第3話 侯爵家の生活
カミーユ様との話し合いが終わり馬車に乗って帰宅する。
バシュロ侯爵家に着いたら、私室に行く前にオデットに捕まる。
私が帰ってくるのを待ち構えていたようだ。
「ねぇ、カミーユに会った?」
「ええ、会ったわ」
「なんて言われたの?」
知っているからか、ご機嫌な様子で聞いてくる。
「話はすぐに終わったの。カミーユ様との婚約を解消してきたわ」
「え!本当に!?」
「嘘なんて言わないわよ」
オデットじゃないんだから、という言葉は言わないでおいた。
騒がれるとめんどくさいだけだから。
婚約解消が本当だとわかると、オデットはうれしそうに笑う。
ここ数年ずっと私とカミーユ様の仲を悪くさせようとしていた。
これでオデットに絡まれることも減るだろうか。
「やっとカミーユは解放されたのね!
ずっとニネットとの婚約なんて嫌がっていたもの」
「そう」
「明日から楽しみだわ!
あ、もう王家の馬車は来ないのよね?
ニネットは王族の婚約者じゃなくなったのだから」
「……」
「私は一緒の馬車に乗るなんて嫌よ。
婚約解消されたのはニネットのせいなんだから、
歩いて通いなさいよね!わかった!?」
まだ何か言っていたけれど、答えずに私室へと向かう。
返事をしなかったからまたオデットがかんしゃくを起こすかと思ったけど、
私が婚約解消したのがよほどうれしかったのか、
鼻歌まじりでどこかに行ってしまった。
カミーユ様とオデットが恋仲なのかは知らない。
オデットがカミーユ様の婚約者になりたがっているのはわかるが、
カミーユ様がどう思っているのかははっきりしない。
それでもカミーユ様はオデットの話しか聞かない。
最初の頃は聞かれたらきちんと答えていたけれど、
途中からはもうどうでも良くなってしまった。
カミーユ様の頭の中では答えが決まっているのだから。
私室に入ると少しだけほっとする。
私には専属侍女がついていない。
人が周りにいるときは使用人相手でも気が抜けないから、
できるかぎり一人になりたい。
用がある時だけ呼ぶことになっているが、呼ぶことはあまりない。
着替えも入浴も一人でできる。
学園での生活でほしいものがある時は執事に直接伝えている。
本当は食事も一人でしたいのだが、夫人とオデットがそれを許さなかった。
朝夕の食事は侯爵も一緒だからだ。
家族四人で食事をとるというのは、家族仲がいいということらしい。
侯爵に知られるのを恐れているのか、
私を排除するような行動は侯爵の前ではしない。
夕食時、侯爵と侯爵夫人、オデットと一緒の席に着く。
たいていは誰も話さずに食事を終えるが、めずらしく侯爵が口を開いた。
「アデール、先月の支払いが多かったようだが、無駄遣いしたのか」
「仕方がありませんわ。ニネットがまた新しいドレスを欲しがって。
ついでにネックレスとイヤリングもそろえましたのよ」
「そうか。ニネットの買い物なら仕方ないか」
「……」
私のための買い物なんてしていないけれど、これはいつものことだ。
夫人とオデットは自分の買い物をしても、私の物だと侯爵に伝えている。
侯爵が席を立って私室に戻ると、オデットが夫人にねだり始める。
「ねぇ、お母様。またお茶会に誘われたの。
新しいドレス作ってもいいでしょう?」
「さっきお父様に無駄遣いしないようにって言われたばかりよ?」
「大丈夫よ。ニネットの物だって言えばいいんだもの」
「あまり大きな買い物をするとバレるわよ」
「平気よ。ニネットは言わないものね?」
うふふとオデットが私に笑いかけたけれど、
それは聞かなかったことにして席を立とうとした。
が、夫人は私を逃がさなかった。
「ニネットもドレスが欲しいかしら?」
「いえ、いらないです」
「そうよね。ニネットはお茶会に呼ばれないものね」
夫人はにこにこと笑いながら嫌味を言う。
これもいつものことだけど、今日は長かった。
「お茶会に呼ばれないのは誰のせいかしら」
「……さぁ」
「あら。わからないなんてお馬鹿さんなのね。
ニネットが愛人の子だからに決まっているじゃない。
お茶会に来られたらお茶がまずくなるもの」
「お母様、それだけじゃないわよ。
ニネットったら、おしゃれに興味ないとか言い出すんだもの。
令嬢として失格だわ」
「しょうがないわよ。平民の血が混ざってしまっているもの。
ドレスなんて着てもごまかせないのよ」
「そうよね。うふふ。
いい?ニネットが着ても仕方ないから、
私たちが代わりに着てあげているのよ。
だって、もったいないじゃない」
「ニネットだって、そのくらいわかっているわよね?
主人に言いつけるような真似したら、ただじゃ置かないわよ」
「ええ、言いません、お義母様」
最初の頃は無駄遣いしているのは私ではないと言おうと考えたこともある。
わがままも言っていないと否定したこともあったが、
その後で夫人に嫌味を言われ続けてめんどくさいことになった。
夫人は私のことを愛人の子だと思っている。
快く思わないのも当然だ。だから、私は黙っていることにした。
侯爵もそれが本当かどうか調べもしないし、
夫人とオデットには興味がないようだった。
それはそれで可哀そうだと思ってしまったせいもある。
この家で何が起きても、侯爵に言いつけるようなことはしなかった。
だが、それがいけなかったのか、
オデットは私には何を言っても何をしてもいいと思っている。
婚約者だったカミーユ様だけではなく、お茶会や学園で私の悪評を流し、
自分は愛人の子にいじめられて居場所がないと嘆いているらしい。
それを信じた令嬢たちに囲まれて嫌味を言われることも、
カミーユ様に呼び出されて説教されることも本当にわずらわしくて、
オデットに仕返しでもしようかと思ったけれど、
人質になっている母様に何かあるかもと思うとそれもできなかった。
結果的にカミーユ様との婚約が解消になってほっとした。
あんなにオデットの話だけを信じて責めてくるような人と、
形だけでも夫婦になってやっていけるとは思えなかったから。
いつ国王に呼び出されるんだろうか。
どうしても婚約しなければいけないのなら、
次はもう少し話し合いができる人ならいい。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。