陛下と精霊教会にはわからないはずだ」


精霊の力を借りて母様を。

私もルシアン様も夜会に出るなら、じゃあ、誰が?


「誰が助けに行ってくれるのですか?」


「パトとミリーに頼む。

 私兵も動かすが、精霊の力が使えるものが必要だ。

 ……ニナは精霊の力の使い方がわからないようだけど、

 精霊の祝福を受けている者も少しは使えるんだ」


「だから、パトとミリーが?」


「ミリーが行くのは、母上は男性はさわれないだろう?

 万が一、抱えなくてはいけないような時のためにミリーも同行する」


「なるほど……」


精霊の祝福を受けた者でも、精霊の力を使うことができるのなら、

私だけを疑う必要はないんじゃないかと思ったら、そうではなかった。


「この国の人間は精霊の祝福を受けたとしても、

 能力は精霊を見るか、声を聞くかのどちらかだと思っている。

 精霊の力を使えるなんて知らないんだよ」


「それもジラール公爵家が隠しているからですか?」


「正解。どうやって精霊の祝福を受けるのかも知らないはずだ」


「私も知りません」


精霊に気に入られたら祝福をもらえるのではないのかな?


「精霊の愛し子が精霊にお願いするんだ。

 この者は信頼できるから祝福を与えてほしいと。

 もちろん、精霊が気に入らなかったら祝福は与えられない。

 そして、祝福は何度でも与えることができる。

 ミリーは叔父上だけだけど、パトはお祖母様と叔父上の二回。

 それだけ強い精霊の力を使うことができる」


そういう仕組みになっているんだ……

あれ、じゃあ。


「私が精霊にお願いしたら、三回目になりますか?」


「あ、そうだな。力は強くなると思う」


「じゃあ、お願いしてみます」


執務室の真ん中の木で遊んでいる精霊たちに呼びかける。


「ねぇ、精霊さんたち。お願いがあるの。

 私の母様を助けに行くために力を貸してほしいの。

 ルシアン様とパトとミリーに祝福をあげてほしい」


"わかった!"

"いいよ、ちょっと待っててね!"

"ルシアンって、もっと祝福を受け取れるんじゃないかな!"

"あ、本当だね。あと何回かかけても大丈夫そう!"

”ニナを守るためだもん!もっといっぱい祝福しよう!!”


「え?あれ、いっぱい?いいの?」


「……なんだか不安だな」


パトとミリーだけじゃなく、ルシアン様もって言ったのは、

母様を助け出した後もルシアン様の力が必要だと思ったから。

初めて精霊の祝福をお願いしたからか、精霊たちがはしゃいで手が付けられない。


大丈夫なのかと思いながらも、

精霊たちがルシアン様の周りを飛び回るのを見守る。


時折、えーいとか、わーいとか精霊の声が聞こえる。

何度もルシアン様は光の玉をあてられて、まぶしそうにしている。


しばらくしてルシアン様から精霊たちが離れたら、

ルシアン様の髪色が銀色に変わっていた。


「ルシアン様……外見が精霊の愛し子みたいです」


「これはあくまでも祝福だが……外に出るときは姿を偽らないとな」


「やりすぎちゃったみたいで、ごめんなさい」


「いやいいよ。ニナを守るために与えられた力だ。

 ありがたく受け取るよ。

 あぁ、パトとミリーも驚いてここに来るだろうな」


その言葉通り、慌てたようにパトとミリーが執務室に入ってくる。


「ルシアン様!」


「精霊が!今、私に祝福を!どういうことでしょうか!?」


「二人とも落ち着いて。ニナのために精霊が力を貸してくれたんだ。

 これでニナの母上を助け出すのに十分な力になっただろう。

 安心して二人に任せることができるよ。頼んだぞ?」


「パト、ミリー。母様を助け出してきて。お願い」


パトとミリーは見つめあって、力強くうなずいた。


「任せてください。何があっても、ニナ様の母君をお助けいたします」

「私もです。力を尽くして、見事助け出して参ります!」


「ありがとう!」


二人の周りにはたくさんの精霊たち。

ぼくらも助けに行くよと言っているようで心強い。


「ルシアン様、今後のためにも、

 私も精霊の力を使えるようになりたいです」


「今後のためにも……そうだな。

 ニナは自分の身を守るためにも使えるようになった方がいいな。

 本宅内でなら練習しても大丈夫だろう」


こうして、私も精霊の力を使う練習を始めることになった。

ルシアン様とパトに指導され、少しずつ精霊の力を理解していく。


精霊にもできることとできないことがある。

精霊は人に対して攻撃するのが苦手だ。

無理に力を使わせれば、精霊の命を削ることになる。


表向きには夜会の準備を行いながら、

母様を助け出すための準備も進めていく。


すべての用意は整い、夜会が開かれる日。

私とルシアン様は着替えて王宮へと向かう。


本邸を出たからにはよけいなことは言わない。

馬車を見送るパトとミリーに視線だけでお願いする。


どうか、母様を助け出してきて。






  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る