主人公を煽り散らかす糸目の悪役貴族に転生したんやけど、どないしたらええと思う? ~かませ犬なんてまっぴらごめんなエセ関西弁は、真っ向勝負で主人公を叩き潰すようです~

しんこせい

第1話



「エクス……カリバアアアアアアッッ!!」


 少年が高く掲げた剣が、峻烈な光を放つ。

 赤髪の少年が瞳に宿しているのは、強烈な決意。

 相対する相手を必ず倒すという情熱が、少年――勇者リオスの力を一段階上へと引き上げる。


「オオオオオオオオッッ!!」


 彼の熱意に負けぬほどに強い白の波動が、世界を白へと塗り替えてゆく。

 神の手によって作られた聖遺物であり、魔を誅する剣――聖剣エクスカリバー。


 この剣は使用者を己が認めた持ち手に振るわれる時、聖なるオーラを振り撒き、戦場を簡易的な神殿へと作り替える働きを持つ。


 聖剣の担い手である勇者が現れた戦場では魔物は本来の力を発揮できず、悪霊は生者を呪うことができぬうちに浄化され消えてゆく。

 聖剣とは戦局すら変えうる、戦術級の兵器なのである。


「エクストリーム――エッジ!」


 だが聖剣エクスカリバーの真価は、魔なる者への浄化にはない。

 その本領は、魔王に有効打を与えられるほどに圧倒的な攻撃力。

 悪神すら切り伏せることができるとされるその一撃は、音速を超え人体の知覚できる速度を容易く超える。


 ×字にクロスさせた斬撃が、衝撃波による破壊を伴いながら彼の――勇者リオスの敵へと超高速で飛んで行く。 

 海を割り、大地を裂く、世界を圧倒するだけの一撃。


 その一撃を前に、勇者リオスに相対する男は――


「聖魔剣創造」


 男が呟くと、空間に歪みが生じた。

 それは黒い顎であった。

 ギシギシと本来の空間が軋りを上げ、噛みつぶされてゆく。

 取って代わるようにそこに現れたのは、虚ろな黒い空間だった。

 彼が無造作に手を伸ばし取り出したのは、一本の剣だ。



 その反りのある形状は、極東で作られる刀のそれによく似ていた。

 柄は刀身を囲む形で白と黒、二つの勾玉がはめ込まれているような形状になっており、紫色の鞘には蒔絵が描かれている。


 彼――イナリは取り出した剣を構え、鞘から引き抜いた。


 音すら鳴らぬほどに自然な抜刀。

 鞘から引き抜かれた刀には、黒と白がまだらになったオーラが纏われていた。


「エンチャントダークネス、ホーリーセイバー」


 男の剣から放たれた黒色の魔力塊が聖剣による一撃の威力を弱め、そして続いて放たれた光の刃は、二重に重なる勇者の斬撃を実にあっさりとかき消してみせる。


「学ばん子ぉやね。ご自慢の聖剣じゃあ僕に傷一つつけられんって、わかってるはずやのに」


 勇者に相対しているのは、黒い髪を短く切り揃えた青年だった。

 瞳が見えないほどに細いいわゆる糸目をしており、身体は細身で背は高く、姿勢が悪いため少し猫背になっている。


 上がった口角と、人を小馬鹿にしたような口調。

 自分のことをなんとも思っていないその態度に、リオスの顔は林檎のように赤く染まった。


 勇者は神に愛され、誰からも認められる存在だ。

 勇者として選ばれてからというもの、誰かにここまで虚仮にされてきたことはなかった。

 だが目の前の男――イナリだけは違った。


 リオスは何度も彼に挑み、そしてその度に真っ向からたたき伏せられてきた。

 次こそは勝つ。

 そう思いどれだけ激しい戦いに身を投じても、再び相まみえた時、イナリは自分の更に上をゆく。


 何度立ち向かっても超えることのできぬ壁を前に、リオスは己を鼓舞しながら剣を振るう。


 ユニークスキルによって強化された彼の連撃は、風を切り余波だけで近くの林の木々を切り刻むほどの威力を誇る。

 けれどその全てを、イナリは飄々とした態度を崩さず受け止めてみせる。


「畜生、なんで……なんで、まだ届かない!」


 鼻息荒く叫ぶリオスを見るイナリの視線は、変わらず冷ややかだ。

 呆れから軽く鼻から息を吐き、その所作がリオスの心を更にささくれ立たせる。


「そないなこと、言わんでもわかるやないの」


 鼻歌交じりに防御をするイナリ。その動きの一つ一つが、リオスの神経を逆撫でる。

 人の悪い、人を食ったような笑みを浮かべるイナリ。

 彼の口から放たれた言葉は、リオスが勇者として積み上げてきた今までの全てを否定するほどに、彼の心をささくれ立たせるものだった。


「――君が僕より、弱いからや」


 残像を残し、イナリの姿が消える。

 慌ててその姿を探そうとするリオス。

 彼がイナリのことを捕捉した時には、既にイナリの剣は彼の身体へ突き立つ直前だった。


「桜花乱舞」


「がああああああっっ!?」


 白黒の混じる混沌の剣がリオスの身体に突き立つ度に、桜のエフェクトが現れる。

 リオスの身体に傷が刻まれる度に新たに桜が咲き誇り、そしてその花弁が光に溶けて散っていく。


 イナリの持つ固有技、桜花乱舞。

 本来であれば勇者の肌に傷一つつけられぬはずの連撃は、リオスの全身から鮮血を吐き出させる。


「これで、しまいや」


 納刀をすると、ガラス質の柄が鞘に当たりチンッと軽い音を立てる。

 軽く息を吐きながら、地面に倒れ伏す勇者の姿を見る。

 彼は白目を剥いたまま気絶していた。

 どちらが勝者なのかは、一目瞭然だ。


 本来であれば土に塗れたのは僕やったんやろけど……堪忍なぁ。


 心の中でそう独りごちるが、彼が内心の思いを言葉に出すことはない。

 それはイナリ――サイオンジ家当主、イナリ・サイオンジが口に出していいものではないから。


「ふうっ……やっぱり、なんとかなったなぁ」


 スッと目を細めながら、着ている袴着をパタパタとあおぐ。

 彼の顔には余裕が張り付いている。


 血の滲むような努力を繰り返した上での勝利ではあったものの、それを匂わせることはない。

 白鳥が水面下のバタ足を誇ることほど、無粋なことはないからだ。


「やっぱり僕、すごいなぁ。勇者相手にも勝てちゃうんやもん」


 本来であればイナリの人生は、ここで終わっているはずだった。

 勇者リオスとの四度目の戦い――魔王に魂を売り渡し魔人薬を使って魔と堕したイナリは、聖剣の力を使いこなすリオスになすすべもなくやられるはずだったのだ。


 けれど蓋を開けてみればどうだ。

 イナリは無事、リオスを倒すことができた。

 本来であればありなかった運命は、今ここに切り開かれたのだ。


「思えばここまで来るのに、ずいぶん時間がかかってしもたなぁ……」


 彼はこの三年間の長い道のりが脳裏に浮かぶ。

 中でも一番最初に思い出したのは、彼の第二の目覚めの瞬間。

 自分がエセ関西弁糸目悪役貴族という属性マシマシなかませ犬キャラに転生したと気付いた、あの日のことだった――。





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