アクマで魔法少女ですので

ココア

第1話:いいえ。あくまでアクマです

 魔女を倒し、新たな世界に来たのは良いのだが、今――俺は困惑している。


 困惑の理由は多岐に渡るが、一つずつ整理していこう。


 俺の名前は榛名史郎はるなしろう

 とある理由で男から女になった存在だ。


 そして魔法少女となり、アルカナと呼ばれる存在と協力……協力? して、自分の死と引き換えに魔女を倒した。


 そのまま死ぬはずだった俺は、アルカナの上司たる存在のおかげで生きながらえたのだが、身体を手に入れるには一度他の世界に行かななければならなくなった。


 身体を手に入れる対価として、他の世界に存在している魔女と呼ばれる存在を滅ぼさなければならないのだが、これは俺からお願いした様な物なので問題ない。


 そう。ここまではどうでも良いのだ。


 問題は今俺の目の前に居る少女だ。


 黒髪に怪しく光る赤い目。


 ――いや、門から溢れる光のせいでそう見えるだけか。

 

(どういう状況か理解出来るか?)


『今しがたこの世界の管理者から連絡が入ったよ』


 ふむ。ちゃんとアクマとも会話できるようだな。


 アルカナと呼ばれる対魔女用に作り出された生命体。


 魔法少女と契約する事で魔法少女に絶大なる力を与え、サポートもしてくれる。

 

 通常契約は一匹……一人だけだが、とある理由で俺の中には二人のアルカナが居る。


 それと追加で居候が二人だ。


(なんだって?)


『悪魔召喚しようとしているの見つけたから、ついでに解決しておいてだって。それとこれがこの世界での悪魔召喚の知識ね』


 情報を流されて頭に走る痛みも慣れたものだが、悪魔召喚とは地獄からアクマ……じゃなくて悪魔を召喚する事である。

 

 また寿命を対価にする事で悪魔の力を借りる事ができ、契約者が死んだ場合、世に解き放たれると。


 とても危険なため、人間界では禁忌とされている……か。


 最初から面倒だが、一旦流れに身を任せるか。


「あなたが……悪魔?」


 いいえ、魔法少女です。

 なんて言うのも何だがつまらんな。

 どうせこの世界にとって俺は異物だ。


 少し位遊んでも良いだろう。


「そうです。私がアクマです」


『なんでさ!』


 アクマが抗議の声を上げるが、いつも通り無視である。


「わ、私と契約しなさい!」

「意味を理解しているんですね?」

「勿論よ! 私の寿命を捧げるから、私に力を頂戴!」 

 

 力を欲するか……馬鹿な行為だと言えないんだよな。

 戦うために力を欲した結果が、今の俺なのだから。


 少女は精一杯虚勢を張っているのだろう。


 少し弄んでやるか。

 

「良いでしょう。あなたの寿命を対価に力を貸しましょう」

「貸す? 与えるじゃなくて?」

「ええ。あなたが力を振るいたくなった時に、対価を頂いて私が力を振るいましょう。所詮召喚獣と考えてもらえれば結構です」

 

 俺の能力的に、力を与えるなんて事は無理である。


 だが、単純な戦力としてはこの世界でもそれなりの物だろう。

 

 なにせ、アルカナなんてチートレベルの能力が有るのだからな。


 対チート的存在である魔女でも現れなければ、どうにかなるだろう。


「……それで良いわ。私の力として使えるなら、それで結構よ」

「良いでしょう」


 武器である杖を虚空から取り出す。


 魔女との戦いで魔法を使う対価として捧げたが、この世界へ来る時に返してもらった。


 身の丈を越える、大きな木製の杖。


 先で地面を突き、意味の無い魔法陣を展開する。


「それでは契約だ。汝は我との契約の下、我の好奇心を満たすまで、寿命を対価に力を貸そう」


(それは嫌がらせか何かな?)


 俺がアクマと交わした時の契約と似たような内容を話す。

 あの時とは違い、俺のこれには一切縛るモノはない。

 ただの演出だ。


 魔法陣は一層光り輝き、そして消えた。


 少女は目を瞑り、怯えるようにして後ずさる。


 丁度良く俺が出て来た扉も消え、足元にあった少女の描いた魔法陣も消えた。


 全ての光が消え、代わりに魔法で光球を作り出す。


 その光に驚いたのか、遂に少女は尻餅をついた。


 流石に漏らすなんて事はしていないので、安心である。


 軽く周りを見渡すと、狭い個室みたいだ。


 少女の後ろには扉があり、壁の一面には本棚と机がある。


 窓はないので、おそらく地下室なのだろう。

 

「名は?」

「え?」

「名前は何ですか?」 

「アインリディス……アインリディス・ガラディア・ブロッサム……です」 


 長いな……異世界なのだし、英名なのは仕方ないが覚え難い。


(こいつの情報と、関係のある情報を貰えるか?)


