このS級探索者は、一階層しかないE級ダンジョンすら攻略できません。~実際は、一階層ボスが強すぎる件~

あくはに@ 『孫ダン』執筆中

第1話 世界最弱の探索者

「はい!始まりました!特別番組"S級探索者全員集合ー!!"」


 観客席から、拍手が沸き起こる。


「はい。今回は、日本にいるS級探索者の4が、この特番のために集まって下さいました!!」


 先程よりも大きな拍手と歓声が巻き起こる。


 ┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈


 説明しよう!S級探索者とは、探索者の中でも最上位に位置する者達を指すものである。A級以下の者達と比べると、S級とその他では、絶対的な越えられない壁が存在している。


 ┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈


 番組が進み、MCの人が笑いながら、この場に呼ばれていない5の名前を呼ぶ。


「そういえば、天久あまひささんはどうですか?」


 その発言に、スタジオ内が沸き立つ。


「ちょっと、MCさん。僕達S級の中には、そんな人いませんよ」


 そう言って、ニヤニヤとしているのは"葛道 灰人"だ。


 スタジオの中に、その行為を咎める人は誰一人おらず。寧ろ、その行為が当たり前の空気ですらある。


 ┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈


 実際、5人目のS級探索者は存在するが、このやり取りからも分かる通り嘲笑の対象となってしまっている。

 その理由は、最下級のE級のダンジョンを5年近くかかっても攻略出来ていないからである。しかも、そのダンジョンは1階層までしかないのである。通常、ダンジョンというのは100階層まで存在するものである。

 まぁ、それ以外にも理由はあるが大きな理由は上記のものである。


 ┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈


 Side:天久 空(三人称視点)


 特番内で、ソラのことを馬鹿にしている時。ソラは、あのE級ダンジョンの中にいた。


「クソっ!相変わらず、ボスさん強すぎだろッ!!」


 悪態をつきながら、数百の魔法を同時展開しながら、瞬きの合間にも、何百もの剣撃を浴びせる。


 だが、ソラが「ボスさん」と呼んでいる人は、たったの目を開くことすらせず、一太刀で全てを防ぐ。


 ボスさんの姿は、The・剣豪と言った感じで、剣の腕前はもちろん、魔法の腕も超一流なのである。


「温いぞ...空よ」


 その口が開き、言葉を発するボスさん。その言葉は、まるで質量を持っているかのように錯覚するほど重々しいものだった。


「ならッ!これは、どうだッ!!!」


 魔法を発動するのに使っていた魔力を身体強化に全振りする。すると、先程までの数十、数百倍の速さで剣撃を放つ。

 幾千、幾億もの斬撃がボスさんを襲うが、数回刀を振るうことで防ぐ。


「少しはマシになったか...」


 そして、また刀を一度振るうと、ソラの四肢が消し飛び、絶対に傷つかないはずのダンジョンの壁に、数多の斬撃痕が生まれる。


「疾く治せ」


 刀を納めるボスさんを尻目に、回復魔法で四肢を数秒で再生するソラ。


「じゃあ、もう一度行くよ」




 それから、数時間ひたすらに挑みかかるソラ。だが、一太刀も浴びせることが出来ずに、日付が変わり、ソラは帰っていった。


 ┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈


 何故、ソラは世間から馬鹿にされながらもここまでするのか。


 簡単なことだ。ボスさんから「お主が一日でも来ない日があれば、外の人間を皆殺しにする」と言われているからである。

 そうなれば、例え世界中の探索者が束になろうとも、ボスさんの一太刀で八割強が戦闘不能...死亡する。

 そのことを、ソラは正しく理解しているため、どれほど世間から馬鹿にされようと世界のため、何度も何度も死にかけながら戦っているのだ。


 気になっている人も多いだろう、ボスさんの正体だが。それは、名も無き剣豪の残留思念の亡霊である。

 この剣豪は、この世を去る時、深く後悔した。『我が剣を、後世に遺したかった』と。その強き後悔は、長い年月を経ても尚、鯖びれることは無かった。

 そして、世界にダンジョンが現れて100年が経とうとした時...運命のイタズラか、亡霊がいる地にダンジョンが発生した。

 ダンジョンというのは、新しくダンジョンが発生する際の魔力量、もしくは、内包する魔力量によって、E~S級なのかが決まる。


 しかし、亡霊は、ダンジョンが発生した際に、己を飲み込まんとする膨大な魔力を、自らの精神力のみでねじ伏せ、本能で扱い方を知り、己の力へと変換したのだった。

 本来ならS級相当のダンジョンが発生する予定だっだが、亡霊が9割9分9厘の魔力を強奪した為、E級ダンジョンだと判断された。

 さらに、残った1分の魔力では1階層を形成するのが限界だったようで、1階層しかないE級ダンジョンという結果になった。


 亡霊は、新たな力とダンジョンを完全に掌握し、『我が剣を後世に遺す』という意志の元、ダンジョンに『我が剣を継ぐ資格があるものだけが入れる』という条件を設定した。


 それに、該当したのがソラである。


 実際に、ソラが来た時は、とても喜び。今では、とても可愛い弟子だと思っている。

 が、不器用な亡霊...ボスさんは、「お主が一日でも来ない日があれば、外の人間を皆殺しにする」なんて、照れ隠しで思っていないことを言ってしまったのだ。

 最近のボスさんの夢は、ソラから「師匠!」と呼ばれることだ。


 ソラは気付いていないが、「本当に、悪い人なのか?」と疑ってはいる。


 ┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈


Side:ボスさん


 ソラが帰った後、ダンジョンの中にいるボスさんが呟く。


「時間も余り残されていないようだな...私が正気でいる内に、私を討ってくれ...期待しているぞ...我が弟子...空よ」


 

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る