第5話

「これが調査の結果です。」

 分厚い書類が会議中の全員に配布された。

「まず、連合艦隊司令長官、ならびに軍令部総長には、ご足労をありがとうございます。」

「私らも、話を聞いて、どこからそんな与太話が出るのか不思議だったのだが、実際に来てみて驚かされとる。

 空想科学小説ならいざ知らず、目前に大和と周りの建物のビルディングを見たら、信じない訳にはいかんだろう。なぁ、総長。」

「全くですな。惜しむらくは、見えているだけで行くことが出来んと言うところですな。」

「報告書にも記載していますが、大和の入渠しているドックの前方、約500m程度に、幅800m高さ800m程度の見えない壁が有ります。

 ここには現代の人間も機器類、船舶、航空機も入る事は出来ません。異世界...いや過去?から来られた方々は、壁を両方向で通過可能です。不思議な事に、機械類も過去の船舶に固定してあれば通過加工です。

 過去から運んできたケース類に火薬や弾薬、消耗品類、食料品も通過可能です。もちろん燃料も、燃料タンクに搭載した状態なら通過出来ます。ドラム缶は無理でしたが...」

「過去から来られた方々は、このドックの敷地内なら、何処でも移動可能ですが、外に出ようとすると、見えない壁にぶつかります。

 試しにヘリコプターに搭乗してもらって突破を試みましたが、空中で停止していました。ですから、艦から脱走は不可能と言う事になります。」

「人間は敷地から出入り不能か。兵器類はどうなのか?」

「兵器は通行可能です。でも、こちら側の最新兵器や機械類をそちらに持って行くのは...お薦め出来ません。」

「何故かね?」

「相手が米国だからです。彼らはこちら側の兵器をはじめとする機器類を、なんとしても鹵獲を試みるでしょう。そしてコピー出来なくても対応策を取ってきます。それに対してこちらの効果的な対応は、短期間では不可能です。彼らは執拗です。

 それこそ病的で変質的、かつ、こちらの嫌がることを仕掛けてきます。

 こちらの最新兵器類を提供したとしても、それを扱うのは人間です。習熟に時間が掛かるのは今も同じです。そして、自分たちに作れない機械装置を持って、対抗してくる敵国に、最終兵器をいとも簡単に使ってきます。」

「何ですかな?その最終兵器とやらは。」

「核爆弾、いや原子爆弾と言われる兵器です。この時代に数千から数万発存在していますが、実験以外で使用されたことは有りません。恫喝用としては最上ですが、もし使用した場合は、地球上のいかなる国家でも、滅亡させられるでしょう。まして米国は人種差別国家です。東洋の黄色い猿には容赦しません。そして多少の時間が掛かっても、米国は衰退し、滅亡の道を歩みます。全人類の存亡の危機となり得ます。」

「そんな夢物語は信じられませんな。」

「陸軍の二号研究、海軍ではF研究ですか?京都大学や理化学研究所で行われているのは、すでに押さえています。」

 軍の幹部たちはいやな顔をして明後日の方向を見た。

「そこで提案です。そちらの兵器や機材類を部品単位で結構ですので、こちらに送って下さい。こちらの技術で最高の性能が出るように改造や変更をします。また、鹵獲されても判らないように、超小型部品を組み込んで、数段上の兵器として戻します。

見かけは同じですが、性能が段違いになるので、米国はどんな魔法を使っているのか必死で調べると思いますが、兵器や艦艇が鹵獲されない限り判りません。こちらも一定の距離から離れたら、自爆や自己破壊をするように部品を組み立てます。」

「そんな都合の良い事が可能なのか?」

「すでに、こちらの使える部品や材料は手配を始めています。時間が有りません。」

「なぜそんなに急ぐ?」

「レイテ海戦で海軍はかなりの艦艇を喪失しています。海軍の衰退は日本の輸送航路の衰退です。内地での物資不足は民間だけでは無く、軍需物資にも及んでいるはずですが?」

「それは...」

「1945年3月に、米軍は沖縄に来ます。その前に軍需工場や港湾施設を艦載機で空襲し始めます。その前に打てる手をすべて打ちます。」

「貴官らは何をしようとしているのだ?」

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戦艦大和は生き残れるか? @kirishima2024

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