『…………はいはい』


 ――ふむふむ。侯爵家の次女ね。


 年齢は十二歳で、魔力回路と呼ばれるものに異常があると。

 

 親は健在で姉と弟が居る。


 全員と不仲で、このままでは売られる可能があるとかないとか。


 いつもの様な詳細な情報ではなく、紙に書かれたプロフィールを読んでいる感じたが、世界が違うから仕方ないのだろう。


 少女が何のために力を欲するかは後で聞くとして、当面はこいつを世話しながら世話されるとしよう。


「長いですね。縮めてリディスで良いですか?」

「え、ええ! 構わないわ。それより、顔を見せなさい! それが礼儀ではなくて」


 ……ああ、癖でフードを被ったままだったな。

 

 俺としてはそれよりも尻餅をついたままの方が気になるが、まあ良いだろう。


 フードを捲り、無駄に長い青い髪を外へと出す。


「ヒッ! えっ? 女の……子?」


 悲鳴を上げたって事は、やはり身体や顔などは全く変わっていないのだろう。


「何か問題でも? それより、此処から出なくて良いんですか?」


「そうね……。付いてきなさい! 話は私の部屋でしましょう」


 気丈に振舞っているが、可愛いものである。


 何となくロシアに居た知り合いを思いだすな。


 ともかく、話をしながら自分の状況も振り返るとしよう。

 

 リディスの後を付いて行き、階段を上がると図書室と思われる場所に出た。


 外では雨が降り、雷の音が響いている。


『あーふーん。なるほど。なるほど』


(どうした?)


 アクマが構ってオーラを出すので、仕方なく話仕掛けてやる。


 魔女との戦いの結末が結末なので、少しだけアクマには悪いと思っている。


 少しだけな。


『この世界の情報サーバーにアクセスする権限を貰ったから、色々と見ていたんだ。それと伝言と言うか、メッセージが届いてるよ』


(メッセージって偽史郎からか?)


『ああ。あいつの事をそう呼んでいるんだったね。その偽史郎からだよ。とりあえず読むよ』


 アクマが読んだメッセージはそこそこ長く、若干イラっとしたので、そのまま俺も反復してみよう。


 魔法少女イニーフリューリングへ


 無事に新たな世界に旅立てたようだね。先ずはおめでとうと言っておこう。

 さて、君が新たに手に入れた身体だが、少し説明を忘れていたことがあった。


 一つ目だが、君も薄々感づいていた通りだが、筋力低下のデメリットについてだ。新たな身体では、このデメリットは無くなっている。

 変身していない時は、一般少女程度の筋力がちゃんとあるだろう。

 だが君の魔法少女形態では筋力の低下をデメリットする代わりに、魔法の威力が上昇するようになっているので、前よりも魔法の威力は上がるが、筋力は据え置きとなっているだろう。

 

 変身していても一般少女程度の筋力と捉えてもらえれば問題ない。


 二つ目だが、魂と身体が馴染むまではアルカナの使用は控えておくことだ。


 あれは負荷が大きすぎるので、無理に使えばそのまま死ぬ恐れがある。


 地球換算で一ヶ月から一年もすれば、単独での解放は問題なくなるだろ。


 しかし、君が切り札としているアルカナの同時解放ダブルリリースは、その世界では出来ないと思っていたまえ。

 それは身体だけではなく、世界にも少なからず傷を残す程危ないものだ。


 もしも……どうしても使わなければならない時は、その世界の神から承認を取り、結界を張ってから使用しなさい。


 下手に同時解放している状態で魔法を使えば、世界を破壊する結果となるからね。


 それほどまで強大な敵が出るとは思わないが、注意しておかないと、私に責任が降りかかるからね。


 三つ目だが、魔法少女状態では地球側の理に縛られるが、変身していない時はその世界の魔法が使えるはずだ。

 適性などは分からないが、試してみるといい。

 

 最後に、君が放置していた可哀そうな魔法少女を、後で一人送るからちゃんと面倒を見なさい。


 アクマもそうだが、飼い主なんだからちゃんと面倒を見るように。


 もう一つ重ねてだが、君の強化フォームによって手に入れた魔法は流石に過誤出来ないものだったので、その世界に居る間は封印させてもらう事となった。代わりの能力をSYSTEMが用意したので、後で確認しておくように。


 それでは健闘を祈る。



 

 …………………………誰が飼い主だ、と反論したいが、当分会う事もない。

 送られてくる魔法少女だが、来てからまた考えれば良いだろう。


 そして飼い主で思い出したが、アクマに伝えておかなければならない事が幾つかあるんだよな。


 だが、メッセージが長かったせいか、リディスの部屋についてしまった。


 アクマと話すのは後に回すとしよう。


「ここが私の部屋よ。そこの椅子に座って待っていなさい。紅茶を入れるわ」


 リディスの部屋は貴族令嬢らしく、広くて高そうなものが揃っている。


 部屋に来るまで誰とも会わなかったが、部屋にある時計を見て納得した。


 時間は十二から始まり、十二で終わっている。数字と数字の合間には四本の線があるので、時間は地球と一緒なのだろう。


 そして時間は深夜二時だ。


 他の人間が寝ていて当然だろう。


「お待たせ。お砂糖は必要かしら?」

「結構です」


 紅茶や珈琲は無糖で飲むのが好きだ。


 別に甘いものが嫌いなわけではなく、飲み物に限った話である。

 茶菓子として出されれば、普通に食べる。


 体面に座ったリディスは紅茶を一口飲み、その後俺を見つめて来た。


「それで、あなたの力は如何程の物なのかしら?」


 紅茶を飲んで一息ついたせいか、リディスから気品の様な物を感じる。


 さてと、どのように遊んでやるかな。

 

 

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